「神の国で、私は穏やかに過ごす ②」
「ペルラティナは筋が良いわね」
そう言って優しい笑みを浮かべてくれているのは、カールティードさんのお母さんである青竜、ランセナさんだ。
青色の髪を腰まで伸ばしている。瞳の色は、優し気な水色だ。
水属性の魔法を司る最初にお爺ちゃんが産み出した竜の一人。
ランセナさんはカールティードさんが久しぶりに天に帰ってきて嬉しそうにしていた。
カールティードさんは私を見つけて連れ帰るというきっかけがなかったらもっと長い期間帰ってこなかったのだろうと。
私はあの時、カールティードさんに会わなかったらこんなに早くこの場所に帰還することなんて出来なかった。
私が初めて会った竜がカールティードさんなのもあって、私にとってはカールティードさんはある意味特別な位置づけになっている気がする。
ランセナさんは親子なだけあってカールティードさんと雰囲気が似ている。だから話していて安心する。
魔力の扱い方なども丁寧に教えてくれるのだ。
私は竜神教に伝わる神話をこれまであまり知らなかったけれども、下界の人族へ竜が魔法を伝えたという逸話は幾つかあるらしい。そのうちの一つは、ランセナさんが当事者なんだとか。
それだけ竜は長生きをするのだなと、事前にそのことを聞いていても不思議だなと思ってしまう。
私の魔力量は竜なだけあって、他の種族よりはずっと多いみたい。まだ成体になっていないから、他の竜よりは少な目みたいだけど。
「今日は此処までにしましょう」
「私、もっと魔法教わりたいです」
「その気持ちも分かるけれど、焦りは禁物よ? 無理してあなたが倒れてしまったら私達は悲しいわ。急いで大人になろうとする必要はないの」
そう言われて私は頷く。
私はずっと一人だった。誰かに頼ったり、甘えたりすることが出来ていなかったのだと思う。
ただ頑張ろうってその気持ちだけ人一倍強かった。それだけだった。
何かあった時に絶対に味方になってくれる人なんていない状況だったから、私は無意識に気を張っていたのだと思う。
だから自分で注意をしないと、無理をしようとはしてしまっているかもしれない。
頼って、甘えるって難しい。
誰かに何かをしてもらったら返さなければならないってそう感じてしまう。前世の私は当たり前に家族と仲良かったと思うけれど、私はそうじゃない。あくまで前世の記憶は、記憶として残っているだけだから。
無償の愛ってよく分からない。戸惑いを感じてしまう。ただお父さんとお母さんはもっと私に子供らしくしてほしいとは思っていそうだな。
ランセナさんと一緒に魔法の練習をした後は、お散歩をする。宮殿を見て回ることもとても楽しい。
竜の姿でもくつろげるように建てられている宮殿なのもあって、とてつもなく広いのだ。だから全部の場所を見て回れているわけじゃない。
今日の散歩にはランセナさんがそのまま付き合ってくれる。
私一人でぶらぶらするのは、心配だからって誰か傍に居る。宮殿内だと侍女達も居るから基本的に一人になることはないけれど。
そういえばカールティードさんに数日、会っていない気がする。
カールティードさんはちょくちょく私と話してくれるし、天のことを教えてくれる。
だけれどもお父さんやお母さんたちとの時間を邪魔したら悪いと思っているのか、遠慮をしていてこうして会わない日もある。
……私はそれが寂しいなと思ってしまっている。
此処に帰ってくるまで一緒に過ごしていたから。
他の同族の竜たちと交流を持つことは楽しい。知らないことを沢山知ることが出来て嬉しい。
お父さんやお母さんたちと過ごせるのも戸惑いはあるけれども、安心出来る。
それでもカールティードさんともっと話したいなってそう言う気持ちになっていた。
でもそんなことを口にしてもいいのだろうかと思ったりもする。だから寂しいなと感じながら言えずにいた。
「ランセナさん、あれはなんですか?」
「あれは有翼族が抜けた羽を使って作った装飾品ね。有翼族にとって翼は特別なものだから、私達に贈呈されることが多いわ」
「そうなんですね」
私は宮殿内を歩きながらランセナさんに沢山のことを聞く。あれはなに? と絶え間なく問いかけてしまった。
「ふふっ、ペルナティナは可愛らしいわね。カールティードの子供の頃を思い出すわ」
そう言われて、カールティードさんの子供の頃ってどうだったんだろうって気になった。
「あの子も下界にばかり興味を持たないでほしいのだけど……また飛び出していきそうで寂しいわ」
そして次に言われた言葉に私は驚いた。
……カールティードさんは元々下界を旅していた変わり者の竜だ。だから私を天へと返した今となってはまた下界に降りるかもしれないのだというのに、ランセナさんの言葉で初めて気づいた。




