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ヒロインだったと気づきましたが、逃亡します~他の転生者の犠牲になるなんて御免です~  作者: 池中織奈


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「奥様も転生者みたい」

 「ただの侍女だったのに」は前世で人気だったライトノベルだ。

 アニメ化もしていた記憶がある。ただし私は最初の二巻しか読んでいないし、アニメも見ていなかったからそこまで詳しいわけじゃない。

 ただ友人の一人がアニメも全て見ているガチ勢で、情報だけは一部知っているぐらい。



 ヒロインであるエラは、とある孤児院で育った。両親の顔を知らずにこげ茶色の目立たない見た目をしていた。過去話の中には、同じくエラと名付けられていた他の子供達と比べられて育ったりしたというのも語られていたはずだ。




 エラという名前がこの世界で特別なのは、とある神の愛した原初の乙女の名がエラミスアという名前だったから。だからエラという名前は、それにちなんでよく名付けられるものだった。




 ――そもそもこのエラミスア様というのは、今もなお存命だと噂されている。この世界は前世と異なって神という存在が身近である。




 天空には神の国と呼ばれる所謂人間以外の種族が住まう国があるのだという。驚くべきことにその国は実際に存在しているのだとか。

 そしてその神に連なる一族として名を馳せているのが、竜の血を引く者達だ。

 そう、「ただの侍女だったのに」の主人公エラはどこにでもいる侍女として生きていたのにも関わらず所謂人外――この世界で言う神にも等しい存在である竜の血を引く乙女だった。




 二巻までの原作だとそこまで明かされていないけれど、友人がそんなことを語っていたので知っている。

 ちなみにこのライトノベル、色んな要素を詰め込んでいるものだった。




 公爵家に仕える侍女であるヒロイン。そしてヒーローは、公爵家当主。その当主である公爵様には奥方がおり、悪妻と名高い奥様に命を狙われたりしながら少しずつ距離を縮めていく話だったはず。

 正直言って私は幾ら相手が悪妻と呼ばれていようとも奥さんの居る相手とそういう仲になるヒロインに共感が中々出来なくて、それもあって二巻で読むのをやめてしまった。ただ友人がそれはもう楽しんで読んでいたので内容としては面白かったのだろうと思っている。




 それにその物語において、奥様は紛れもなく悪妻だった。それこそ読者側が擁護のしようがないぐらいに人身売買に手を出したり、気に食わない者をすぐさま処分したり、それはもう好き勝手していたらしい。

 それもあってヒーローがヒロインを選ぶのも当たり前だろうというのが、認識だったらしい。

 ただ……現実の奥様は、ライトノベルの中での奥様とは異なると思う。少なくともそういったあくどいことはおそらく行っていないだろう。それに使用人達からの評判も良いのだから、悪妻と呼ばれるようなことはないだろう。




 まぁ、私が旦那様を狙っているなどと噂されているのだけははた迷惑な話だけれども。




 腕に生えた鱗と、変色した髪と同時に私は自分の身体の内にある力に気づいた。

 自身が竜の血を引くのだろうということを自覚して、身体の内が沸騰するような感覚になっていた。

 ただその変化を周りに悟られるわけにはいかない。確か、小説の中のヒロインは薬を飲んで症状を抑えたり、自身で魔力を制御して変化を抑えていたはずである。

 ならば、私だって制御出来るのではないかと思った。



 これまで魔力の操作なんてものをしたことはなかった。それでもこれからの平穏な暮らしのためにもなんとか制御はしなければならなかった。

 自分が竜の血を引くヒロインであるということを、楽観的には考えられない。

 逆に私の望まない未来が待っている気もして、そんなことは嫌だったから。




「ふぅ……」



 前世の記憶を思い出したその日、私は流石に体調不良を理由に休んだ。

 侍女として過ごしている部屋が一人部屋で良かった。扉越しに体調不良を告げた際に嫌味を言われてしまったけれど、姿を見られるよりはずっと良かった。




 一日、なんとか自分の中の魔力を制御した結果、これまで通りの髪色に戻すことが出来た。それに鱗だっておさまった。

 そのことに私はほっとした。




 体調が回復してから情報を集めることにする。この世界が「ただの侍女だったのに」の世界であることは把握したけれど、それ以外のことが分からなかった。




 そもそもの話、小説でもアニメでも奥様は悪妻だった。そしてエラという名前の侍女を傍に置くことなどしていなかった。孤児院から孤児を引き取ることだってそうだ。

 ……友人が「あの奥様、本当に酷くて!!」とヒロインに対する所業に対して怒っていた記憶なので、そもそも孤児に対して優しくすることなど一切なかったはずだ。

 でも現実の奥様はそんなことはない。寧ろ孤児にだって優しくしているのだ。それはなぜなのかというのを考えたところ、奥様も転生者かもしれないという結論に至った。

 それにもしかしたら、アニメしか見ていなかったのかもとも思い至った。





 なぜならアニメでは、ヒロインであるエラは最初から金色の髪だった。そういった差異があったと友人が言っていた気がするのだ。

 おそらく髪色を変えるまでのあれこれのやり取りが冗長のようにアニメ制作会社側には思われていたのかもしれない。その結果、アニメでは最初から金色の髪である。エピソードも省かれていた部分があったとも聞いている。あとはオリジナルエピソードもあったのだと。




 友人が語っていた言葉が頭を掠めて、だからこそヒロインだと思われるエラを引き取ったのかなと思った。



 ――そしてこげ茶色の髪の私は、ヒロインではないと判断したからこそ排除しても構わないという認識なのかなんなのか。それともヒロインの立場に成り代わっている存在だとでも思われているのか。



 そのあたりは分からないけれど、私は奥様から旦那様を狙う立場であるという噂を広められてしまっていた。


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