異世界ダンジョンー19
「次のMVPはわたくしがいただきますわ!」
トランは手にした『たわし』を大事そうに懐にしまい、鼻息荒く宣言した。
「ええーっ、そんなのボクだって譲らないよ! マシンガン撃ち放題なんだもん、ダメージレースなら負けないんだから!」
フォルムも負けじと、弾倉が無限になった銃をチャキリと構える。
二人の間に、これまでにない火花が散っていた。
俺を差し置いて、完全に「どっちが有能か」のステータス合戦が始まろうとしている。
「おいおい、仲良くやれよ……」
「主様、これは『誉れ』の問題ですわ。防具であろうと負けるわけには参りません!」
「そうだよご主人様! それに次の報酬はきっと、ボクの靴よりすごいやつだよ!」
そんなやり取りをしながら進むと、前方から「カチャカチャ」と無数の乾いた音が聞こえてきた。
現れたのは、骨だけの兵士――スケルトン・アーミーの集団だ。兵士というだけあって、いろいろな装備をしている奴がいるな。数も多く、ざっと百体はいる。
「敵ですわ! ……フォルム、そこをどきなさい!」
トランが叫ぶが早いか、彼女は盾を構えて突撃した。すでに俺を守るということをすっぽりと忘れ去っているらしい。
「させないよ! 乱射開始!」
フォルムがトリガーを引く。無限の弾丸が通路を埋め尽くし、スケルトンの骨を次々と粉砕していく。
しかし、トランも負けていない。
「『反射』の使いどころを見極めれば……! ハッ! そこですわ!」
わざと矢の雨の中に飛び込み、弾き返した衝撃波で一列ごっそり骨をなぎ倒す。
もはや戦闘というより、「どっちが効率よく狩るか」の競い合いだ。
「ボク、あっちのリーダーっぽいやつ倒してくる!」
「ずるいですわ! その背後のアサシンはわたくしが!」
俺の視界の端で、『全自動・戦績記録板』がリアルタイムで数字を更新していく。
【現在の貢献度】
フォルム:450点(撃破数重視)
トラン:445点(被弾・反射効率重視)
「……意外に接戦だな・・・。それに、1回の戦闘で1回という反射の条件もわからん。亀の時は1回だけだったから、1体倒すごとに1回とかか?」
考え事をしつつも、俺は完全に置いてけぼりだ。
拾うものもないので、二人が倒してバラバラになった骨の山を避けながら、後ろをトボトボ歩く。
すると、トランが「ああっ!?」と悲鳴のような声を上げた。
「どうしたトラン!」
「主様……わたくしの盾が……盾の表面に、スケルトンの返り血(?)がこびりついて、くすんでしまいましたわ! こんなのはわたくしに相応しくありません!」
……いや、スケルトンから返り血なんてないから、他の汚れか何かだろう。
そこで彼女が取り出したのは、先ほどの参加賞――『たわし』だった。
「……これですわ! これを使う時が来ましたのね!」
トランは戦闘の最中だというのに、必死に盾をたわしで磨き始めた。
シュッ、シュッ、と小気味よい音が響く。
するとどうだろう、磨かれた盾が鏡面以上の輝きを放ち始め、周囲の敵を「眩しさ」で怯ませ始めたではないか。スケルトンに目は無いはずなのに、眩しさは感じるのか・・・。まあ、マリア様の作ったものだろうし、何かしらあるのだろう。
「ええっ!? たわし、有能すぎない!?」
「見てなさいフォルム! 輝きこそが正義ですわ!」
【現在の貢献度】
トラン:520点(洗浄・目くらましボーナス加算)
フォルム:515点(焦りによる命中率低下)
「むきーっ! ボクだって、ボクだって……! 弾丸ならいくらでもあるんだから、数で勝負だよ!」
フォルムがヤケクソ気味にマシンガンを乱射し、通路の四方八方に火花を散らす。
「ふふん、美しさは強さですわ! ほら、この盾の輝きで浄化されなさい!」
トランは『たわし』で磨き上げた盾をこれ見よがしに掲げ、反射光でスケルトンたちを次々と悶絶させていく。
二人の競争はもはや、本来の「敵を倒す」という目的を通り越し、いかに相手より目立つかというパフォーマンス合戦に変貌していた。
「おい、二人とも! 前を見ろ、危ないぞ!」
俺の警告も虚しく、スコアボードをチラチラ見ながら突き進む。
すると、通路に設置されていた罠のスイッチらしき床から突き出た不自然なレバーに、二人が同時に足を引っ掛けた。
『ガコンッ!!』
「あわわっ!?」
「きゃっ!?」
二人が派手に転び、重なり合うように倒れ込む。
その瞬間、天井から巨大な鉄球がでも降ってくるかと思いきや、壁がガラガラと崩れ、中からこの階層の隠しボスらしき『ゴールデン・ボーン・キング』が姿を現した。5メートルはありそうな巨体が、金色の大きな大剣を持っている。
「ギギギ……眠りを妨げる者は……」
キンキラキンの骨が威圧感たっぷりに剣を振り上げる。
攻撃目標は、一番近くに居た俺の様だ。俺がレバーを起動させたわけじゃないのに。
こういう時こそ神器の出番のはずなのだが、転倒した二人は、絡まったのかすぐには動けないようだ。
「しまっ……!」
「主様、危ないですわ!」
キングの剣が俺に向かって振り下ろされようとしている。
「うわぁっ!」
俺は反射的に、手に持っていたショートソードを投げつけた。
その瞬間、俺の剣が偶然にもキングの喉元にある「魔力の核」にクリティカルヒットした。
バキンッ! という乾いた音とともに、キングは一歩も動けぬまま、全身の骨をバラバラにして崩れ去った。どうやら、そこが弱点だったらしい。ここにきて、幸運上昇のアイテムの効果でもあったのか・・・?
「……え?」
「……は?」
静まり返る通路。
すると、『全自動・戦績記録板』が激しく点滅し、ファンファーレを鳴らし始めた。
『今回のMVP:源零(ワンパン撃破:1,000,000点)』
『報酬:王の宝冠(全ステータス微増 + 神器のわがままを抑制する権限)』
「……勝っちゃった」
呆然とする俺の横で、スコアを競っていた二人がガックリと膝をつく。
「……あんなに頑張ったのに、ご主人様に全部持っていかれた……」
「……たわしで磨いた努力は一体……」
「ま、まあ、結果オーライだろ? ほら、この冠の効果で、これからは二人の喧嘩も少しは収まるみたいだし……」
俺が手に入れた宝冠を頭に乗せると、心なしか二人のトゲトゲした空気が和らいだ気がした。
「……主様、次は負けませんわよ?」
「次はボクが一番なんだからね!」
懲りない二人の再戦宣言を聞きながら、俺たちはさらに深い、最深部のボスの部屋へと続く大きな扉の前に辿り着いた。




