「神の国で、私は穏やかに過ごす ③」
カールティードさんが天から居なくなったら、きっとしばらく帰ってこなくなる。
私はそのことが凄く嫌だなと思ってしまった。だってそれこそ数十年や数百年、声を聞くことも姿を見ることも出来なくなってしまうのだ。
私はそれを寂しいと思っているわけだけど、それを本人に言うのもどうなんだろう?
私が急にそんな我儘なことを言ったら、嫌な気持ちにさせてしまうだろうか。
……やっぱり私、誰かに対してお願いをしたりすることはちょっと苦手かもしれない。
「ペルラティナはカールティードと会えなくなるのが嫌?」
ランセナさんはくすくすと笑いながらそう言った。
何だか見透かされている気がする。少し恥ずかしい。そんなに分かりやすいかな。私は顔に出やすいタイプだから、バレバレなのかもしれない。
「……寂しいなとは思います」
そう、今でさえカールティードさんと喋る時間が減ったなと寂しい気持ちになっている。
カールティードさんが下界へと下りたら、もっと喋ることが出来なくなる。
でも寂しいから、もっと話したいからってそう思ったところでどうしたらいいのだろうかと分からない。
元々カールティードさんは、私を見つけなかったら今もなお下界に居たはずなのだから。
「ふふっ、そうなのね」
ランセナさんはそう言ってにこにこしていた。
生暖かい目で見られて、やっぱりむず痒い気持ちになる。
「だったら、天に留まって欲しいと口にしてもいいのよ?」
「……でも、カールティードさんに迷惑じゃないですか?」
私は同族たちにそれはもう大切にされている。長生きしている竜たちからしてみれば、私はそれこそ見守っていなければならない幼い子供のようなもの。私が何かを望んだら、カールティードさんは断りにくかったりしないだろうか。
嫌われたら悲しい。迷惑をかけたくもないとは思う。
それはカールティードさん以外の竜にも言えることだけれども。
幾ら向こうからしたら私は子供だったとしても嫌な思いばかりをさせたら、疎ましく思われたりはする気がする。
……家族が誰も居ないのだと思っていた頃は、特にその点を気をつけようとしていたように思える。
家族で、同族だから少しのことぐらいは大目には見てくれるだろう。私も些細なことでは皆のことを嫌いになったりはしない。
だけど、疎ましく思われたら悲しいなと思ってしまうのだ。
「迷惑になんか思わないわよ。それにカールティードはやると決めたらすぐに行動しちゃうから、下界にどうしても降りたかったらあなたに頼まれようがさっさと天から飛び出すと思うわ」
「それはそうかも……?」
カールティードさんは私や他の同族たちに優しくて、基本的に穏やかに接している。けれども確かに行動力は凄くある方だとは思う。そもそも思いきりが良くなければ下界に降りて、ぶらぶらすることもなかっただろうし。
天はとても過ごしやすい場所だ。
竜が生活しやすいように整えられていて、正直望んだものはすぐさま手に入ったりする。
下界にあるこれが食べたいとか、そういうことを一言でもいったらすぐさま届けられたりもするぐらいだ。それに全然退屈もしない。
わざわざ下界に降りようとする必要は、竜には特にないのだろうなというのが分かる。
まぁ、何か興味があることがあったら気まぐれに下界に降りることもあるみたいだけど。
だからカールティードさんは、竜の中でも変わり者なのだと思う。でもそういう変わっている点があったとしてもカールティードさんのことを皆が大切にしている。
普通と違う点があると、その人を排除しようとしたりすることってよく聞く話だけど……。天ではそういうのはないみたい。というより竜は個体数が少なくてその数も数えられるだけしかいない。それでいて寿命は長い。そういった種族だからこそ、少し変わった点も個性として受け入れられるのかもしれない。
「だからあなたがカールティードに天に留まって欲しいなら、居て欲しいなって素直に言えばいいのよ?」
にこにこしながらランセナさんにはそう言われる。
誰かに何かをしてほしいということ。私はそれを躊躇してしまったりする。それでもカールティードさんがしばらく居ないのは寂しいから口にしてみようかな。
……恥ずかしいなってそう思ってしまうけれど。
それでもしばらくカールティードさんが居ない方が嫌だなってそう思ってしまったから。
なんだろう、私はカールティードさんのことを特別、大切に思ってしまっているのかもしれない。
これって、初めて会った同族だからなんだろうか?
それとも別の感情があるのだろうか。
……自分でもそのことは分からなかった。でもまぁ、どちらにしてももっと沢山話せたいなって思ったのは確かだった。




