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ラブコールは銀河から――僕が地球代表だそうです  作者:


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拉致されたのか?

「それで山田さん。その後の離脱経験は?」


「いえ、全くできませんでした」 


「つまり、体験は偶然で一回きり、何だったのかはわからない。そして再現しようとはしたのね」


「そうです」


「どうやって?」


「目を瞑って、抜けろーって念じるとか」


 三人は、「ぬるいな」とつぶやいた。


 しばらく無言で茶をすする音が会議室に響いた。


「少しの期間、離脱研に協力を頼めないかしら。体験の細かい部分を聞き取りたいし、再現の実験もしてみたいの。とりあえず、二週間くらい」


「納期が近い仕事があります。申し訳ないですけど、それは無理です」

 山田がそう言うと、井口はにっこり笑った。


「大丈夫、これ以上に優先度の高い仕事はないから。会社にはこちらから、適当な事情を連絡しておくわ」


 そして、そのまま山田に研究所の一室が、私室としてあてがわれた。

 唐突に、そこでの生活が始まったのだった。強制連行からの留置所送りと、どこが違うのだろう。

 人権団体に通報してやろうかと考えたが、身バレしたくないので、それもできない。


 しかも、「機密部署に付き、携帯持ち込み禁止」と言われ、携帯を奪われてしまった。

 それがないと、世間と繋がれないだけでなく、会社の電話番号もわからない。

 もしかしたら、無断欠勤になっているのかもと、気が気ではない。


 根ほり葉ほりで体験を何度も語らせられた。

 再現実験と称して、体力の限界まで運動した挙句、頭を使う問題を解く、という苦行を何度も行った。


 一度は実家での実験まで行われた。

 これらの一連の実験で離脱は起きず、五回目でやっとあきらめてもらえれた。


 その替わり、今度は素質のありそうな人物を対象に、同様の再現実験を行うことになった。

 山田の実体験を活かし、離脱を起こさせる方向にシフトしたのだ。

 その対象者は、立花、小森、水野の三名だった。

 川原はすでに脱落し、対象者から除外されている。


 ランキング一位になった時期、川原を『救世主』と崇める教徒たちの、過熱ぶりが問題になった。

 それを鎮めるために、政府は川原の喧伝している体験が、他者のネット記事の模倣であると公表したのだ。

 一気に上がった熱は、一気に下がった。元よりずっと下まで。

 そして川原は表舞台から消えた。


 おかげで本物の体験者、つまり山田の存在が、ある意味公になってしまった。


 『素性は分からないが確かに体験者がいて、政府がその存在を把握している』


 世間の見方はそういう方向に向かった。

 そしてなぜか、かなり事実に近い噂が広がって行った。つまり、実際に離脱体験をした人間が離脱研に協力し、解明に当たっている、というものだ。


 各国メディアは必死になって、謎の人物を探っていた。

 山田の会社では、一応緘口令が敷かれていたが、誰も外に漏らす者はいなかった。

 そのことが山田には不思議だった。

 どんな理由を会社側に告げたのかは、未だに聞けていない。

 

 そんな中、国際会議が開かれた。

 調査に関する総責任者、木山防衛大臣は、その日、胸を張って会場を見回していた。

 日本は今日、大きな成果を発表できる。つい先日までは、支離滅裂な会議になると思い、彼は冷や汗をかいていたのだ。


 調査を押し付けられた木山防衛大臣は、会議前の臨時閣議で、自分にこの役目を 押し付けた者たち相手に成果を自慢しまくった。

 押し付けた側の日野と今井は、苦笑いしながら拍手を送った。その他の無関係な者達は、手放しでこの成果を歓迎した。


 各国の代表を迎え、挨拶を交わしながら、木山は感慨無量だった。 

 数国が、体外離脱の経験者を伴って来ていたが、その数は少ない。

 なにせ、体外離脱したことを、証明できる人間はいないのだ。


 まずは議長国、日本の挨拶は日野が行なった。ファーストコンタクト以降、銀河連合といえば日野、と強く結びつけられてしまっている。

 現在の彼の肩書きは、『地球側交渉団代表』だ。


 日野は、以前より風采が上がり、白髪混じりの髪はツヤツヤとしている。

 ストライプのネクタイがトレードマークの彼は、今日は天の川銀河連合のマーク入りネクタイを選んでいる。

 世界中からダンディ日野と呼ばれるようになって、更にオシャレに気を使うようになったようだ。

 

 会議のトップバッターは日本で、まずは日本の進捗状況が発表された。


「国内では体外離脱の経験者は五人見出されています。本会議には、その内の三人に出席をお願いしています」


 そして三人が立ち上がり、紹介された。各々が軽く会釈して着席する。立花は爽やかに、小森は派手に、水野は妖艶に。

 三人三様だが、どの人物も非常に存在感が大きい。


 山田は今回、付き人の立場で参加し、三人の姿を、他の日本人スタッフと一緒に見ていた。


「残念ながら、宇宙に飛んだという自覚を持つ者はいません。なぜなら、離脱後の行動の記憶がないか、曖昧なためです」


 場内はざわついた。

 それならこの三人の内の誰かがその人物かもしれない、皆そう考えているようだ。


「だが、ただ一人だけ、離脱期間の状況を、覚えている者がおり、その者から聞き取った内容を、ここに紹介します」

 ざわめきは一気に大きくなった。


 そして山田の体験内容が滔々と語られた。

 黒い空間にいた時間が数秒であることから、ファーストコンタクトの人物かという点では微妙だが、宇宙に出た可能性はある、と締めくくられた。


「オオッ」という声が上がる。

 会場は盛り上がった。

 人々の期待に満ちた目が三人の上を行き来した。


 山田は出なくて良かったと胸をなでおろした。あそこに並んでいたら、身の置き場がなかっただろう。


 発表者が先を続けた。


「現在はこの体験に基付き、離脱の実験を他の人にも試してもらっています。離脱中の記憶を維持できれば、色々な事が解明できるでしょう」


 その後、他国の研究結果が続いて発表されたが、山田の体験以上の、リアリティとインパクトを与えるものはなかった。

 これによって、日本政府としては、十分に面目を施した会議となった。


 この会議のニュースで、離脱体験は、体と頭に負荷を掛けた結果、起こったものなのだということが広まった。


 その後、自分も体験してみたいと思う人達の間で、この修行が流行り始めた。

 まず体に十分な負荷をかけ、その後、暑い部屋で頭に負荷を懸けつつ虫の音を聞く。

 これを実行して、意識を失う人が何人も出た。

 危険なので、安易に真似しないように、というコマーシャルが政府広報から流された。

 それでも、倒れる者、救急車で運ばれる者が絶えなかった。

 なにせ、比較的簡単に、誰でも出来る方法なのだ。これは、止めようがない。

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