歓迎パーティー
彼らは、加盟調印までの護衛なので、交渉団に所属することになるそうだ。
「通常はこんな大事にはなりません。ただ交渉団から護衛を三人付けるだけのこと。今回が特別なんです」
マナは憂鬱そうだ。
日野は今回のティータイム用に、ショートケーキとクッキーを用意した。前回マナが苦手そうだったので、アンは止めておいたのだ。
「このデザートはどうかな。気に入るだろうか」
白いケーキをじっと見てから、一すくい口に運ぶ。途端にマナの目が大きく見開かれた。
「美味しい! なにこれ。もっと欲しい」
他の者たちも概ね、同意見のようだ。
「生クリームは、そちらの星には無いのですか?」
「これ、何ですか?」
「牛の乳を加工したものです」
「動物の乳ですか? 食べるなんて考えたこともなかったです。でもおいしい。止められない」
護衛候補たちも、その意見にも概ね同意のようだ。
「まあ、動物の乳? なんてこと」
そう言いながら、誰も食べるのを止めない。
日野は、今度ラーメンを出してみようと思いついた。歓迎ディナーは懐石として、ランチはラーメン、チャーハン、餃子セットがいいかもしれない。
懐石料理より受けそうな気がする。
ラーメンは一般受けする醤油味か、豚骨か……悩んだ。
アッサリ塩で、ご飯と餃子にビールでも付けるか、そんな結論に行き着いた頃、一人が声を上げた。
「いつ、ジェイに会わせてもらえますか?」
突然、空気が変わった。
日野は紅茶を飲んで落ち着いてから、おもむろに答えた。
「明日、歓迎のパーティーを開きます。その時に少しだけ出席予定です。彼らは非常に多忙なのです」
文句が出る前に先制攻撃だ。
たぶん明日のパーティーでは顔見せくらいしかできないはず。彼らの反応を確認してからでないと怖いからだ。まさか襲いかかりはしないだろうが、不安がぬぐえない。
翌日の夜の歓迎会には、皆正装して現れた。全員が美男美女なので、それが五十人集まると、凄い迫力だ。
歓迎会の食事は、日本の誇る懐石料理をオードブルとして出し、後はバイキング形式にした。
テーブルに並んだオブジェのような料理に、全員が驚いている。
「このきれいなものは食べ物ですか!?」
「はい。全て食べられます。松の小枝も、添えてある花も、全てです」
日野は自信を持って説明した。本来は飾りの葉や花は本物を使うが、宇宙からの客人に、その判別ができるかは不明だ。
だから皿に載せるものは、全て食べられるよう指示した。
「これは何で出来ていますか? すごく不思議な味だけど、すごくおいしい」
隣の席のマナが、四角く形作られた茶色い物を指さして聞いてきた。
「鶏の肉をミンチにして味付けし、焼いたものです。上に乗っているのは、ケシという植物の実です」
「プチプチして面白いです」
「日本の料理は、味以外に、目や食感や食べ方で楽しむようになっています」
「はい。知識としては仕入れていますが、ここまでとは思っていませんでした」
日野は立ち上がると、寿司職人の所に行き、イカと赤貝、車海老を頼んだ。
マナが付いてきていたので、寿司を知っているか聞いてみた。
「これが寿司。魚を生で食べると聞き、食べているところを見てみたいとは思っていました。どんな様子か理解しかねたので」
「じゃあ、生でない寿司を少しもらいましょう」
そう言って、卵と、エビ、ツナロールをマナ用に頼んであげた。
「卵が甘くておいしい。それにエビ、すごくすごくおいしいです」
そう言って、日野のイカを見つめている。
「生魚を食べてみますか?」
自分の皿に残っていたイカと車海老をマナにあげると、しばらくそれをじっと見ている。
イカよりサーモンのほうがとっつきやすいだろうと思い、握ってもらって戻ると、マナが寿司を完食していた。
「どうしましょう。おいしいです。困りました。自分の星に帰れば、食べられないものばかり」
涙目になっている。
「私、もっと臭くて、血のにじんだようなものを想像していました。全然違います。教材に偽りアリです」
それは、一度教材を見せてもらいたいものだと日野は思った。化け猫が生魚に食らいついている絵を想像しながら。
他のコーナーでは売り切れが続出していた。どうやら地球の食べ物はかなり評価が高いようだ。
串カツのコーナーには、人が群がっている。何本も一遍に頼んでいるので、揚げるのが追いつかないようだ。
売りきれになっていた和牛コーナーに肉が届けられると、我先に美女たちがむらがる。
「和牛を食べてみますか? とても美味しい肉ですよ」
「絶対に食べます。あんな状態だもの、おいしいに決まっている」
和牛コーナーのすき焼き係りは一度に五枚くらいずつを必死で調理しているし、レアで焼かれたステーキの皿は、殆どバケツリレーの如く手渡されて行く。
日野たちも並んですき焼肉をもらった。大きな一枚が、春菊やネギと一緒に皿に盛られている。
マナは一口で大きな肉をほおばり、「柔らかい、甘い、美味しい」とつぶやいた。
しばらくじっと何かを考えてから、日野に身を寄せた。そして小声で告げる。
「地球は保護区にしないと危険です。銀河中から人が集まり、資源を一瞬で食いつぶします」
面白い冗談だな、と思ったあと、ふとバイキングコーナーの方を見て、青くなった。
大食い大会のようになっている。
昔、胡椒などの香辛料にヨーロッパの人々が飛びついたと言うが、それと似たことになる可能性があるのだろうか。
「マナさんの星と比べ、素材と調理法が優れているのでしょうか」
「何もかもがケタ違いにおいしいです。困るほどに」
マナの真剣な表情からは、本気の懸念が見て取れた。
日野もようやく、これはまずいかも、と気付いた。
対策を真剣に考えないといけない。食の問題と、入星規制、非常に大切なことだ。
食事が落ち着いて、デザートに移る頃、Kカルテットのメンバーが会場に現れた。
一瞬会場がシンとした後、大騒ぎになった。
「映像で見るより、美味しそうだわ」
大声ではしゃぐ声が上がっている。
また翻訳ミスだろうか。はたまた酒が入っているせいだろうか。
酒は度数を抑えて、乾杯のシャンパンカクテルしか出していないが。地球の酒が彼らにどういった反応を引き起こすかは、分かっていない。
マナたちはほぼ地球人と同じだったので、大丈夫だと思うが、ほおを少し赤くしている者が何人もいる。
シャンパンをオレンジで割った酒のおかわりは、ひっきりなしにオーダーされていた。
護衛候補たちはじりじりとにじり寄っていく。今のところ、まだ遠慮があるようだ。
まさか本気で襲いかかったりしないだろう。
たぶん、誰か止めるだろうと思いながらも、人をかき分けて前に出ようとした。
ありがたいことに、マナが前に出て一括し、全員を一歩後ろに下がらせた。
彼らの現在の上司は特使のマナだ。




