選抜大会
次の種目は射撃。
会場に標的がずらっと並べられた。
まずはピストル射撃の腕を競ってもらう。地球人の襲撃者を想定し、護衛にはピストルを装備してもらうことになったためだ。
それとクレー射撃。
動く的を撃ちぬく競技だが、これは銀河の最新式と言われる銃での競技になった。より実戦的な状況を想定している。
ズラッと並んだ的の前に、ズラッと並ぶ美男美女たち。きりっと引き締まった表情が美しい。
合図とともに、一斉に射撃がおこなわれた。
轟音が鳴り響き、その後に静寂。
どの的も、中心が綺麗に打ち抜かれている。
「全員、満点です」
係員の声が上がった。
「凄いけど、これじゃあ選べないな。本当に優秀な人材ばかりなんですね」
日野が感心して言うと、マナが苦笑した。
「銀河中で最強の者たちです。動かない的を撃つのは、まあね。次のクレー射撃で、少し差が付くと思いますよ」
言った通り、クレー射撃では差が出た。かなり難易度の高い設定になっていて、しかも撃ってはいけない皿が混じっている。
五十人中、満点で通過したのは三十二人だった。
その結果にはほっとしたが、銀河最新式の銃の性能にはぞっとした。
拳銃位の大きさの流線型の武器は、飛んでいる皿を音もなく消した。これを生物に使った場合、どうなるのか。消えてしまえば殺人の証拠もなくなってしまう。
逆に一部分だけ消えるのだったら、それは想像するだに……想像したくない。
なんとなく静かになってしまった会場を心配し、マナが教えてくれた。
「この銃は、出力調整が出来ます。今は、結果が分かりやすいよう、最大出力で使っています。出力を絞れば、軽くしびれさせるくらいの使い方もできます」
日野はその言葉を会場にアナウンスしてもらった。気休めだが、気休めというのは大切だと知っている。
三十二人が次の体術での対戦に進んだ。
射撃競技で脱落した十八名には、Kカルテットの面々がねぎらいの言葉を掛けていた。
「せっかくだから、一緒に観戦しませんか?」
立花がクレー射撃会場から格闘技用の会場に向かう途中で、率先して声を掛けているようだ。
がっくりしている者たちも、それで大分、気を取り直している。
マナがそれを見てフワッと表情を和らげた。
「立花さんは、うまく宥めてくれているようですね。助かります。通信室の高橋さんといい、宇宙局には良い人材が揃っていますね」
「立花は特別ですよ。高橋主任もですね。ああいう人材は、そうはいません」
Kカルテットの方からわっと声が上がった。喜びの声と、がっかりした声の両方だ。
「女が好みだったか。残念」
「やったー、ほらやっぱり女じゃない」
立花とジェイが苦笑いしている。
「じゃあ、立花は?」
「私は、どうでもいいでしょ」
アハハ、と笑い声が上がる。凄く和気あいあいとした雰囲気だ。
「あれは、ジェイの性的な好みの話ですか? 想像していた色仕掛けとイメージが違うな。だいぶ開けっぴろげですね」
「まあ、たった一か月間程度の護衛任務だし、準備する時間も短かかったから、大部分は単に、優秀で美形の戦士を選んで送ったのでしょう」
「それなら気が楽だ。見ごたえのあるショーで宇宙人を紹介出来たし、ラッキーだったかな」
格闘技の対戦表が出来上がったらしく、それが掲示板に表示された。
対戦相手はくじ引きで選ばれ、一対一の戦いになる。男女の区別は無しだ。
これで三十二名が十六名になる。
広い会場に十六個のバトルエリアが設けられ、そこで一斉に対戦がはじまった。
開始の合図から一分で決着が付いた組から、引き分けで終わった組まであった。
格闘技の技は何でもありだったが、一瞬で片が付いたところなど、何が起こったのかわからない組がいくつかあった。目をぱちくりさせて見ると、片方が地面に伸びている。
日野が見てわかったのは、投げ技、締め技、キック、打撃など。
この回で二十名が残った。
この人数で椅子取りゲームはきついので、もう一回対戦が行われた。
十組が戦い、十名が勝ち残った。
椅子取りゲームに進むのはこの十名に決まった。
赤毛の迫力のある美女が、ジェイに向かって手を振った。
「ジェイ、絶対に勝ち残るから、待っていてね」
凄いアピールだ。
他のメンバーも同じように騒ぎ始めた。
肩を落として観客席に戻って来た二十二名は、Kカルテットの四名を囲んで観戦している者達の所に寄って来た。
「先に負けたのに、なあに? 何か楽しそうにしてなかった?」
「ほっとけよ。こっちはKカルテットの皆さんと楽しく観戦させてもらったよ。お前、相変わらず、右のストレートを出した後で、ガードが甘くなるな」
「そっちこそ、ほっといてよ。射撃へたくそなくせに」
顔知りらしき二人が、じゃれ合い始めた。
ふざけて手を出し合っている内に、男がジェイの方に倒れ込む。
立花が咄嗟にジェイの前に出て、その体を片手で支えた。
「危ないですよ。ジェイを守りに来たのでしょ。つぶしちゃダメです」
笑いながら、男を立たせてあげた。
「すみません。っていうか、立花さん、凄く強いですね。俺より強いんじゃないか?」
「わっ、本当。何この筋肉。いやだ、隠していたの?」
立花を囲んで、ワーワー、キャーキャーと騒ぎ始めた。皆、力自慢だけあって、強い人間には敏感なようだ。
「私のは、軍事的な鍛え方ではないから、比べ物になりませんよ。ただ、少し丈夫なだけです」
「嘘だ。あのタイミングで、この馬鹿を片手で受け止めるって、かなりよね」
立花が困っているのを見て、ジェイが声を掛けた。
「椅子取りゲームが始まりますよ。皆で応援しましょう」
椅子取りゲームに臨むメンバーは、全く注目されていない上に、負け組がKカルテットを囲んで盛り上がっているのを見て、憤慨しているようだ。
「頑張って」
ジェイが声を張り上げると、ようやく納得した様子になった。
椅子取りゲームは、何の変哲もない椅子取りゲームとして用意されている。フィールドの真ん中に椅子が三脚。
その周囲を十人が丸く囲む。平和で軽やかな音楽と共に、十名が歩き始めた。
ぎらついた目つきと、緊張感のある身のこなしが、かわいらしい音楽と全く会っていない。
日野のイメージする椅子取りゲームと、雰囲気が違う。猛獣が獲物を狙って牽制し合っている図の方が近いだろう。
音楽が止まった瞬間。
赤毛が一番に椅子の一つに手を掛けた。その後ろから突撃した、たおやかな白い体が、その椅子をひったくる。
横ではもう一個の椅子が五人の手に掴まれ、そのまま殴り合い、蹴り合いになっている。我慢大会もしくは、頑丈さを競う戦いになりそうだ。
三個目は小柄な妖精のお姫様が、凄い速さで持ち去り、座り込んだ。そこに二名が襲い掛かる。
日野は様子を見て言葉を詰まらせた。
「椅子取りゲームは、座ったらそれで終わり……じゃなかったかな?」
小森と水野は唸った。
「これはこれで、ありかもだな。全員そうは思っていないみたいだから」
「妖精のお姫様、強いわね。座ったまま撃退しているじゃない。なんか、攻撃が鋭いわ」
どの星の観客も、熱狂的な応援を繰り広げている。
日野たちが呆然と観戦している内に、勝負が付いた。
赤毛対氷の女王は、赤毛が氷の女王をノックアウトして椅子を確保した。しかし、かなりの接戦だった。
五名での耐久戦は、頑丈そうな茶髪の男が、最後まで離さなかった二人を強烈な蹴りで沈め、椅子を奪い取った。
妖精のお姫様は、余裕で椅子を守り切っていた。
これで、赤毛のマール星王女ケリーと、茶髪のナイン星の宰相子息サシム、妖精のお姫様こと、銀河一の武器商で傭兵組織のトップ、フロンが護衛に決まった。
その他のメンバーも、要人の子息子女や、軍で重要な地位を占める者ばかりだった。
この先、地球がお付き合いして行く上で、要となる人物が大勢混ざっている。それだけ銀河世界が、地球の重要性を認めていると言うことだ。
マナが忖度抜き、人物プロフィールは伏せると言っていた理由が、日野にもやっとわかった。
地球の食べ物に対する高評価、それに大会での和やかな雰囲気を考えると、かなり好印象を、銀河の将来の要人たちに与える事が出来たと思う。
日野は心底ほっとした。




