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ラブコールは銀河から――僕が地球代表だそうです  作者:


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立花と共に宇宙へ

 機材を出していると、重い発電機を軽々と担いで、立花が戻ってきた。


「すごい体力ですね。修験者っていうのは」


「慣れです。四年間やっていましたから」


「でも芸能マネージャーから修験者に変わるのって、珍しいというか。きっかけは何ですか?」


「色々とあったんです。それで頭を空っぽにしたくて、こっちの道に入りました」


 爽やかな顔に影が落ちた。

 踏み込みすぎたと慌て、山田は言葉を継いだ。


「今、僕のマネージャーのようなことをしてくださっていますけど、すごく安心して付いていけます。ありがとうございます」


 立花の表情が、一瞬、痛みに耐えるように歪んだ。

 山田は驚いて口を継ぐんだ。どこかまずかっただろうかと考えたけど、今の言葉のどこが引っ掛かったのか分からない。


「さあ、準備を始めましょう」


 立花は機材の設置を始めた。

 山田も梱包材を解き、設置を進めていった。


 しばらくして研究職員たちが到着し、全員で黙々と作業を行った。


 準備が整うと、ただの山中の空き地だった場所が、重々しい雰囲気に変化した。

 立花が修験者の装束で現れ、護摩壇の前に座り込む。

 ほっそりしているのに、鋼のような強靭さが伺える。

 山田は彼の存在感の大きさをひしひしと感じていた。


 護摩が焚かれ始め、火が彼の顔を照らし始める。山田は立花と、その火をじっと見つめた。


 山田の視線は次第に火の方に移っていった。立花が護摩木を投げ入れると、火がガッと猛々しく噴き上がる。


 そこに立花の声が被る。不動明王のマントラだそうだ。低くて平坦な強い声が、流れている。

 山田には、内容が全く分からない。だが、その声の調子は気持ちが良かった。

 その厳しいが優しい声の上に乗って、火の上を回っているような気がし始めた。

 目に前に立花が見える。自分は火の中にいるのだろうか。

 半眼に細めた目が真直ぐこちらを、たぶん火を見ている。見ているが、見えてはいないような不思議な目つきだ。


 山田は今回も、自分が他人の離脱に巻き込まれつつあるのを自覚した。

 いつもの問答無用で、どこかに飛ばされるのとは、様子が大分違っている。


 今日は山田の分も計測するよう、機材を2セット運んできている。

 今の自分はどうなっているのかと、立花の向こうに目をやると、山田はすでに脳波測定用キャップを被っている。

 研究者たちは、機器の設定を急いでいるようだ。


 ふと声が途切れた。

 山田が急いで立花に視線を戻すと、その表情が消えている。

 思わず山田は、立花の体に近づいた。


 その時――


 リンクした。


 立花が一緒にいる。そして驚いている。


「立花さん。見えますか?」


「山田さんですね。体は見えないけど、君を感じます。周囲は、見える! 自分がそこにいる」


「立花さんは、やっぱり離脱していたんですね。気付いていないだけだったんだ」

 

 山田はこの状態で誰かと話せることが嬉しかった。初めて離脱した状態に、現実味を感じることができた。


「山田さん。意識して宇宙へ飛び出すことはできますか。できたら私も行ってみたい」


「どうでしょう。今日は月が隠れていますから」


「じゃあ、以前行った場所を思い浮かべてみるのはどうでしょう」


 山田はその言葉に、一番はじめに見た銀河を思い浮かべた。


「うわっ」


「立花さん?」


「なんだか、体を突然引き上げられる感じ……」


 そのまま言葉が止まった。

 山田と立花の2人は宇宙空間に浮いていた。

 目の前には、幻想的な光の帯が見える。山田は今回、落ち着いてゆっくりと、それを眺めることができた。

 白く強い光と、半透明のベールのように見える白や紫のモヤ、赤や青の光。

 相変わらずとても綺麗だ。

 

「立花さん、これが僕が初めて見た光景です。たぶん? 最初の時と同じ場所に行きたいと思ったから……そうじゃないかと思うのですけど」


「山田さんの能力は凄いんですね。多分私一人だったら、ここまでは来れないでしょう。ちょっとだけ、キツイ、です」


 立花が苦しそうなのに気付いた。


「戻りましょう」


 山田がそう言うと共に、身体に意識が戻った。


「立花さん、大丈夫ですか?」


 山田は戻るとすぐに、立ち上がろうとした。少し足がもつれる。立花と一緒だったせいか、いつもと違って体がだるい。


 護摩壇を回り込んで側まで行き、研究員たちに囲まれている立花に手を伸した。

 佐伯が、立花の様子を確認し、声を上げた。モニタを覗き込んでいる松井も、「反応無し。離脱状態のままです」と叫ぶ。


「まだ意識が戻っていません」


(まさかはぐれた?)


 山田は真っ青になった。宇宙空間でキツイと言っていたのだ。一人になってしまったら、どうなるかわからない。

 リンクしていたから、一緒に動くのだとばかり思っていたのが甘かった。


「探します。僕がもう1回行ってきます」


「そんなこと、できるんですか?」


 佐伯が山田の腕を掴み、押しとどめた。


「やります」


 まだ護摩壇の火は燃え盛っていた。山田は立花の反対側にあぐらをかき、火をじっと見つめた。

 さっきの立花のマントラを思い出す。言葉は分からないから、音とリズムを。

 それが頭の中で再生され始めると、また火の中に意識が浮かび上がり始めた。


(立花さんのところへ)


 強く念じた次の瞬間、山田は立花の前に居た。どうやって場所を特定したのかは、自分でもまるで分らない。

 驚きを無理やり追いやり、立花にリンクを試みた。

 さっきのように、勝手につながってしまうような感じにはならない。立花の意識が弱っているのを感じる。

 だから、自分の力を立花に送るようなイメージで彼を守ろうとした。それが効いているのかどうかは、まるでわからない。


「帰りましょう。行けますか?」


「済まない。途中でハジキ飛ばされてしまったみたいだ。ここはどこだろう」


「皆目わかりません。とにかく帰りましょう。僕には速度調整ができないんですけど、頑張ってみます」


 山田はゆっくり飛ぶことを意識してみた。そうするとビュッと飛んで止まる、小刻みな飛行になった。


「これならどうでしょう。きついですか?」


「いや、大丈夫」


 そう言うが、きつそうなのが伝わって来る。山田は焦った。

 それを何十回と繰り返した先に地球が見えた。

 山田はその光景を見て、改めて、本当に宇宙にいるのだと実感した。


「私たちは宇宙から地球を見ているのですね。綺麗だ」


 立花が伝えてくる。さっきまでと比べて、だいぶ楽になっている様子だ。

 それから一気に身体に戻った。


 目を開けると、火の消えた護摩壇を挟み、山田は立花と向かい合っていた。


「立花さん、帰ってきましたか?」


 対面にいる立花が、膝に手をついて、体を丸めた。


「はい。山田さんのおかげです」


 そう言うが、具合が悪そうだ。山田自身も、さすがに疲れている。

 今までは意識しなかったが、今回は身体にも疲れを感じる。



 その日はすぐに撤収し、立花にはそのまま宇宙局に泊まってもらった。

 そこに宇宙局所属の医者を呼んで診てもらうと、医者が興奮し始めた。

 

「疲労ですね。極端に消耗しています。しかも、身体に意識が戻った途端にバイタルが乱れている。これは画期的なデータです」


 医者の研究者としての血が騒ぎ出したようだ。

 ジェイの分もデータを要求し、それを研究すると言い出した。ジェイも、今回は精神が身体に戻った途端に体に異常が出ている。


「ジェイには離脱前と後に変化がなかったから、身体と精神は影響し合わないと考えていました。そうじゃなさそうだ」


 医者はおもちゃをもらった子供のように、小踊りしながら自分の研究室に戻って行った。




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