「神の国へ到着 ②」
「ただいま、お、お母さん」
私は緊張しながらそう口にした。
お父さんと誰かを呼ぶのも初めてなら、お母さんとこうして口にするのも初めてだ。
「ああ……私も泣いてしまいそうだわ。あなたの口から“お母さん”と呼んでもらえるなんて。それにあなたがこうして無事に生きていてくれて、心からほっとしているの。幾ら探しても見つからず、それにちゃんと卵から孵っているかも分からなかった……」
お母さんはそう言って安堵したように微笑んでいる。
数十年から百年の間、卵は孵らない可能性があると言っていたからまだ卵の中に居た可能性もあったわけで……。
それに下界も広いからそこに紛れてしまった私を探すのは困難だったのかもしれない。そもそも竜として覚醒していない状況ならば、ただの人間だったわけだし。
「感動の親子の再会ね。良かったわ。私ももらい泣きしてしまいそう! でもここでいつまでも話しているとどんどん注目を浴びてしまうから移動した方がいいと思うわ」
「うん。俺もそう思う。今も、向こうの島に凄く人が集まっているし」
ウルノワさんとカールティードさんの言葉を聞いて、私はエスカレーターのようなものの先に人が集まっているのに気づいた。ざわざわしている。
私が人間として暮らしていた頃に全く見たことのなかった珍しい種族たちが沢山集まっている。
特に私に視線を向けている人達が多くて落ち着かない。
中には人間の姿もあった。私は神の国は人間以外の種族が住んでいるイメージだったけれど、一部は人間も暮らしているのかもしれない。
ただ他の種族たちの方がずっと多い。
耳がとがっている人達は噂のエルフだろうか。やっぱり前世でよく見かけたファンタジーな物語と一緒で魔法が得意だったりするのだろうか。
それに獣人といった種族の姿も見える。もふもふとした生き物は好きなので、人の身体にけも耳と尻尾が生えているのは不思議に思うものの可愛らしいなと思った。そもそも私も竜神族で、鱗が腕に生えたりもするから向こうからしたら竜の方が不思議かもしれないけれど。
私はこの世界について知らないことが多くて、人間以外の種族の生態も全然知らない。というか人間に関しても、私が暮らしていた範囲のことしか知らない。だから沢山の種族を見ていると、興味が湧いた。
「ウルノワ達の言う通りだな。落ち着いた場所に移動してからゆっくり話をしよう。弟達一家もペルラティナのことを待っている」
「あ、確かアルバストさんっていう従兄弟のお兄さんがいるんですよね」
「ああ。アルバスト達もペルラティナが帰ってくると聞いてそれはもう喜んでいた。私やローデジレが君を下界に探しに行く際など、代わりを頼むことも多かった。それと、ペルラティナ、もう少し砕けた口調にしてほしい。他人行儀は寂しい……」
お父さんは下界に私を探しに来てくれてもいたらしい。見つかるかも分からないのに、無事に卵から孵ったかもわからなかったのに、そうだったんだな……。私は自分が思っているよりもずっと、大切にされているのだなと思った。
……お父さんもお母さんも何処に私の卵が持ち運ばれたか分からない状態だったんだもんね。
異世界の存在をその人たちが知っていたなら最悪の場合は、別世界に卵が運ばれたりした可能性もあったわけで。手がかりもない状況で
それにしてもお父さんは、一見するとクールそうな印象なのに私が敬語だと寂しいんだっておかしくなった。
「そうなんで……そうなんだ。すぐには敬語を全てとるのは難しいかもしれないですけれど、気を付けるね」
お父さんからの希望だったとしてもやっぱり急に敬語を無くすのは難しかったりする。お父さんとお母さんの魔力もカールティードさん達と一緒で心地よい。だから話していると安心するけれど、私にとっては初対面だから距離感が難しい。
卵の中に居た頃の記憶があったら別だったのかな。……この世界に生れ落ちて、卵の中に居た私は何を感じていたのだろう?
そもそも卵に居る時って、どんな感覚なのかな?
お父さんとお母さんが沢山声をかけてくれていたのかな? 竜だと、卵の中から返事をしたりもあったのだろうか。
その記憶があったら、最初からもっと砕けた口調で話せたかな。
そもそも自分が竜だという自覚があったらもっと早く、神の国に帰ってこれたのだろうけれどそんなことを考えてしまった。
「じゃあ行こうか。此処は騒がしいから、私に乗るといい」
お父さんはそう言ってまた竜体へと自身の身体を変化させた。軽い調子で乗ればいいと言われたけれど戸惑ってしまう。だってカールティードさんには竜体を見せてもらっただけだったし、乗ったことはない。
「ペルラティナ、私が一緒に乗るわ。落ちることはないから安心してね」
「う、うん」
お母さんに促されて、お母さんと一緒にお父さんの上に乗った。竜の上って、こんな光景なんだと驚く。
お母さんは元々人間だったという話だから、私が戸惑っているのが分かったのだろう。
エスカレーターのようなものにのって向こうに渡ると見物人達が騒がしいから、一気に移動しようってことなのかな。
確かに落ち着いて話せる場所まで移動する間に凄く注目を浴びてしまうよね。
そしてお父さんが飛び上がり、移動を開始する。ふと横を見たらウルノワさんとカールティードさんも竜の姿で並んで飛んでいた。
ウルノワさんの竜体も綺麗だな。それにカールティードさんの竜体、飛んでいる時はこんな感じなんだってついつい見つめてしまった。
私はお父さんの背中に乗ったまま、そのまま宮殿へとたどり着いた。




