全員の覚醒
次の日の午後、立花が回復したのを確認してから聞き取りを行なった。
山田との同時聞き取りだ。
「離脱した瞬間は覚えていますか」
「はい。今までと同じように、抜けた瞬間を感じました。その後は無です」
「意識がはっきりしたきっかけは?」
「山田さんと繋がったような感覚、手をつないだ感じが近いでしょうか。それで目が覚めました。私は山田さんと一緒にあの場にいました。皆さんや自分の姿が見えました」
「それで?」
「私が宇宙に行ってみたいと山田さんに頼みました」
「山田さんは、そこまでどんな状態だったのでしょう」
佐伯が山田に振った。
「立花さんの唱える声と火がトリガーで、僕も離脱しました。気がついたら火の中から立花さんを見ていて、彼に手を伸ばしました。その瞬間彼と僕が繋がりました」
「繋がる」と呟きながらノートに何か書き込んでいる。
「そうしたら立花さんの意識がはっきりしました。それで宇宙に行くことになったのですが、月も見えないし、一番初めに行った場所に行こうと念じました」
そこで立花が変わると言い出した。
「宇宙へ向かうとき、グンとすごい勢いで引っ張られました。逆バンジーみたいな感じです。そして銀河を観ることができた。山田さんがどうやって位置や方向を探るのか分かりませんが、私を宇宙で見つけたことからして、何か追跡出来る能力があるのでしょうね」
立花は相変わらず、山田のマネージャーとしてものを考えているのか、山田を軸に置いて話をする。
佐伯が「方向と位置の感覚ね」と言いながら、チラっと山田を伺う。
「山田さんは、どうやって立花さんを見つけたのですか?」
「立花さんの所に行きたいと、強く念じました。そこに向かって一気に飛んだようでした。目印があれば行けるのかも」
「山田さんは突然目の前に現れました。近付いてくる様子は全く見えませんでした」
二人で行動するパターンは初めてなので、佐伯たちは研究が進むかもと言って興奮している。
調査は何時間にも及んだ。
その先は個別で細かい聞き取りに移った。その問いのうち、なぜ、お互いを認識できたのか、には二人とも答えられなかった。
ただ、小森や綾乃と同じで、立花も山田を知覚できていた。
非常に大きなエネルギーを感じたと話した。
精神だけでいる時に、どうやって相手を認識するのかは、本人たちも分かっていない。
だけど分かる。顔を見て確かめるより、はっきり分かる。
それと同時に大きさも感じ取れる。
カルテットのメンバーで言うと、一番が山田で、二番が立花、その半分くらいが水野、更に半分が小森だ。
山田と立花の差は桁が違う。
立花は、一人きりになった時のことを聞かれると、こう語った。
「山田さんの力が、私の周囲を取り巻いていたように思います。多分それが私を守ってくれた気がします」
徹頭徹尾、話の軸が山田だった。
この日、山田は立花に、交代を申し込もうと決めた。
他の離脱者が現れたら交代の約束だ。
カルテットの全員が離脱を経験したが、思った通り立花が一番強い。
現状、対外的に中心となって動いているのは立花だし、彼なら皆が納得すると、山田は一人頷いた。
そして彼がそのまま、宇宙局の中心になるべきだ。
山田は重い肩の荷を下ろす算段がつき、晴れ晴れした気分だった。
それから数日間、全員がみっちり訓練を積んだ。
一度経験すれば、二度目は簡単だった。
各々のやり方で経験を積んでいくと、一人ずつ能力の発現の仕方が違うことがはっきりした。
一番弱い小森の行動範囲は、ほぼ肉体で動くのと同じ数キロ程度。肉体と違うのは飛べて壁を抜けられることくらいだ。
綾乃は日本国内なら移動可能。飛んでいる自分を感じることができる。
立花は、自力で行ける距離は最大で、太陽系内。
皆、そこを超えようとすると、制約がかかるそうだ。精神に負荷がかかり、苦しくなるらしい。
今まで負荷を感じたことのない山田は戸惑った。
立花を銀河外まで連れて行ったとき、立花がキツイと言っていたのが、それだろう。本来、あそこまで行くには能力が足りなかったのだ。
実験の一環で、立花が綾乃を大気圏外へ連れて行ってみたが、精神エネルギーが小さく縮こまってしまった。それですぐに実験を中断した。
「自分より強い人とリンクすると、その能力内に包まれるような感じになるのよね。だからいつもよりずっと遠くまでいけるけど、それでも限界はあるみたい。ギューッと圧迫される感じになるわ」
綾乃の言葉に、他の二人も同意した。
山田と共に宇宙に出る実験をしてみたいが、安全を保証できないため、実験は行われていない。
山田は、まだコントロールが十分でない。せめて月辺りで止まることができなければ、この実験は危険すぎた。
立花は強いから持ったが、かなりの負担だったはずだ。
面白いことに、三人の能力開花で、最も影響を受けたのは山田だった。
それぞれの離脱に反応し、山田の能力は違う方向に延びて行った。発現の仕方が多彩になり、コントロールも少し上手くなった。能力が四方八方に広がったような具合だ。
「山田君はもっと能力を伸ばせるはずです。いつ必要になるかはわからないから、伸ばしておきましょう」
相変わらず、立花は山田のサポーターでマネージャーだった。
「立花さん、僕の事より立花さんの力を伸ばさないと。僕は十分にサポートしていただいています。ありがたいと思っています。今度は僕に手伝わせてください」
「じゃあ、一緒に修行しましょうか」
いたずらっぽく言う立花に、山田はつられて頷いた。
だけど、その修業はひどく過酷なものだった。立花の修行レベルは並大抵のものではない。
それを山田は思い知らされた。
銀河連合交渉団との会議の前日、ファーストコンタクトの人物公表が行われた。
名前は『ジェイ』、仮名だ。
日本人男性。
危険回避のため、その他全ての情報は極秘。
今後、彼が地球の代表になり、宇宙局と共に加盟交渉に当たる。
その彼をサポートする、『Kカルテット』のメンバーはジェイ以下三名で、立花猛、小森信也、水原綾乃。
ジェイの人物特定をした経緯に関しては、ありのままを公表した。
ジェイの飛翔を宇宙人側と地球側の両方が同時に把握。エネルギー分析により、三年前と同一人物であると認定された。
その時、離脱研で実験中だった人物こそがジェイだ。
そこまでは明らかにしたが、立花以下三名が覚醒したことは、この段階では隠すことになった。
少し世間が沈静化するまで、様子見する作戦だ。
そして、初お披露目の日がやってきた。




