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ダンジョンクリアで女神に昇神!-別次元編-  作者: 斉藤一


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異世界ダンジョンー24

眼前の地面に魔法陣が輝き、マリアーーーいや、アリア様が現れた。


「もう終わりですか?」

「終わりというわけではありませんが、少しイレギュラーな事態が起こってしまったようで、急遽短縮いたしました。本当はもう少しデータ――いえ、経験を積んでもらいたかったのですが、仕方ありません。」


……トランとフォルムの実戦データが欲しかったんだろうな。だが、イレギュラーな事態って何だろう? ここにはまったく情報が入ってこないし。


「って、あれ? そういえばメィルは?」


まあ、もともと居ても居なくても変わらなかったし別にいいんだけど。


「恐らく、メィルにも連絡が入ったのでしょう。自分の担当を放置するのは感心できませんが、事態が事態ですので仕方がないかもしれません。」

「一体、何が起こったんですか?」

「それは、あなたも本体へ戻れば分かる事ですので伝える必要性を感じません。それよりも、これで試練は終わりです。」

「ま、待ってください! トランとフォルムをもとに戻してください!」

「元に戻す・・・? 今の姿の方が本来の神器のあるべき姿ですよ? むしろ、試験的に取り入れた感情システムの方が不要だと思いますけれど」

「アリア様……!  それでも二人の心を取り戻したいんです!!」


俺の叫びに、アリア様は冷淡に、だがどこか憐れむような視線を向けた。


「一度『概念』として売り渡したものは、通常の手段では戻りません。……ですが、たった一つだけ。『対等以上の代償』を支払う覚悟があるのなら、道はあります。彼女たちに心を与えるには、あなたの『これまでの記憶』を差し出しなさい」

「記憶を……?」

「ええ。彼女たちと過ごした楽しい思い出、買い物の記憶、たわしで笑い合った日々。あなたがそれらすべてを忘れることで、その『想い』のエネルギーが彼女たちの空っぽの回路に還元されます」


それは、あまりにも残酷な取引だった。

二人は俺のことを覚えているが、俺は二人のことを「ただの道具」としてしか認識できなくなる。共に歩んできた絆が、俺の中から消えてしまうのだ。


主様マスター、何を選択しようとしているのですか?」

「【警告:主様の精神波に異常を検知。最適化された戦闘継続を推奨します】」


無機質な声で俺を案じる(?)二人。

皮肉なことに、俺が二人を「仲間」だと思えば思うほど、その記憶は高価な代償となる。


「……分かった。それで二人が笑うなら、安いもんだ」


俺は、ポケットの中で握りしめていた『砕けたたわしの欠片』を、最後にもう一度だけ強く握った。


「契約だ、アリア様。俺の記憶……全部持っていけ」


その瞬間、俺の体から黄金の光が溢れ出し、二人の少女へと流れ込んでいく。

俺の脳裏から、フォルムとトランと一緒に過ごした記憶が霧のように溶けていく。


「……あ」

「……う、ううっ……」


二人の瞳に、温かな光が戻っていく。

頬に赤みが差し、震える手で自分の体を確認する彼女たち。


「……ご主人様?  なんで、泣いてるの……?」

「主様……?  その、手に持っている『ゴミ』は何ですの? 汚いですわよ?」


フォルムとトランは、かつての元気な姿でそこに立っていた。

だが、俺は……。

俺は、目の前で泣きそうな顔をしている二人の少女が、誰なのか分からなくなっていた。

手に持っている、薄汚れた石ころのような「欠片」が、なぜこんなに愛おしいのかも思い出せない。


「……君たちは、誰だ?  俺の……神器、なのかな?」


俺の空っぽの言葉に、二人の顔が凍りつく。力も絆の記憶すら失った俺に、アリア様の目が落胆の色を落とす。


「これでは、この試練は失敗と見なさなくてはなりませんね。ですが、このまま返すわけにもいきませんし・・・。特例として、もう一度最終試練を課す事としましょう。力も記憶も失ったあなたが勝てるのか。もし、負ければ未来が失われます」

「……負ければ、未来が失われる、ですか」


アリア様の宣告は冷たく、記憶を失った俺の心に重くのしかかる。

目の前にいる、桃色の髪を震わせる少女と、銀の盾を抱きしめて涙を流す少女。なぜだろう、彼女たちが悲しむ姿を見るだけで、胸の奥が張り裂けそうだ。


「主様……嘘ですわよね?  わたくしたちのこと、本当に……」

「ご主人様、ボクだよ!  ほら、イチゴのシールも一緒に選んだじゃない!」


二人が必死に訴えかけるが、俺の脳裏には何も浮かばない。

ただ、右手に握りしめた「ザラザラした汚い石ころ(たわしの欠片)」だけが、妙に熱を帯びている。


「さあ、始めましょう。最終試練――『自己との対峙』です」


アリア様が杖を振ると、俺たちの前に「真っ黒な影」が立ち上がった。

それは、先ほど俺が切り捨てたはずの、「感情を殺し、最強の力を得ていた頃の俺」の写し身だった。

影の俺の背後には、無機質な殺戮兵器と化したフォルムとトランの幻影が控えている。


「【目標、脆弱な個体と認識。排除を開始する】」


影の二人が、無慈悲な攻撃を仕掛けてくる。

漆黒の光線と、概念を切り裂く盾の衝撃。記憶も力もない今の俺には、避けることすらままならない。


「……危ないですわ!」


トランが俺の前に飛び出し、ボロボロの盾で漆黒の衝撃を受け止める。


「ご主人様には、指一本触れさせないんだから!」


フォルムが涙を拭い、威力の落ちたマシンガンで応戦する。

ステータスの差は歴然だった。

本物の二人はボロボロになり、防戦一方で追い詰められていく。


(……ダメだ。俺のせいで、あの子たちが壊れてしまう)


その時、ポケットの中で握りしめていた「欠片」が、俺の皮膚を焼くほどの熱を発した。

記憶はない。理屈もわからない。

だが、俺の魂が、失ったはずの言葉を叫んでいた。


「……思い出せなくてもいい!  絆なんて、後でまた作ればいい!  だけど……その子たちを傷つける奴だけは、俺自身だろうが許さない!!」


刹那、俺の手の中の「ゴミ」だと言われた欠片が、眩い黄金の輝きを放った。

それは神との契約すら書き換える、「今、この瞬間の想い」から溢れ出した未知の魔力。


「……えっ?  盾が……熱い……!?」

「ご主人様……力が、溢れてくるよ!」


二人の武器が、俺の叫びに呼応して白銀に再燃する。

記憶を対価に失ったはずの力が、「新しい今の信頼」を燃料にして、再び着火したのだ。

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