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ダンジョンクリアで女神に昇神!-別次元編-  作者: 斉藤一


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23/26

異世界ダンジョンー23

俺は迷った。正直、2人とダンジョンを探検しているのは楽しい。しかし、俺がここに来た理由は楽しむためじゃない。未来を救うための戦力を得るためだ。


俺は、差し出されたペンを手に取った。


「主様……!?  本気ですの?」


トランの顔が強張る。フォルムも自分の体を抱きしめたまま震えていた。


「ああ。……強くなるためには、これが必要なんだ」


俺は黄金の契約書に、自分の名前を叩きつけるように書き込んだ。

その瞬間、俺の頭から『王の宝冠』がフワリと浮き上がり、ガイコツの店員の手に吸い込まれていく。代わりに、漆黒の小瓶が俺の手の中に落ちた。


「ヒッヒッヒ……賢明なご判断ですな。では、契約成立だ……!」


俺は小瓶の栓を抜き、中の黒い霧を二人に浴びせかけた。


「二人とも、受け取れ。これが『力』だ」

「……あ」

「…………っ」


二人の体が、ドス黒いオーラに包まれる。

さっきまで銃身に貼っていたイチゴのシールが、ボロボロと剥がれ落ちて灰になった。

大切そうに抱えていた『たわし』も、トランの手から滑り落ち、床で粉々に砕ける。


数秒後、霧が晴れた時。


そこに立っていたのは、俺と一緒に笑っていた「少女たち」ではなかった。

フォルムの瞳からは光が消え、機械的な冷たさを宿している。その体は、禍々しい黒色へと変色し、変化した銃身は巨砲へと変貌していた。

トランの盾は、光を一切反射しない「虚無の黒」に染まり、彼女自身の表情も鉄仮面のように凍りついている。


「【個体名:フォルム。再起動完了】」

「【個体名:トラン。防衛プロトコル移行。感情回路を遮断、出力最大】」


二人の声から、抑揚が消えた。

俺への親しみも、買い物でのはしゃぎっぷりも、何一つ残っていない。

ただの、圧倒的な兵器(神器)への先祖返りだ。


「……よし。行くか」


俺は、砕けた『たわし』の破片を無造作に踏みつけ、エレベーターへと歩き出す。

背後には、一切の無駄口を叩かず、機械的な足音だけを響かせて追従する二人の影。


「お見事、お見事! さあ、地獄の蓋を開けに行きましょうぞ!」


ガイコツの店員の高笑いが、静まり返ったモールに不気味に反響していた。


エレベーターが最深部へと到着し、扉が重々しく左右に開く。


そこにいたのは、巨大な三つの首を持つ魔竜『トリスメギストス』。かつて一つの星を滅ぼしたとされる伝説の災厄だ。アリア様はそんな怪物すら自在に作り出せるらしい。


「グォォォォォォン!!」


空気が震え、並の冒険者なら腰を抜かすほどの咆哮が放たれる。

だが、俺の左右に立つ二人は、眉一つ動かさない。


「【目標、脅威度SSを確認。殲滅プログラム、開始エンゲージ】」


フォルムが機械的に告げると同時に、その手の漆黒の巨砲から、光さえ飲み込むような「虚無の閃光」が放たれた。


音もなく、魔竜の一つの首が悲鳴を上げる間もなく消滅する。

続けざまにトランが空を舞った。


「【防衛対象・主への攻撃を予測。概念切断ディメンション・カット】」


魔竜が放った超高温の火炎を、彼女は盾で防ぐことすらしない。ただ、虚無を纏った盾を振るうだけで火炎そのものをこの世から「消した」。


「……すごい」


俺は呟いた。圧倒的だ。

今まで戦ってきた中でも最強のはずの魔竜が、2人の攻撃になす術なく削り取られていく。

本来なら、ここで大喜びして勝ち誇るはずだった。

だが、俺の目は、魔竜の足元に転がっている「あるもの」に釘付けになっていた。

それは、フォルムが喜んで貼っていた『イチゴのデコシール』の成れの果てだった。

ボロボロになり、泥に汚れ、さっきまで彼女が「可愛いでしょ?」と笑っていた面影はどこにもない。


「……フォルム」


俺は、機械的にトリガーを引き続ける彼女の名を呼んだ。

返事はない。彼女の瞳には、俺の姿すら映っていない。ただ、敵という「座標」を計算し続けているだけだ。

ふと、隣のトランを見る。

彼女の足元には、砕けた『たわし』の欠片が、彼女の靴に踏みにじられて粉々になっていた。

かつて「主様の隣で輝いていたい」と微笑み、必死に盾を磨いていた彼女は、もういない。


「……何やってるんだ、俺は」


手に入れたのは、無敵の力。

失ったのは、やかましくて、ワガママで、愛おしい、たった二人の「仲間」の心。

魔竜が断末魔を上げ、光の塵となって消えていく。

ダンジョン踏破のファンファーレが虚しく響く中、二人は無機質な動作で俺の前に膝をついた。


「【ミッション完了。主様、次の命令を】」

「【敵対存在の完全排除に成功。次なる破壊目標を指定してください】」


感情のない、凍りついた声。

俺は、震える手で自分の顔を覆った。

足元に転がる、泥だらけのイチゴのシールを拾い上げることすら、今の俺にはできなかった。


「……すまない。俺が間違っていた……」


俺の絞り出した謝罪すら、彼女たちにはただの無意味な音情報として処理されるだけだろう。

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