「竜の血を引く者は、同族に優しいらしい」
「え?」
私は驚いてその人のことをじっと見る。不思議な雰囲気のある男性だった。それでいて美しい。
そして先ほどの“同族のお嬢さん”と呼びかけられたことにはっとして、なんと答えたら良いか分からなくなる。
この人は私が竜の血を引くと知っている? どうしよう?
初対面の人を信頼していいのか分からなくて、私はその人に対して何を言ったらいいのかさっぱり分からない。
「そんなに顔色を悪くしてどうしたの? 何か困ったことでもあった? 俺でよければ力になるよ?」
きっと私の顔は青い。その人に対して何と答えたら良いか分からなくて、困ってしまった。
周りに人がほとんどいない状況で突然話しかけられたのもあって、余計に警戒してしまっている。
「そんなに怯えているなんて、何か怖いことでもあった? 大丈夫だから俺に話してみて」
私の態度を見ても不快にはなっていないようだった。ただ優しい笑みを浮かべて、私の返事を待ってくれている。
あまりにも優しくて、穏やかな表情を見ているとこの人になら話してもいいのではないかと心が揺らぐ。
「……えっと、その」
私は何かを言おうとする最中、人の話し声が聞こえてきてびくりっと反応を示してしまった。
「人に聞かれたくない話? じゃあ、おいで。誰にも聞かれない場所で話をしよう?」
なんて言われて手を差し伸べられる。
警戒心は当然あった。それでもその笑みを見ていると対話を試みてもいいのではないかというそんな気持ちになる。
それに……不思議と、一緒にいると安心してしまった。
どうしてなのだろう?
竜の血を引く者として覚醒してから、私は人の纏う魔力にも少しだけ敏感になっていた。というより五感そのものが以前よりも感じ取りやすくなっていて、本来なら聞こえない声が聞こえてきたりとか、そういう弊害もあった。
「……はい」
一人で悩むのも限界だった。
幾ら前世の記憶を持ち合わせていたとしても、今世の私の人生経験なんて乏しいものだった。
だから不安に苛まれたのもあって、そのまま手を取ってしまった。
そのまま連れていかれたのは、レストランの個室である。かなり高級そうなお店で平民である私はその段階で恐縮してしまった。
「またそんなに怯えて、何か怖いことでもあった?」
「えっと……こ、このお店、凄く高いですよね? わ、私、お支払いなんて出来ないです」
私がそう答えたら、きょとんとした表情をされる。
それからおかしそうに笑った。
「俺が君を誘ったのだから、俺が払うに決まってるでしょ?」
「そ、そこまでしてもらうのは悪いです」
萎縮してしまう。どうしてこの人は私のためにそこまでしてくれようとするのだろうか。初対面なのに。
「お嬢さんって、もしかして迷子?」
「え?」
「あまりにも同族に慣れてなさすぎるから。もしかして突然竜としての自覚が芽生えたりした?」
見透かすようにこちらを見据えて、そんなことを言った。
「……そう、です。私はつい最近まで自分のことを人間だと思っていました」
「そうなんだ?」
「はい。私は孤児院育ちで、親の顔も知りません。だから……そういう意味では迷子なのかもしれないです。えっと、その、それで神の国に行ったら、もしかしたら私の親族も居るのかなと思いました。でも、どうしたらいいか分からなくて」
「なるほどねぇ。頭撫でてもいい?」
「え、あ、はい。どうぞ」
その男性はずっと優しい表情をして、慈しむように私のことを見る。そして頭を撫でていいか問いかけられて、戸惑いのまま了承をすると頭を撫でられる。
「よしよし。此処までよく頑張ったね。突然自分が竜だと知って戸惑ったんだね? 大丈夫だよ」
私のことを安心させるように笑って、撫でられて、つい泣きそうになる。
だって前世の記憶を思い出してからいっぱいいっぱいだった。地球での暮らしも、「ただの侍女だったのに」の記憶も、私にとっては重すぎるものだった。言ってしまえばずっとキャパオーバー状態だった。
「お嬢さん、お名前は?」
「……エラ」
「俺はカールティード。よろしくね?」
そう言いながらカールティードさんは、相変わらず優しい笑みを浮かべて私の頭を撫でた。
「同族とこれまで関わったことがなかったから、そんなに俺にも警戒しているんだね。でも基本的に竜は同族には優しい生き物だよ? もちろん、例外もいるけれど少なくとも俺は困っている同族のことを放っておく気はないよ。だから君は何も遠慮せずに素直に甘えて寄りかかればいいんだ」
カールティードさんはそう口にした。
……私が想像しているよりもずっと、竜の血を引く者は同族に優しいらしい。
「……ありがとう、ございます」
「分かってくれたなら良かった。じゃあ、俺とお話しよう? 俺はエラのことをもっと知りたいな」
軽い調子で言われたその言葉に、私は頷いた。




