異世界ダンジョンー22
「お客様、少々よろしいでしょうか……」
穏やかなティータイムを切り裂くように、背後からひときわ背の高い、黒いタキシードを着たガイコツが音もなく忍び寄ってきた。その眼窩には、怪しげな紫色の炎がゆらめいている。
「……何の用だ? 買い物ならもう十分済ませたぞ」
俺は警戒して、腰の宝冠に手をやる。
「いえいえ、滅相もございません。実は……上層階で『たわし』や『シール』を愛でるお姿を拝見しておりましてな。そんな風流なお客様にだけ、特別なご提案を……」
ガイコツは周囲をキョロキョロと見回すと、骨ばった指で「こちらへ」と手招きした。案内されたのは、モールの隅にある、埃を被った怪しげな『VIP専用・交換所』だ。
「これをご覧あれ」
カウンターに置かれたのは、古びた「黄金の契約書」と、一つの「漆黒の小瓶」。
「それは……?」
「『運命の裏取引』でございます。お客様が今お持ちの『MVP報酬:王の宝冠』……それと、この小瓶を交換しませんか?」
フォルムが身を乗り出す。
「えっ、その黒い瓶、何が入ってるの?」
ガイコツはニヤリと(顎の骨を鳴らして)笑った。
「これは『神器の限界突破・呪剤』。これを使えば、フォルム様の銃は『一撃で城壁を消し飛ばす業火』を放ち、トラン様の盾は『概念ごと敵を消滅させる虚無』を纏うでしょう。……ただし」
「ただし……?」
トランが怪訝そうに目を細める。
「代償として、お二人は『感情』を失い、冷酷な『殺戮の道具』に戻っていただきます。……今のその、楽しそうに笑い、人を愛でる心。それを差し出せば、ボスなど一瞬で塵にできる圧倒的な力が手に入りますぞ」
「「…………」」
店内を流れていた優雅なジャズが、急に不協和音のように聞こえ始めた。
俺は二人の顔を見た。
圧倒的な力を得るか。それとも、今の「自分たちらしさ」を持って、苦戦するかもしれない戦いへ向かうか。
「さあ、どうされます? 彼女たちを『最強』にするチャンスですぞ。たかが感情、たかが笑い……勝つためには不要なものではございませんか?」
ガイコツが差し出したペンが、契約を急かすようにカチリと音を立てる。




