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ヒロインだったと気づきましたが、逃亡します~他の転生者の犠牲になるなんて御免です~  作者: 池中織奈


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3/10

「結婚している男性を狙うつもりもないし、逃げよう」

 奥様は前世の記憶というのを特別なものと認識しているように感じられた。

 ヒロインだろうと思っているエラのことを引き取ったことに関しても、何らかの思惑はありそうだというのだけは分かった。



 私自身は直接奥様と関わることはまず出来ないので、奥様の真意はそこまで分からない。

 私は奥様から旦那様を奪う立場であるという認識をされているようで、奥様を慕う人たちから警戒をされていて近づくこともできない。

 そもそも奥様が転生者みたいだというのはあくまで私の想像でしかなく、実際に話してみないとそれが事実であるかどうかは知ることは出来ない。

 ……ただ前世で読んだ転生ものの物語でも、同じ転生者同士でも敵対関係にあったりする物語ってそれなりにあった記憶だから、話したところで和解が出来るかと言えば分からない。



 直接話せない状況の中でも私は奥様と旦那様のことを調べた。

 奥様はそもそも旦那様との仲を良好にする気はなさそうだった。それもあって自身の悪い噂や誤解をそのままにしているようだった。



 「ただの侍女だったのに」と同じように物語の軸が進んでいくと思っているのだろうか。

 政略結婚とはいえ結婚相手との仲を良好なものにしようとしない意味もよく分からない。

 幾ら白い結婚だったとしても、いずれ離縁すると思っていたとしてもきっとどうにかすることが出来るだろうに。

 旦那様のことは、いずれ過去になる人だと思っているような節がありそうだった。これはあくまで私の主観でしかないけれど。




「あなた、最近、奥様のことを調べているようね? 噂通り、奥様の座を奪う気なのかしら?」



 ……奥様のことを少しだけ調べていたらすぐに悟られてしまった。



 私、こんな風に情報収集をしたりするのが得意じゃないのだなと改めて思った。そういう立ち回りが苦手というかなんというか、それに顔にも出やすい方だし。


「いえ、そんなことはありません。ただどうして私が旦那様と良い仲になろうとしていると奥様が勘違いなさっているのか気になって……」





 ごまかすよりは、本音を口にした方がいいだろうと思った。だって私はボロが出やすいタイプだ。

 正直ごまかしたところで余計に誤解される気がした。そもそも私は恥じることなんて何もしていないしね。

 こうして伝えることで奥様の不可解な行動が治まればいいなという期待もあった。ただしそれは叶わぬ願いだったようだ。




 寧ろ噂が悪化した。それは旦那様の耳にも入っているようで、ただ掃除をしていただけで嫌そうな顔をされてしまった。

 旦那様は美しい見た目をしているのは確かであるし、女性関係で大変苦労されているのも確かだろう。

 でもだからといってこんな態度をするのってどうなんだろう? と思ったりする。




 ライトノベルの中ではそういう不器用な旦那様に優しいヒロインが寄り添って、様々な出来事が起こって、仲良くなっていくというストーリーだった。

 でもそれって少なからず旦那様への情とかがあってこそだと思う。




 私は……正直言って前世の記憶を思い出したのもあって、旦那様に対しての好感度はマイナスである。それに奥様に関しても、同じく転生者だったとしてもよく分からない行動をされて迷惑だという感情の方が強い。

 そう考えると既に私は「ただの侍女だったのに」の世界のエラとは別物であると言えるだろう。

 そもそも奥様のような転生者の動きによって元々の話とは違う方向には向かっているだろうけれど。




 ……そう考えると前世で読んだことのある物語の世界への転生ってかなり難しい話よね。自分の行動一つで全く違う未来へと歩んでいくことになるわけだし。




 私はまだ途中までしか内容を知らないからこそ、元々の話からずれるとかそういうのを気にする必要はないからいいけれど……。奥様って、どれだけ「ただの侍女だったのに」のことを知っているのだろうか?

 アニメもどれだけ見ていたのかにもよりそう。どちらにしても何らかの思惑があって、原作から大幅に変わる行動を起こしていることは確かだろう。




 ……いずれ旦那様と離縁してから、第二の人生を歩もうとしているというのも調べているうちにわかった。

 奥様は結婚している身だけれども、親しい者達には「特別な相手がいる」と口にしているらしい。それだけでも正直どうかとは思う。

 ただその特別な相手とは直接交流を盛ったりしていることはないみたい。あくまで心の浮気のようなものだろう。

 ……どういう相手に特別な感情を抱いているか分からないけれど、なんだかなぁって思った。





 奥様は旦那様に非がある形で離縁をしたいと思っているようだった。だから……私のことを利用しようとしているようだった。ヒロインではない(あくまで奥様が思い込んでいるだけ)私が、ヒロインの立場に成り代わろうとしているように思っているらしい。ヒロインであるエラは実際には私だけど、奥様はそうは思っていないから。




 もしかしたら物語におけるモブならば、ちょっと蔑ろにしても問題ないという思考回路もあるのかもしれない。

 少なからず主要登場人物に関しては特別視をしているみたいだしね。




 そう、私のことを奥様は踏み台にしようとしているようなものなのだ。

 私というヒロインに成り代わろうとしている無礼なモブを排除するというのは、奥様にとっては正当な行動らしい。

 ……正直、当事者である私からしてみるとはた迷惑な話である。




 少しでも調べれば私が旦那様に近づこうとしていないことぐらい分かるだろう。それに私が否定していることも。

 でも奥様にとってはそんな私自身の行動や考えは全く関係ないのだと思う。




 エラという名のモブの侍女が居るという事実だけで、奥様は利用できると判断したのかもしれない。

 ――私は色々考えた結果、面倒だから逃げようと決意した。

 だってこのまま転生者だと思われる奥様の幸せの犠牲になるのなんて御免だ。それに「ただの侍女だったのに」では旦那様がヒーローだったとしても、私は既婚者とそういう仲になる気もない。わざわざ奥様を排除してまで旦那様を手に入れようなんて気はない。

 このまま此処にいてもややこしい事態になる予感しかない。






 だから、


「辞めさせていただきます。こちらよろしくお願いします」



 公爵家の侍女という立場を退職することにした。





 貯金は少しはあるし、仕事を選ばなければ生活をしていくことに関しては問題ないだろう。

 ここに留まる必要は一つもない。だから私は逃げて、奥様とも「ただの侍女だったのに」の世界とも関わりがない場所で生きていきたい。


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― 新着の感想 ―
嫌われている下っ端にあっさり調べられる浅い計画…
 どういった行動しているかをわかった上で尚、『寝取り女』扱いとか…。
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