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ラブコールは銀河から――僕が地球代表だそうです  作者: 羊宮 玲(旧 羊)


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出発と襲撃

◇ 日野視点


 翌朝早く、ジェイたちを乗せた船は静かに地球を出発した。


 同日の昼過ぎ、おとりの船は華やかな出発のセレモニーを行なった。

 そして大きく輝く光を点滅させながら、ゆっくりと上空に昇っていく。


 その様子を使節団一行は、特別室のモニターで見ている。

 そこにいるのはKカルテットの四人のみだ。


 日野はマナたち使節団と打ち合わせ中。

 高橋は船のクルーに大歓迎され、メインデッキで研修と称して遊んでいる。


 事務官たちは地球に送る報告書の作成で、一室に籠っている。それが出来上がったら、高橋が宇宙船から地球に宛てて送信してみるそうだ。


 山田は久しぶりに、素のままで気を抜いて過ごしていた。

 最近ジェイとしての時間が、以前よりぐっと多くなっていた。


 それまでは、短時間だけジェイを演じればよかったのが、ジェイのまま一日を過ごすこともある。その間立ち居振る舞い、表情、声の全てを演じているのだ。

 山田は自分にこんな芸当ができるとは、思ってもいなかった。 


「山田さんは我が強くないから、色を変えやすいです。役者さんで、役ごとに雰囲気が変わる人と、何をやっても本人が前に出る人がいるでしょ。あの違いですよ」

「役ごとに性格や仕草を変えるなんて、器用ですね。僕はジェイだけで精一杯です」


 立花とそんな会話をしたことを、山田は思い出していた。


 今山田は力を抜き、ちんまりとソファに座っている。

 こういった休憩がないと疲労で倒れそうだ。


「ねえ山田さん。全然ジェイに見えないわ。最近よく見かける、ジェイを真似た若者の一人にしか見えない。どうやっているの?」

 綾乃が山田をジロジロと眺めまわす。


「気を抜いて、普通の僕に戻るとこうなるんです。ジェイになるときは、今からはジェイだって自分に言い聞かせます」

「自己暗示かな。さすが精神エネルギーの強い人は違うね」

 小森は笑いながら、目の前の皿に盛られた菓子をつまんだ。


「なんていうか、味が中途半端だな。宇宙人たちが餓鬼のように、食べ物に執着したのも頷ける」

 山田も一つ口に運んだ。

 硬めの固形物で、まずくはないけどうまいとは言えない。

 これでも高級菓子だそうだ。


 地球の食レベルを知ってしまったマナたちは、非常に申し訳なさそうな表情で言った。

「たぶん満足いただけないと思います。この船にいる間は、加工した物なら問題はありません。好みの物を積んでください」


 それで地球人使節団一行は、ハム、ソーセージなどの肉の加工品と、パンやクッキー、缶詰類にピクルス、酒、コーヒーを積んでもらった。

 それ以外にも、この船には地球の食料品を積んできている。生ものは禁止だそうで、菓子類が多い。


 非常に貴重品扱いされ、土産物用に倉庫を丸まる一個使い、満杯に積み込まれている。

 クッキーやチョコレート、キャンディー、せんべい。

 あるメーカーのチョコレート菓子が大受けして、それは段ボールで積んである。


 綾乃も一つ口に放り込み、顔をしかめた。

「私、地球からは出ないことにするわ。ところで山田さん。その気になればジェイになれるなら、そのままジェイでいたら良いじゃない。どっちも山田さんでしょ」 

「ジェイには違和感しかないです。別人格みたいなものだし、知り合う機会があっても、友達にはならないタイプです」 

「ふうん。ややこしいのね。私には理解できないわ」


 綾乃は思いのままに生きている女性だ。わがままだし言いたいことは、はっきり言う。だが邪気がないせいか、さらっとしている。

 そしてたまに素直だ。


 そう思うと色っぽい綾乃が急に可愛く見えた。

 山田は自分の気持ちの動きに慌て、綾乃から目を背けた。


 そんな山田には気づかずに、綾乃はモニターをうらやましげに見ている。

「華やかで感動的だわ。私もあっちに乗りたかったわ」 

 綾乃がぼやく。


「そうだなあ。美女たちに囲まれて宇宙の旅か。夢だな」

 小森もそんなことを言っている。

 山田は笑ってしまった。


「あちらに着いたら、また合流するでしょ。数日のことですよ」

「そうよね。みんなただの護衛候補じゃなくて、結構な要人揃いだもの。この先もなんだかんだで会うかもね」

 

 地球を出てから三日が経ち、ワープを何回かしてアルファケンタウリの周囲を大きく回って反対側に来た。そこまでの旅は順調で、特に行く手を阻まれることも無く進んでいる。


 囮の船は想像通り、一回目のワープ後に周囲を囲まれ、そこから動けなくなっていた。ワープポイントが混雑しすぎて、迂闊にワープできなくなっている。そのせいで、通常航行で逃げ回っているらしい。

 マナは自分の読みが当たったとほくそ笑み、ご機嫌だ。


 先程、もう一回ワープしたら、アルファケンタウリまで半日程度の地点に到着するとアナウンスが流れた。

「あら、最後のワープね。やれやれだわ」

 そう言いながら、綾乃が薬と水を飲む。


 地球の使節団のメンバーは、ようやくワープに慣れてきていた。ワープに備えて薬を飲むことになっている。

 山田は水の入ったコップをテーブルに戻し、椅子に座り直した。


 しばらくしてワープが終わると、ようやく到着かとほっとする。

 そこに突然、緊急警報が鳴り始めた。

 驚いている内にマナが駆け込んできた。


「不審な艦が前方に出現しました。緊急体制に入ります。大丈夫だと思いますが、最悪の場合小型高速船で逃げていただきます」

「それなら私が操縦してお連れします」


 サシムが率先して言う。いつも一歩下がっているサシムにしては珍しかった。ケリーとフロンが少し驚いている。

「ブリッジに集まってもらいます。状況がまだはっきりしていません」

 マナに先導され、ブリッジに案内される。

「相手はどこの船かわかりますか?」

 マナが聞くと、サージが首を振った。

「応答しません。それに艦名も不明。単なるファンの追っかけではなさそうです」

「まさか、アンドロメダですか?」

「さあ、もしそうなら極秘の最新艦ということです。こちらの防衛情報に上がっていませんから」 


 慌ただしい動きの中、船長のサージがこちらを振り向き、安心させるように微笑んだ。

「状況確認中ですがご安心ください。最新式のシールドを張っています。これを突破できる装備を持つ船は、めったにないはずです」


 フロンが何か考え込んでいる。

「少し前に、このシールドに食い込める破壊砲の依頼があったのよね。なんだか嫌な偶然ね」


 フロンの言葉にサージがピクリとし、すぐに叫んだ。

「回頭、全速前進、ワープ開始。ワープ先、C―0ポイント」

 出てきたばかりのワープ地点に突っ込んだ。


 ビームが届く直前に潜り込むことができたらしい。後方に眩い光が追ってきていた。

 ワープを抜けて一息ついたところで、サージがきっぱりと言った。


「本艦の任務は使節団を無事に送り届けることです。逃げられるなら逃げます。また遠回りになりますが、これで大丈夫」


「艦長。ワープ感知。三十秒後、出現」

「ワープ。D―2」

 もう一度、ひゅんっと体に負担がかかった。


 山田はしばらくじっとして、体の重みが取れるのを待った。

 地球からのメンバーで立花と山田以外は、連続のワープで体調を崩したようで、床に座り込んでいる。

「追ってきていますね。ワープ先は追跡出来るものですか?」


 サージに尋ねると、こちらを向いたサージは困惑顔をしていた。

「そんなはずありません。つまり偶然ではない。なんらかの信号がこちらから送られているようです」


 そう言うなり、サージが命令を発した。

「この艦からの信号を調査、解析」

 それと被せるように報告が上がった。

「ワープ感知。三十秒後、出現」

「逃げても無駄ってことね。シールド最大」

 その声に被せるようにフロンが叫ぶ。


「それ、もっと強くしたほうがいいかも。新作には予備回路を組み込んであるの。もう一段出力を上げて!」


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