天の川銀河連合富士山麓会議2
場が和んだ所で、疑問に思っていた事を聞いてみた。
「貴方がたは地球人にとても似ているが、天の川銀河系はそうなのですか?」
最中にご満悦そうなビーンが朗らかに答えてくれた。
「色々な種族がいますが、基本は直立で頭と四肢があるこの形状です。惑星によって違いはあります」
「ほう。頭が大きくて手足が細い種とか、タコのような形状の種はいないのですか?」
エリア五十一や、ベルヌの火星人襲来などを思い浮かべ、日野は訪ねた。
「始祖がこの形状だったのです。そこから銀河中に広がっていったので、基本は同じですよ」
そう答えてから、少し考えながら言う。
「頭が大きくて手足が細いのは、ある時期、この惑星の探索を受け持っていた種族かもしれません。確か地球人の半分ほどの身長です」
何人か捕まって実験対象にされたとかいう噂を、日野は思い出した。
チラっと隣の宇宙開発局の局長を見ると、さっと目をそらされた。
「その種族だと、見つかったときに言い逃れできないので、今は別の種族が担当しています。地球の美的基準から言うと、かなり美形の多い種族です」
「それは目立つでしょうなあ」
「そういった話も、この先詰めて行かないといけませんね」
どうやら地球には宇宙人がある程度来ているようだ。
「我々はかなり近い容姿なのと、ご近所なので、今回の代表に選ばれたのです」
「はあ。良く考えられていますなあ」
「ファーストコンタクトのマニュアルがあって、それに従って準備をするのです」
「マニュアルですか?」
「2年ほど掛けて相手の文化や状況を調査し、派遣する星を選び、教育し、言語の翻訳機を作ります。今回は地球の日本国にピントを合わせました」
「あ、それでスーツに名刺交換か」
深く納得した。
「それだけ研究されたなら、技術力のレベルもおわかりになったでしょう。おかしいとは思わなかったのですか?」
「議論は有りましたが、事実は事実です。それにあれほど興味深い事件を放っておくことはできません」
ついでに先ほどの宇宙船からの降下について聞いてみた。
「宇宙船から降りる様子が、地球で作られた映画のシーンにそっくりで驚きましたよ」
「ああ、あれはサービスです。地球の映画の感動的なシーンを真似ました。通常は転送で地上に送ります。私達はこれのために、重心を崩さないように降りる訓練をしました」
朗らかな質なのだろう。
ビーンは笑いながら自慢げに答えた。
つまりサービスとしてのショーアップというわけだ。
「ありがたい。いいものを見させていただきました」
中継で見ていた地球人類全てが、そう思ったことだろう。日野は地球人を代表して感謝を伝えた。
「技術の話は私にはさっぱりですが、何か進展はありましたか? 銀河レベルと比べ、だいぶ低いと思いますが」
「いいえ、分野によっては突出しているものもあるので、新しい惑星の参入は有意義なのです。ただ宇宙工学に関しては遅れていますね。あの飛行物体は……全くの謎です」
ああ、やはりそうかと日野は頷いた。
「人間の霊魂は、1日に三千里を走るって言うから、霊魂が飛び出したのかもしれませんね」
だいぶ気分が楽になった日野は、そう言って、ハハハと笑った。
その日野を宇宙人三人が真面目な顔で見つめている。
驚いて説明を加えた。
「あの、昔からある俗説です。おとぎ話の類です。おとぎ話ってわかりますか?」
マナが大真面目な顔つきで話し始めた。
「学者の中に、肉体か精神のみで飛来して来たのではないか、と唱えた者がいます。動きが有機的すぎるというのです」
ただの場を和ませるための与太話なのに、真剣に受け取られて慌てた日野は、米軍関係者に丸投げすることにした。
「米軍ではESP研究が進んでいると伺っています。何か見解をお持ちでしたらお話しいただけないでしょうか」
いきなり振られた米軍将校は、慌てて口の中にへばりつく最中の皮を、お茶で流し込んだ。
「そんな部署があるとは聞くが……」
将校はしばらく考えていたが、あきらめた様子だ。
「いや、私たちも全くの畑違いです。学者の意見を伺ってはどうでしょう」
御鉢を回された学者たちも、非常に迷惑そうな表情をした。
「知りません。私たちの専門は宇宙工学ですから」
つまり今この場所には、答えられる人間が一人も居ないのだ。
日野は態度を改めてきっちりとマナに向き合った。
「専門的な話は次回へ持ち越させてもらうしかありません」
そう持ち掛け了解を取り付けた。
そして、参考のためにいくつか聞いておくことにした。
「貴方がたはシールドを張っていると仰っていましたが、それと同じような物で宇宙空間を飛べるのでしょうか」
今度は若手のニムが説明してくれる。
技術面担当なのだろうか。
「今のシールドでは無理です。宇宙空間用のスーツはありますが、惑星への突入には耐えられません」
何でもできるように見えていたが、そうでもないようだ。
日野はなんとなく安心した。
「地球では、体外離脱という言葉があります。実際にできる人間に会った事は無いが、一般的な概念なのですよ」
「不思議ですね。実際にあるから、その言葉があるのではないですか? 我々はそんな話を聞いた事がありません。体から意識だけを切り離して活動できる生物。驚きです」
米軍将校が不思議そうに首を傾げた。
「アメリカではあまり聞きませんよ。似ているので言うと、悪魔付きかな。悪魔が人の心と入れ替わると言いますが」
日野は驚いた。
日本人には一般的な概念だ。
なにせ千年前の源氏物語には、体外離脱殺人事件が書かれている。
それが仏教思想なのか、実際に出来る人間がいたのかはわからないが。
そんな事を考えていると、ニムがまた話し始めた。
「次回はESPと体外離脱についてですね。新方式の航行技術の可能性がない事は、確定しました」
こうして、初回会議は無事に終了した。
その後の騒ぎは凄いどころではなかった。次回の会議のタイトルがこれだ。
『体外離脱での飛行の可能性を探る』
この見出しで驚かない人がいるだろうか。
◇山田視点
道行く六歳くらいの子供が母親に、「体外離脱って何?」と可愛い声で聞いている。
「身体から魂が抜けるのよ」
小学生くらいのお兄ちゃんが、「それ、死んだって言わない?」と突っ込んだ。
「体外離脱は、生きて戻るのよ」
「復活? リセット?」
「……おまけ付きのお菓子、1個だけ買ってあげる」
母親は説明をあきらめたようだ。
巷ではそんな会話があちらこちらで交わされているという。
山田太郎の勤める会社でも、この件は仕事そっちのけでの大論争になっていた。
出社すると、松岡主任が、滔々と持論を述べていた。
「臨死体験。それに決まっている。きっと死にかけた人の魂が飛んだのさ」
いつもの論戦相手の浅田課長が反論をかます。
「それじゃ、何人も行っているだろう。今回が初めてだなんてありえないよ」
松岡主任が、「じゃあ何だって言うんですか!」と突っかかる。
浅田課長は少しもったいを付けてから、ぽつりと言う。
「幽霊だよ」
(はあ~、くっだらない)
山田は脱力した。
聞いていた他の者達も、しらけたような顔をして散って行った。
そして思い思いにまた集まり、好き勝手な事を言い始める。




