「優しい笑顔に見つめられ、気づいたら全部話していた ①」
「何を、話せば?」
「んー、そうだね。これまでのこととか、エラが竜種について詳しくなさそうな理由とか、どうしてこれまで迷子だったのかとか。なんでもいいよ?」
「……えっと、先ほど言ったように私は自分のことが人間だと思って生きていて」
「うんうん、それで?」
「とある屋敷で侍女として過ごしていたのですけれど、急に鱗が生えたり、髪色が変わったりして」
「そうなんだ? 今は髪色、元のままなのはどうして?」
「え、だって突然鱗が生えたり、髪色が変わったりしたら騒がれそうで。だから、その、魔力を操作して制御したというか」
「ふぅん? 誰に習うまでもなくそんなことが出来るなんて偉いね」
カールティードさんはそう言って、笑っている。
……なんていうか、カールティードさんって私のいうことを真剣に聞いて、なんでも褒めてくれるんだなと不思議な感覚。
特に今世は親も居なかったから、こんな風に無条件に私を優しい目で見てくれる人などいなかった。
「変化したエラのこと見たいなぁ」
「え」
「ほら、俺も鱗見せてあげるからエラも見せて? あ、それか竜体見たい?」
「竜体……?」
「うん。竜の姿の俺のこと、見せてあげようか? 興味ある?」
「興味は、ありますけれど……。流石にここでは駄目でしょう。それに街中でそんなことしたら騒ぎになってしまうし……」
「別に人間が幾ら騒いだって気にしなくていいよ?」
「いえ、今は遠慮しておきます! 今度、人が居ない場所で見せてください」
軽い調子のカールティードさんの言葉に私は慌ててそう言った。
というか、竜体ってなに?? 竜の血を継いでいると竜の身体も持つってこと? 少なくとも私が読んだ二巻までの範囲だとそういうことも一切書かれていなかったよ!
「ははっ、そっか。なら、鱗だけ見せてあげる」
なんて言って笑ったカールティードさんは服の袖の部分をめくる。そこには綺麗な肌があった。傷一つない。だけどカールティードさんが魔力を込めたかと思えば、美しい白色の鱗が浮かび上がる。
私の鱗の色とはまた違う。
当然のことながら、他人の腕の鱗を見るのは初めてだ。まじまじと見てしまう。
「触ってみる?」
「え、いいんですか?」
「うん。エラにならいいよ」
そう言われたので、恐る恐る触ってみる。ひんやりとしている。触れていると温かい魔力が感じられる。
なんというか、私がカールティードさんへの警戒心が薄いのは、魔力が心地よいからかもしれない。嫌な感じが何一つしないというか……。
「ありがとうございます」
そう言って手を放す。
「もういいの?」
「はい!」
「そっか。ところでエラは騒がれたくないからって覚醒を止めていたんだよね? これからは天に戻るなら変化したままでいいと思うよ。だって、エラがその変化を隠す理由なんて何もないのだから」
「……そう、ですか?」
「うん。エラが何を心配しているかは俺には分からないけれど、そんなこと考える必要はないんだ」
「でも……」
心配は要らないと言われても、やっぱり不安になる。それは私が竜の血を引く者達について思ったよりも知らないから。それに前世の記憶が邪魔をしているのかもしれない。前世のことを思い出したからこそ、日本で生きていた頃の記憶が頭をかすめる。その頃の常識を思い出してしまう。それに「ただの侍女だったのに」の設定とか思い出すと、色々と分からないことばかりなのだ。
「……奥様のこととか、設定のこととか思い出すと色々分からなくて」
「奥様? それに設定って?」
「私……普通と違うところがあるから。神の国に行って、その普通じゃない一面知られたら、受け入れてもらえなかったりするのかなって」
優しい笑顔で見つめられて、気づいたら不安の一端を話してしまっていた。
そう、私が不安に思っていることの一つは親族がいたとしても……前世の記憶を持っていたり、この世界と類似した小説の内容を知っているという、いってしまえば普通じゃない点を持ち合わせている私のことを受け入れてもらえなかったりするのではないかということだった。
小説において私はヒロインの立場ではあった。
基本的にヒロインと呼ばれる存在は、多くの人達から好かれる存在だと思っていた。ただ現実の私は無条件に誰かに好かれる人間じゃない。
そもそも自分のことをヒロインだと認識しているとか、人によっては痛いと思われそうな気はする。
「普通とは違う?」
「……前世の記憶を持っていたりすることとか」
不安で、心配で。だからついそう口にしてしまった。




