「優しい笑顔に見つめられ、気づいたら全部話していた ②」
「そうなの? 珍しいね」
「珍しいねって、それだけですか?」
カールティードさんは私が緊張しながら告げた言葉を聞いても、何も気にした様子はなかった。
寧ろそれが? とでもいうような軽さである。そのことに拍子抜けしてしまった。
「だって珍しい以外の感想ないよ? それで前世の記憶があるからって何が不安なの?」
「……前世の記憶を持っている人って、他に知らないから。それに私、前世の記憶の中でこの世界のことを覚えていて」
「ふぅん? それってどういうこと?」
「えっと、この世界の設定と酷似した小説があって」
「そうなの?」
「はい。……それで私、主人公の立場で」
「へぇ、そうなんだ」
「私、その小説を全て読んでいなかったから、分からないことだらけで。それに奥様……私が働いていた屋敷の奥様が同じように記憶を持っていそうで。知っている情報と違いそうで」
「エラが言っていた奥様って、その人間のことなんだね」
それにしても焦ったように口を開く私に対して、カールティードさんはずっと表情一つ変わらずに穏やかな笑みで話を聞いてくれている。
視線も、声も、何もかも優しい。私の言葉を一切否定もせずに、引いたりすることもない。
「そう、です。鱗が出たりしたときに丁度前世のことも思い出してしまって……。それで余計なことを沢山考えてしまって」
「そっかぁ。その小説ってどんな内容だったの?」
「えっと公爵家に仕えていたエラ……つまり私が様々な困難を乗り越えて屋敷の旦那様と恋をするみたいな話でした。その中で鱗が生えたりして、自分に竜の血が流れていることが分かってみたいな。物語の中では奥様は、典型的な悪役で、悪妻と呼ばれていて……。でも奥様は私と同じようにその小説のことを知っているからか、私の知る奥様とも違って」
「うんうん。そうなんだね」
私は大分、分かりにくい説明をしてしまっていると思う。突然こんなことを言われたら戸惑うのは当然なのに、カールティードさんはずっと笑っている。
「竜の血が覚醒してから抑えていても五感が鋭くなって……、だから少し調べようと思ったらすぐに情報は入ってきて。奥様が何か目的があって悪妻の噂を放置していたり、いずれ旦那様と離縁したりしようとしていることも分かって」
そう、私は耳が随分よくなっていた。だから聞こうと思えば、遠くの声も聞こえてきたりもする。意識して奥様周りの情報を聞こうとしていた。
それに不思議なことに私が情報収集のために問いかけた相手は、悪態をつきながらも情報は教えてくれたりしていた。
「奥様は小説の内容を知っていたからか、ご自身のためにと色んなことを先回りで動いていたみたいで。主人公……私も手元に置こうとしていたみたいだけど、勘違いで同じ孤児院出身の別のエラを二人引き取っていて」
「ふぅん? その小説って、エラが竜であることは書かれているんだよね?」
「はい。割と初期の方でそれらしいことは書いてました。奥様は金髪のエラだけを引き取っていたので、アニメ……えっと、その小説の別の表現方法というか、劇みたいなものだけ見ていたのかなって。劇の方では覚醒で髪色が変わることが描かれていなかったので」
……カールティードさんの目が細められている。どこか冷たさが伺える。でもそれが私に向けられていないことも分かる。
私が話した奥様のことで、何か気に食わないことでもあったのだろうか?
アニメのことを説明しようとしてこの世界にはそんなものがないことに気づき、一旦劇と説明をしておいた。
私がカールティードさんは怒っているのかな? とおそるおそる見ていると目が合う。目が合ったらにこやかに微笑まれた。
「どうかした?」
「……カールティードさんが、怒っているように見えたから」
「怖かった? ごめんね? エラには怒ってないよ? そのエラの言う奥様は、人間なのに随分無礼だなと思っているだけ」
「無礼?」
「そうだよ。この世界に竜神教が広められ、竜が信仰を許可しているのはなんでだと思う?」
「そんなことは考えてなかったからわからないです」
「迷子を見つけやすくするためだよ。何らかの要因でエラみたいに下界で育つことになった竜や、祖先が竜の血を継いでいたからと隔世遺伝で竜の血を引く人族が産まれた際にすぐに確認できるように。それと人の世界で生きて行くことを決めた竜が過ごしやすいようにするため」
その言葉を聞いて驚く。
それと同時に竜は同族には優しい生き物と言っていたことが本当なのだなと実感する。
私が想像しているよりもずっとこの世界にとって竜は特別で、そして竜のために存在しているのかもしれない。
竜が神様としてあがめられていることは知っていても、その実情をそこまで知っているわけじゃない。
「そうなんですか?」
「うん。だから竜の血を引いているかもしれない存在を認知していながら、報告もせずに、竜の元へ送り出していないというだけでも信仰心が足りないと言われる状況だね」
そう言われて、またびっくりする。
竜の血を引いているかもしれない存在が居たら、すぐに報告をしなければならないらしい。
正直二巻までしか読んでないから、小説においてヒロインがどういう対処をしたかは詳しく知らない。
奥様はいつから「ただの侍女だったのに」の記憶を思い出したのかは分からない。けれども、最初から“竜の血を引くエラという少女がいる”ということを知っていたのは確かだ。
そのことを報告もせずに手元に置いていたというのが問題らしい。
「竜神教のことも、報告義務についても……私、自分にはかかわりのない世界だってあまり知らなかったです」
「平民として育ったのならばそうなのかもね。それに話を聞いている限り、エラは竜のことをあまり学ばずに育ったのがよく分かるよ。エラみたいな迷子のためにも竜のことは正しく伝えるようにと言い伝えられているはずなんだけれど……。やっぱり寿命が短いから、上手く伝わってないのかも」
カールティードさんは不満そうにそう言った。




