「そもそも竜神教とは何なのか」
この世界で最も信仰されているのは、竜神教と呼ばれるものである。そう、この世界は竜が生み出したものだと言われている。
竜の血が濃いか薄いかで呼び名が変わったりもするらしいと確か小説に書いてあった気がするが、孤児として生き、ただの平民である私は実際の所がどうなのかは詳しく知らない。
無の世界に、一体の竜が産まれた。
その竜は、大地を創造し、命を生み出した。原初の乙女と呼ばれているエラミスア様は竜と番となる。神々の国で、今もなお、創生の竜神様は生きている。
下界に竜が下りてくることはそこまで多くない。竜は天空の支配者であり、神の国で暮らしているらしい。
……なんで竜の血を引いているらしいヒロイン――私がここで生きているかは不明である。
ちなみに神の国に住んでいるのは人間以外の種族ばかりのはず。ただ下界にも竜人やエルフなどの一部は暮らしているらしいけれど。
私には違いは分からないけれど、竜神と竜人だと読み方は一緒でも色んな違いがあるのだろうか?
竜である神と、竜の血を引く人みたいな感じなのか、その辺は不明である。
気を抜いたら私の肌には鱗が浮かび上がるし、髪の色も変わりそうになるし、前世の記憶からしても少なからず私は竜の血を引いているのは間違いない。
でも私は竜神教について詳しくない。そもそもそこまで信仰深かったわけではない。神殿などに赴く機会もそんなになかった。
お金の余裕もなかったし、そもそも私の出身の孤児院って子供達をわざわざ神殿などに連れて行くことも少なかった。
ただ奥様に引き取られた二人は、神殿などにも赴いていたのではないかとは思う。
そもそも竜の血を引く下界育ちの存在ってどういう立ち位置なのだろうか? 私が小説を最新まで追っていないことやアニメを見ていないことからその辺の情報が全く分からない。
二巻までの内容だと神の国のこととか、竜神族についてとかあまり書かれていなかった。そもそも一度しか読んでいないから、情報がそこまでないというのもある。私は記憶力はそこまでよくない。
下界の国々の中でも地位の高い人たちは、竜を拝見したことがあるとかは小説内にも書かれていた気がする。
確かヒロインの心情で「竜神様とはどういう存在なのだろうか。国王陛下クラスになると会えるらしいけれど、一度でいいからお見掛けしたい」などと書いてあった気がする。
ただの人間として、自分が竜の血を継ぐなど考えていなかった頃の心情。
ならば偉い人達に話しかけたら、神の国へ繋がる手掛かりになる?
侍女をやめて真っ先に私が思いついたのは、神の国にはもしかしたら親族がいるのではないかと思った。
私が誰から産まれたかとか、両親が生きているかとかその辺は知らない。でも友人の話では、神の国との話あったっぽいのよね。もっと詳しく聞いていたら良かったなとその点も少し後悔する。
公爵領の神殿に行こうかと一瞬思った。
だけど一番大きな神殿に赴こうとする最中、奥様とエラたちが神殿に入っていくのが見えて躊躇してしまった。
竜の血を引く者達が信仰対象であるとはいえ、奥様はこの国でも権力を持つお方だ。
領地内の内政などにも精を出しているらしい。人々から慕われている方だとも聞いている。それに神殿とも懇意な仲だというのならば、私が突然竜の血を引くことを告げたところで私の望まない展開になるのではないか? と怖くなった。
孤児として産まれ、侍女として必死に働いていた私は生きることに必死だった。特に今世で親しい相手がいるわけでもない。
「ただの侍女だったのに」の世界でもヒロインは様々な困難に立ち向かって、そしてヒーローとの仲を広めていく。
幾ら竜の血を引いていても使い方が悪ければ、そして環境が悪ければどうしようもない。
前世の記憶があっても世間知らずな私が上手く立ち回れるとは思えなかった。
私は今年十六歳になったばかりで、この世界のことを一部しか知らない。そんな私がいきなり権力争いなども多そうなイメージの場所に飛び込んでどうなるのだろうか? それに「ただの侍女だったのに」のヒロインが別のエラだと誤認している奥様がどういった行動を起こすかも分からない。
不確定要素が多すぎる。
だから、結局私はすぐに神殿に行くことを躊躇してしまった。
少なくとも公爵領の神殿には行かない方がいいだろうとは思った。
ただ先延ばしにしているだけだとそう言われるかもしれない。ただ怖いなと思ってしまったから、少し落ち着いてから考えたかった。
それに竜の血が覚醒してしまった影響なのか、まだ体調が万全なわけじゃない。宿で時折休む必要があった。
これまで魔法の一つも使ったことがなかったのに、内側で魔力が波打っているのが分かる。
ちなみに私は竜の血を引く者達について詳しくないから、竜の力と魔力が同じものなのかどうかも知らない。
……こう考えると私って、自分のことを知らない人が多いんだなと改めて思った。
さて、どうしよう。
どこに行ったら、神の国への近道になる? などと考えつつ、公爵領を出た時、私は声をかけられた。
「何か困っているの? 同族のお嬢さん」
驚いて振りむいた先には、美しい金色の髪の男性がいた。




