「神の国で、私は穏やかに過ごす ①」
部屋から外を見て、青い空が広がっている。雲が同じ高さを飛んでいて、距離が近い。
本当に、神の国――天に居るのだなとなんだか夢のような気持ちになる。
少し前まで私はただの孤児院出身の侍女でしかなかったのにな。そんな私が竜神族で、宮殿に居るだなんて……ふと目が覚めた時にまた孤児院に居るのではないかというそんな恐怖心に苛まれることはある。
それは卵の中に居た頃の記憶を思い出してしまったから。
長い間、卵の中でお父さんとお母さんに会いたいなと思っていた頃の記憶。そしてその自我を消すために恐怖心を植え付けられたこと。
――私は竜として、少しずつ成体に近づいている。
とはいえ、卵から孵るのにもそれはもう長い時間がかかる竜だ。この身体が完全に、成体になるにはまだ時間がかかるだろう。
お兄ちゃんは下界からまだ戻ってきていない。ハイエルフやエルフ達のこともきっちりどうにかする気らしいとは聞いている。
……竜を地上に留めるために彼等はあんなことを起こした。
そして「ただの侍女だったのに」のヒロインのように薬を摂取して、約束まで交わしていたなら――彼らの望み通り人間として生き、竜の血を地上へと残すことになったのだろう。
きっとそんな未来が来ていたら、お父さんやお母さんたちは凄く悲しむことになった。
ハイエルフやエルフに利用され、竜として生きることを拒絶する。……そもそも自分たちの種族として生きることを拒絶するなんて、衝撃的だろうな。否定して、近づくことも怖がって、遠慮して……長く生きるはずだった我が子が、短い人生で幕を閉じる。
そんなことにならなくて良かったと安堵した。
それに例えば薬を摂取し、約束をしてしまった後に卵の頃の記憶を思い出していたらその時はその時で大変だったのだろうな。
部屋の外へ出る。
こんなに広い宮殿が、私の家だと思うとやっぱり不思議な感覚。
卵に居た頃からずっと、私の部屋は用意されていたらしい。私が卵から孵って、それから過ごしやすいように。そんな思いを込めて、用意されていた場所。
卵が孵るまでどれだけ時間がかかるか分からなかったのに。
それでもずっと待っていてくれたのだ。私が好きなように内装も変えていいと言われている。
部屋がとてつもなく大きいのは、竜体でもくつろげるようにという配慮がなされたためらしい。
特に成体になったばかりだと、竜の姿から人の姿をとることが難しかったりするらしい。
「ペルラティナ!!」
「お父さん」
お父さんは私の元へとよくやってくる。私が天からまた攫われてしまうのではないかと凄く心配しているみたい。
お爺ちゃんは、始まりの竜だ。
そしてその息子であるお父さんも、この神の国を取りまとめる役割を持っているらしい。だから忙しいらしい。
……私の卵を持ちだしたハイエルフやエルフ達の対応はお兄ちゃんが行っているわけだけど、天にも彼らの仲間がいるかもしれないと調べているとも聞いた。
「今日は何をするんだ?」
「魔法を習う予定なの」
私はそう言ってお父さんに答える。
魔法については此処に戻ってきてから少しずつ教わっている。
私は基本的にどの属性も使えるらしい。それは血筋的な理由でだと聞いている。はじまりの竜であるお爺ちゃんは様々な魔法が使えるらしい。
この世界を創ったと言われているのだからそれだけ凄いのだなと素直に尊敬した。
カールティードさんは、光と水の竜の息子だからその魔法が得意らしい。
「そうか。私もいつでも教えられるから、言ってくれ」
「でもお父さん、やることあるんだよね……?」
「ペルラティナより優先するものなどあるわけがないだろう?」
「いや、駄目。私は役目をちゃんとするお父さんの方が好きだよ」
お父さんは私のことを優先しようとするのだ。お爺ちゃんたちは呆れながらも好きなようにさせているらしい。
でも私にかかりっきりでやらなければならないことを進めないのはどうかと思ってしまったから。
此処に戻ってきてからずっとただただ好きなように過ごさせてもらっている。竜達からすると私はまだ成体にもなっていない子供という認識だから、他の竜たちも私に特に優しい。守らなければならない対象という認識が強いらしい。
一度攫われた卵が戻ってきたから、余計にそういう意識なんだろうなというのは分かる。
「分かった……」
「でも時間がある時はいっぱい話そう。私、お父さんと話したいこと、沢山あるから」
私がそう言ったらお父さんは嬉しそうに笑った。
お父さんやお母さんとどう接していけばいいかという戸惑いはないわけじゃない。でも天で大切にされていた頃の記憶があるから、話していると凄く安心する。
帰ってきてから、ずっとワクワクしている。きっと楽しいことばかり待っているのだってそんな気持ちしかない。
魔法を使いこなせるようになりたいな。
そうしたら何かあった時に自分でも対処が出来るようになって、お父さんとお母さんたちに心配をかけずに済むのだから。




