「神の国で、私は穏やかに過ごす ⑤」
「ペルラティナは可愛いね。俺が居なくなるの、寂しいんだ?」
揶揄うような言葉が聞こえてきて、逸らしていた視線をカールティードさんへ向ける。
カールティードさんはそれはもう楽しそうに笑っていた。その笑みを見ていて私はほっとした。
嫌われてはないのだと、安堵したから。
「……寂しいですよ。だってカールティードさんは私にとって初めて出会った同族だったから。前世の記憶を思い出して不安だった時にカールティードさんに会ったから、私は安心して天に帰ってこれたんです」
「そっかぁ」
カールティードさんはにこにこしながら私のことを見ている。凄く優しい視線だ。
前世の記憶のこととか、珍しいけれどたまにあることだってカールティードさんが教えてくれた。
私はカールティードさんがそう言って微笑んでくれなかったら、自分のことを誰かに話すことを怖がっていただろう。
前世の記憶があることを知られたら周りから嫌われてしまうのではないか、異物だと思われてしまうのではないかという懸念がきっと残っただろう。
あまりにも、私は世間知らずだった。限られた世界しか知らなかった。それに、竜神教のことも。
転生者であった奥様の動きを知って余計に恐ろしくなっていたと思う。
そして天へと向かうことも中々出来なかったはずだ。カールティードさんに出会わなかったら、私は自分が竜だと知ることもなかっただろう。
それこそ私が上手く逃げられなくてハイエルフやエルフ達に捕まってしまった可能性でさえあるのだ。
カールティードさんはなんてことない様子で、当たり前みたいに私を助けてくれた。
同族であるならば誰にあったとしても当然のことだとそう言うかもしれない。
でも私は……出会ったのがカールティードさんじゃなければここまで安心して、天に戻ろうという気持ちになれなかったとは思う。
「だから改めてありがとうございます。カールティードさんに凄く感謝していて、一緒に居たいし、話したいなって思います。その、天に戻るまではバタバタしていてゆっくりは話せなかったので」
私は改めてそう言った。下界から天に戻るまでの間はずっと落ち着かなかった。天へ戻ることへの不安は少なかったけれども、家族に会うんだっていうドキドキはあったから。
こうして天へ戻ってからも夢のようだと思うこともある。
しばらく過ごしているうちにここでの暮らしに慣れてはいる。でもそうなってからカールティードさんとゆっくり話せていないのだ。
「そっかぁ。じゃあ、そうだね、俺はしばらく天に居るよ。他でもないペルラティナの頼みだしね」
「本当ですか?」
「ははっ、嬉しそうだね?」
私の喜びが表情に出ていたからか、カールティードさんは笑っていた。
「はい。嬉しいです」
カールティードさんの言うしばらくがいつまでかは分からない。竜は長命種だから、私が思っているよりもずっと長いのかな。
それならその分、カールティードさんと一緒に居られるのかな。
そう思うと嬉しかった。だってカールティードさんと喋れないのは寂しいのだ。
「ならなるべく俺の方からも会いに行くようにするね。でもペルラティナからも俺の住処にきてもいいから」
「はい。私も、カールティードさんに会いに行くようにします」
私はそう口にしながら、カールティードさんの住処に行くことを考えて楽しみになった。
私はこうして宮殿に住んでいるけれど、お爺ちゃんの一族……要するに私の家族やお兄ちゃんたち一家以外の竜は別の場所に住んでいるのだ。
それぞれの竜たちの住処がある。
カールティードさんは誰かと番になったりしていないので、両親やお兄さん達と一緒に住んでいると聞いている。
そもそも長く生きている竜からするとカールティードさんは若くて、可愛がるべき対象なのだ。私からしたらカールティードさんはずっと大人なのにな。
今世で誰かの家に遊びに行くなんていう経験もない。だから何だかそれを考えるだけでワクワクする。
「ペルラティナ、どうしたの?」
「誰かの家に遊びに行くことがこれまでなかったから、カールティードさんの住処に行けるの楽しみだなって」
「そうなんだ? 幾らでも来てくれていいよ? 母さんたちも喜ぶし。というかペルラティナがそんなに他の竜の住処に行きたいなら、全部巡ったらいいと思うよ。全員喜んで気入れてくれるから」
「全員の?」
「うん。だって皆、ペルラティナから“住処に行きたい”って言ったら絶対に皆喜ぶよ?」
なんてカールティードさんはそう言って笑った。
その後、他の同族たちにその話をしたら「いつでも来て」と全員に言われるのだった。




