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ラブコールは銀河から――僕が地球代表だそうです  作者: 羊宮 玲(旧 羊)


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ジェイのお披露目

 日野が準備室に出向くと、小森と綾乃はのんびりとお茶をすすっていた。


 今日の会議にも、重責にも無頓着な様子に、安心するやらあきれるやら。おかげで、日野も気分が楽になった。

 主役のジェイは、立花が付きっきりでいでたちをチェックしている。見ている間にも髪のセットを二度直し、服にブラシを三度掛ける。

 その挙句に、腹筋のチェックをして立ち姿の再点検。

「立花さん、僕の方はもういいから、ご自身の支度をしてください。まだジーパンのままじゃないですか」

 山田が立花を止めようとしている。


 見れば、立花はジーンズにシャツの軽装だ。

 今日の衣装、お洒落なスーツはハンガーにかかったまま、放置されている。

「私は三分あれば支度が済みます。山田さん動かないで。この跳ねている毛を落ち着かせたら終わりですから」

 山田が唸っている。

 毛はふんわりとゆるいウエーブがついていて、あっちこっちにはねている、ようにしか思えない。

 立花が直しているが、どうなったら完成なのか、日野にはわからなかった。たぶん山田もそうだろう。目が死んでいる。


「完成です」

 ぼんやり待っていると、やっと立花が納得した。


 全員の支度が整うと、そこからは慌しく廊下を歩いて会場に向かう。

 このフロアはKカルテットとコアメンバー専用で、いつも人気は少ない。

 靴音が静かな廊下に響く。

 男たちの靴音の中、綾乃のヒールが立てる高い音が、カツカツと鳴り響いた。


 ドアを開けると、そこからは一般棟だった。人でごった返している。

 

 銀河連合の特使は初回と同じ三名と、技術スタッフ二名と護衛が三名やってくる。

 是非出席したいとごねまくられたマナが相談してきたのだ。


 地球からは、新設されたばかりの宇宙局の局長と各部門の代表が五名。

 局長は国連から選ばれた。他は常任理事国から1名ずつ。


 それプラス、宇宙局準備局長という肩書の日野。

 ジェイとの交代を正式に行うまで、直接宇宙人と交渉できるのは日野だけなので、実質のトップは日野だ。

 この会議も地球代表で日野が仕切る予定になっている。

 日野を先頭に、Kカルテットが会場入りすると、ざわついていた場が一瞬シンとした。


 周囲の目が、五人の上を行き来し、ジェイのところで止まる。

 あまり静かになったので、また綾乃のヒールの音が響いた。広い会場の高い天井に綺麗に音が広がる。


 席に付き、五人が座ったタイミングで、銀河連合の特使一行が到着した。

 彼らも注目されたが、それ以上に会場の人々の目はジェイに向いていた。

 あまりに静かなので、マナたちは足早に席に向かい、すぐに着席した。

 

「私は天の川銀河連合交渉団の特使、マナと申します。加盟の締結までよろしくお願いします」

 マナが言うと、ビーンもニムも同じことを言って、ジェイに名刺を渡した。

 三人共カチコチだ。


 初回会議の時の、シャキシャキした名刺捌きは見られない。

 離れて見ている日野は複雑な気分だった。


 やはり交渉団にとって、本当の交渉相手はジェイなのだ。それが良く分かってしまった。

 ジェイが席に付き、立花、小森、綾乃と順番に名刺交換をしていく。

 三人を見ていると、立花に好感を抱き、男性のビーンは水野に好意を抱く。


(何にも地球人と変わらないじゃないか)


 拗ねた気分で日野は思う。

 

 会議ではそれぞれが自分の得意分野を生かし、必要な部分を担当した。

 ジェイは寡黙で、ある意味お飾り。そのサポートは立花。

 理屈としゃべりは小森、社交面は綾乃。


 まことにうまく回る組み合わせで、初回の会議でも日野は安心して見ていられた。


 その会議で、改めて天の川銀河側の騒ぎを聞かされた。地球人とジェイは、がぜん注目の的となっているそうだ。

 地球訪問と、地球人の研究を望む声が、膨れ上がっているらしい。


 それを天の川銀河連合が、防波堤になって止めてくれている。

 地球への渡航は原則禁止だ。それだけではなく、地球の周辺にあるワープポイント付近に監視艦を置き、飛んでくる艦を追い返している。


 これをしないと、ワープポイントが混み合い、事故が起きる可能性がある。

 もし何も規制を掛けずにいたら、地球は滅亡する可能性があるからだと言う。 


 一気に各地の船団(観光客、研究者、その他)が押し寄せたら、大量の船体が太陽光線を危険レベルまで遮断する。そういう数らしい。


 そんな話の合間に、天の川銀河で一番偉い人(強大な星の女王)が、自分の娘の自慢を始めた。二番目が、孫娘の話を始め、三番目が妹を売り込み始めた。

 顔を引きつらせたマナに、にっこりと爽やかな微笑みを向け、立花が後を引き受けた。


「皆さん、とても素敵な方々なので、ご親族もそれは素敵でしょう。こうしてモニター越しで拝見してもわかります」

 そして、いつもの素敵な微笑みを浮かべる。


 小森が後を引き受けた。

「我々地球人にとって、先進諸星の方々は憧れの対象です。いつか皆様の星を訪れることが出来たら光栄です。ぜひどの星にも伺いたいものです」


 綾乃が髪をかき上げ、白く燐光を放つ首筋を晒した。目が吸い寄せられるのは男も女も、地球人も宇宙人も同じなようだ。

「ふふ」っと小さく笑い、骨を感じさせない白い足を組む。

 効果抜群だった。


 日野は、呆れた。


(凄いな。なんだ、この連携プレー。頼もしすぎる)


 ジェイは黄緑色の曖昧な瞳で、全体を眺めている。

 前に出ないから余計に、周囲を三人の側近に囲まれた王のように見える。


 会議のイニシアティブを握ったのはジェイだった。

 全てが地球サイドの意向に沿って進められていく。

 提携の調印に関しても同様だった。

 場所は地球から一番近い、「アルファケンタウリA」を上げてきた。交渉団の宇宙船で送迎してくれるそうだ。

 メンバーはジェイ以下Kカルテットの四名と、日野。他は地球側の判断に任せるそうだ。


「では、地球の体勢が整うまで、最低三か月の時間をいただきたい」

 日野が吹っ掛けた。


「三ヶ月は長すぎます。細部は後に回し、まずは加盟の調印だけして欲しい。一ヶ月ではどうでしょう」

「一か月では難しいですね。地球の体勢を整えるには、それでも短いくらいです。百以上の国に分かれているこの惑星を一つにまとめるのですよ。一筋縄ではいかない。譲っても二か月」

 小森が理屈をこねる。


「何とか一ヶ月で」

 マナが粘った。


 そこで、ジェイが言葉を発した。

「二か月でお願いします」

 それで決まった。


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