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第16話  忍び寄る影




「5か……襲撃するのなら数が少なすぎるな。偵察……か?」


セグナの呟きに、私の心臓が跳ねた。


「『襲撃?』」


しまった!加護のせいで動揺がそのまま口から漏れた。一瞬で顔を凍らせるナタリーとアイラ。どうやら、そのせいで二人に更なる緊張感を与えてしまったみたい。


「ヒース!!」

「・・ん?」


「行けそうか?」

「問題無い・・」

セグナは、額当てを首まで下げ、少し緊張した面持ちで座り直した。


「殺すなよ、情報を聞き出せ」

「わかってる・・」

ヒースの短い返事と共に、馬蹄の音が暗い夜の森の中へと溶けてゆく。


「何か、あったの?」

「あぁ、だが心配はない!大した事では無いが、気になるからヒースに少し(やぶ)を突かせに行ってもらった」

心配そうに見つめてくる私を尻目にセグナは、自信をもった顔つきでそう答えた。


「藪?!藪はダメでしょう!」

「ふふ、そうだな」

彼女の笑顔と冗談に少しだけ安心したが、ひとりで行ったヒースが心配だ。


「ヒースひとりで大丈夫なの?」

「あぁ、ヒースなら大丈夫だ。森の中での戦闘であいつに敵うヤツなんてそうはいない。だからひとりで行かせる心配よりも、あちらが(おとり)の可能性を警戒すべきだ」


「戦闘って……」

命の取り合い……私が過ごしてきた現世では程遠い事態だけど、そう珍しくないのが、この世界の現実だ。


「お、お嬢様……」

「うぅ、怖いです」

ナタリーとアイラが、半身ずつ私に寄ってきた。私たちはただ事態を見守るしかない。余裕の表情のセグナに対し私たち三人は不安を隠せないでいる。


「大丈夫!心配しなくてもいい。その為の私とヒースだ!ただ、こちらが想定していた以上に向こうが早く行動しているがな」

「それはいったい何なの?」

その質問に対し少し困った様子のセグナ。


「―――すまない。私たちには守秘義務があるからな。だから詳しくは言えないが、そうだな……降りかかる火の粉は早目に払う方がいいと言う事かな」


質問に対しての答えはもらえなかったが、どのみち知ったところで何かの役に立つわけでもない。いい話でないことは確かだと思った。


私は、それ以上の追求はせず、このまま事態を見守る事にした。


セグナは御者(ぎょしゃ)にスピードを半分くらいに落とすよう指示し、辺りをもうひとつの目でゆっくりと見渡しているようだ。


何もしていない時のセグナはカッコイイお姉さんって感じだけど、この姿を見るとやっぱり彼女も「魔族の騎士」なんだと、あらためて思った。


「ん?!もう、終わったのか?早いな」

夜の森が呑み込んだ静寂を切り裂いて、蹄の音と共にヒースが戻ってきて、再び並走し始めるために馬車の後方へ着いた。


「うん!どうやら片付いたようだ!」

セグナは再び御者にスピードを上げるように指示をし、額当てを首から戻した。


窓を開けて後方を気にしている。どうやらヒースを待っているようだ。


しばらくしてヒースが追いついて来た。

「早かったな。どうだった?」


「問題無い・・5Dだ!」

「5D?!KじゃなくDか?」

驚くセグナ。D?K?何の事?隠語なのかな?


「あぁ・・KじゃなくD・・報告は後にする・・」

「わかった、ご苦労!」


「それと・・」

そう言うとヒースは、手にして何かをセグナに投げ渡した。


「これは?」

「5人とも・・身に付けてた・・」

渡された物をじっと怪訝そうに見るセグナ。


「小さいが魔石が埋め込まれている……ん?!割れているな、使用済みの魔道具か―――わかった預かっておく」

ヒースが、離れ馬車と並走を始めた。


「もう、大丈夫だ。心配無い!」

心配そうな表情で見つめてくる私達に、セグナは真剣な表情を緩め、笑顔でそういった。


「「「良かった〜っ」」」

私たちは気が抜け三人で仲良くもたれかかった。


「しかし何の魔道具だろう?あまり見かけない魔道具だな……」

セグナは魔道具をまじまじと見て、一瞬、怪訝そうな顔で(つぶや)いた。そんな彼女の表情に、さっき、『大丈夫だ』と言われたが、なぜか胸が強くざわつく。


騒動は収まったが、まだ消えない不安を抱えた私を乗せ、馬車はまるで何事もなかったように目的地、ローランツとハイメの待つ屋敷へと急ぐのだった―――。



あれからどのくらい経っただろう?私たちが、何気ない会話をしているうちに車輪から伝わる振動が滑らかになった。


どうやら馬車は森を抜けて街中へと入ったみたい。車輪から伝わる感じが、さっきまでとずいぶん違ったのは、そういう訳だったんだ。


暫くして御者がもうすぐ着くと報告してくれた。


馬車は、夜の街でも一際目立つアルカイド家の屋敷へと、ゆっくり滑り込んだ。


馬車が止まると、ローランツとハイメが飛び出してきたが、王族専用の馬車を見た瞬間、二人は彫像のように固まった。


そりゃそうよね。今朝、送り出した娘が、魔族のしかも王族専用馬車で帰宅したんだから無理もない。

(ごめんね。パパ、ママ!!)


私はこの異常事態の説明をしようとしたが、ハイメが「お茶を用意して待っていた」と、セグナとヒースも一緒に奥の部屋へと招き入れられた。


ひと波乱はあったものの、私たちは無事、家に帰ってくることができた。


こうして、手掛かりを見つける為に飛び込んだベルンツは、私の予想を遥かに超えて、幕を引いた。


―――けれど、その舞台裏ではもう、次のステージの幕開けに向けた準備が整いつつあることに、この時の私は、知る由もなかった。







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