天の川銀河連合富士山麓会議
中継中継は続いている。
名刺交換ができないため、場違いな感じになった首相は、挨拶だけ述べてWEBを退席した。
全員が椅子に座り、かろうじて気を取り直した官僚が場を仕切り始めた。
「では、地球側メンバーの紹介を行いますので、その後そちらの紹介をお願いします」
会議はよくある感じで淡々と進んでいった。
紹介後、日野が第一声を発した。
「私は日本の外務大臣、日野俊彰と申します。本日は日本及び地球の代表として、この会議に臨みます。よろしくお願いします」
まだ会場内の誰もかれもが緊張でガチガチだ。撮影クルーのカメラが小刻みに震えている。
日野は場を和ませようとした。
「本日は天候も良く、日本の誇る富士山を十分にお楽しみいただけたことと思います」
これは日本で会議をするときの、日野の鉄板フレーズだ。以前はマウントフジ、ニンジャにスシだったが、最近はラーメン、ギョウザも強い。
古くてダサいがゆえに肩の力が抜けるらしく、喜んでもらえる。
相手は宇宙人。何をどう感じて、何を喜ぶのかまるでわからないので、今日は富士山を選んだ。
「綺麗でコントラストが楽しい山です。毎日楽しみに見ています」
幸いマナが富士山の話題に、嬉しそうに乗ってくれた。
それで周囲の緊張がほんの少し和らいだ。
日野は素直な気持ちを、地球を代表して告げた。
「あなた方の来訪に、我々は非常に驚きました」
「はい。我々も、この島からやって来た船に非常に驚きました。意味合いは違うと思いますが。我々はその異質さに驚きました」
その来訪した船、というのが地球の船ではないと相手に認めさせるのが、日野の役目の一つだ。
日野はフッと息を吐いて腹に力を貯めた。
「そちらは、地球に天の川銀河連合への加盟を勧めにやって来た。それで間違いないでしょうか」
有能なビジネスマンのような雰囲気のマナが、我が意を得たりというように首を縦に振った。
「そのとおりです。ぜひ加盟願いたい」
「地球としては、それを前向きに検討したいと思います」
「ありがとうございます。その際には、三年前に天の川とアンドロメダの間に突然現れた船の船長を、そちらの特使としてください」
日野は返答に詰まり、一拍置きごくりとつばを飲んだ。
「そこで辻褄が合わなくなるのです。地球のテクノロジーでは無理です。我々の推測ですが、地球に来ていた他星人ではないでしょうか」
残念ながらどう頑張っても、そんなことが出来る国は、地球上に無い。
目が座っている日野に、ビーンが反論した。
「あの飛行軌跡のパターンは登録されていません。つまり連合内のものではないのです。未知の銀河系から地球に来たなら、その時に監視システムに引っかかるはずです」
「でも地球のものでもありません。それは疑う余地なしです」
「地球で星間飛行が一般化されていないことは分かっています。そこに矛盾があるのですが、我々はこの惑星のオリジナルな能力かと考えました。あまりに異質で、推進力の特定すらできていないのです」
「なるほど。そういう事ですか」
だいぶ期待されていることは分かった。
だが何かの間違いの可能性が高い。
その場合この話はどうなるのだろうか、と日野は考えた。
地球のテクノロジーが、天の川銀河の平均に辿り着けるまで延期かもしれないが、それも悪くない。宇宙人がいて、銀河連合があることがわかっただけでも十分なのだ。
落ち着いてきた日野は、その未確認飛行物体に付いて、詳しく話してもらえないだろうかと提案した。
それを受けて、ビーンが日時や場所、飛行経路等について説明を始めた。
「船は完全なステルス状態でその場まで飛んできました。だが停止した場で莫大なエネルギーを放出したので、それを宇宙局の監視レーダーが捕捉しました」
「どこかで極秘開発されたものでは無いのですか?」
地球上では、そういった大がかりな動きは察知される。だけど広い宇宙なら、隠れて実験ができそうだ。
「それは出来ません。監視システムがありますし、あれほどの新規技術の開発や実験は、必ず他所に漏れます」
やっぱり地球上も宇宙も同じことか、と一瞬感慨に浸った。
そして今まで通り、ここで話は行き止まりになるのだ。
この先は具体的なことになるので、中継クルー達は引き上げさせ、日本の諜報機関だけで撮影を続けた。
映像は、後日、各国政府に送られる約束になっている。
この日、中継が終わると、興奮したコメンテーターたちの討論会が始まり、結局多くの人がテレビ画面に張り付いたままになった。
たまにまともに仕事をしようとした者もいたが、取引先と電話が繋がらなくて諦めた。
山田はそのうちの一人だった。
その後は技術面の話になり、たまに軍事面での話が交じり、日野は置き去りにされた。
しかし全世界に向け、日野が会議を仕切る姿を示せたのだから、もう後はどうでもよかった。
日野はゆったりと椅子に寄り掛かり、余裕を持って周囲を眺めた。やっと普通に息が出来るような気分だ。
休憩を挟むことになり、各々の前に日本茶と最中が出された。
さて、異星人にこれは受け入れられるのだろうかと、日野はにやついた。
最中を一口食べて、二ムとビーンの顔がパアッと明るくなった。
マナはウ~ンという顔だ。
横にいた米軍将校が、「ケーキのほうが良かったのでは」と耳打ちしてきたが、苦笑いで無視した。
人類と同じ物を食べるかどうかも分からない状況だ。
だから自分の好物にしてもらったのだ。
本当はどら焼の方が好きなのだが、あまりに庶民的な絵面になってしまうので止めておいた。
米軍関係者の半分がマナと同じくウ~ンの顔をしている。
(嫌なら食うな)
日野は心の中で突っ込んだ。




