「神の国へ到着 ⑥」
「お父さん、お母さん……私、卵の中に居た頃のこと、思い出したの」
そして、現在。
私は青ざめたまま、そう口にした。
その場に居る人たちの視線が一斉にこちらを凝視していた。だけれどもその視線は全て、私のことを心配しているものでしかなかった。
「そうなのね……。辛いことを思い出してしまったのではないかしら? 無理をして話そうとしなくていいのよ?」
お母さんはそう言って私のことを気遣うように見ていた。
私が思い出したことに安堵しながらも、私の顔色を見て心配してくれているのだろう。
「大丈夫。大事なことだから、ちゃんと話したいの」
私が決意したようにそう言ったら、皆が動いてくれる。
だって思い出した今は、こうしている間にもあのハイエルフやそれに連なるエルフ達が今も好き勝手しているのではないかと恐れてしまった。
あの時の竜人の子は、大丈夫だろうか? 竜人にとって神である竜神族の卵があんな扱いをされているのを見て、心を病んでしまったりしていないだろうか。そもそもまだ生きているのだろうか。
竜人で実験を行っていると言っていた。それはきっと、竜――私を地上に堕とすための策略のために行われたこと。
彼等への実験はまだ、続けられているのだろうか。
そう思うと怖かった。
「あの、私を攫ったのはエルフです。指示を出したのはムエレーザというハイエルフの人みたいです」
私がそう口にした瞬間、皆が恐ろしい顔をする。ああ、ムエレーザってハイエルフに怒っているのだろうな。
竜を攫うなんていう大それたことを行おうとするぐらいのハイエルフなのだから、お父さんたちだって知っている人なのだろうな。
「竜を地上に留めれば豊かになるって言っていました。下界のために竜を使おうと。それに竜人で実験をしているって。そして竜としての覚醒を停滞させるとか言っていて。……今も、下界で竜人達が実験されているかもしれないです。私、それも凄く怖くて……。人間として産まれて、生きていた私が竜神教に関わることなく生きていたのも、きっと彼らのせいで……」
怖い。
それが心からの本心だ。
卵の中の出来事、それこそ恐怖によってしまいこんでしまった記憶。
それを思い出したら身体が震えそうになる。あの頃の私はずっと、帰りたくて仕方がなかった。
お父さんやお母さんの元へ。そして優しく声をかけてくれる同族の所へ。この場所へ。
それなのにそんなに渇望していた記憶を、私はすっかり忘れてしまっていた。それだけの出来事が起こったのだ。
「大丈夫だ。ペルラティナ、もうそんなに恐れる必要はない。私たちが必ず守るからそう震えなくていい」
「……お父、さん」
気づいたら、私の身体は震えていた。
お父さんが抱きしめてくれて、大丈夫だよと言ってくれることにほっとした。私、もう大人なつもりだったのにな。
……やっぱり思い出したら怖くなって仕方がなかったのだ。
「伯父上、私が対処してきます」
静かだけれども、冷たい声が聞こえてくる。
お父さんに抱きしめられたままその人の方へと視線を向ける。私の様子を見守ってくれていた部屋の中に居たうちの一人。美しい銀髪を長く伸ばしている、男性。中性的な見た目で冷たい印象を人に与えるけれど、私と目が合うと優しく笑ってくれた。
綺麗な笑みだな……。
「起きている君とははじめましてだね、ペルラティナ。私はアルバスト。君の従兄弟だ。君が卵の中に居た頃、産まれてくることを心待ちにしていたんだ。ぜひ、お兄様とでもよんでくれ」
ほほ笑みながら言われた言葉に、困惑する。
どうやら兄呼ばわりされたいらしい。従兄弟のお兄ちゃんだから、そう呼ぶことには問題はないけれど。
「えっと、お、お兄ちゃん」
お父さんやお母さんと誰かに呼びかけることも、不思議な感覚だった。それなのに今度は兄と呼んでほしいなどという言われてびっくりする。
私の言葉を聞いて、アルバストさん――お兄ちゃんはそれはもう嬉しそうに笑った。
「アルバスト、俺も挨拶をしたい」
そう言って残りの四人も挨拶してくれた。その場に居たのは、お兄ちゃんの両親――要するに私にとっての叔父夫婦と、私の祖父母にあたるアーニーベガ様とエラミスア様だった。
四人とも私に「叔父さん」「叔母さん」「お爺ちゃん」「お婆ちゃん」と呼んでほしいという。
親戚がこうして増えていくことも、私にとっては戸惑いが強かった。だけど私がそう呼ぶと嬉しそうに笑ってくれた。
ああ、私にはこんなにも家族がいたんだなって嬉しくなった。
だから、卵の頃を思い出して怖くなった気持ちが一気に和らいだ。
その後、お兄ちゃんは「すぐさまぺルラティナを怖がらせたものを排除してくる」などと恐ろしいことを言って下界へと旅だっていった。
仕事が早い。
排除って……何をするつもりなのだろうか?
でもきっとお兄ちゃんに任せたらきっと大丈夫なのだろうなとそう思えた。




