「神の国へ到着 ①」
「わぁ」
神の国への移動は一瞬だった。それこそ転移門をくぐって大神殿を行き来するのと同じぐらいの感覚だった。
高揚感と同時に、目の前の光景が切り替わった。
周りを見て自分の足をつけている大地が、空に浮いていることを理解して、私は驚いた。
この大地、どういう力が働いて浮いているのだろうか。
異世界だからこそ魔力とかが関係しているのかな。一瞬、急に大地が落ちたらどうしようなんて心配になったけれど、そういえば私は竜だったと思い出す。
竜体になれるようになったら、私も空を自由に飛べるのだろうか。
神の国と呼ばれているその大地は、想像よりもずっと大きい。それに大地は一つだけじゃない。いくつかの島があるみたい。
遠くの方に真っ白な宮殿のようなものが見える。一番大きな島の中心部にあった。
私は見慣れない光景にきょろきょろしてしまった。だって空に浮かんでいる大地を訪れるなんて初めてなのだもの!
大神殿から神の国へと移動した先は、小さめの島だった。そこから一番大きな大地へとエスカレーターのようなものが設置されているのが見えた。こういう技術、どこからくるんだろう?
そしてその場には、竜人らしき人が複数居て「お帰りなさいませ」と声をかけてくる。
少しだけ顔色が悪そうだけど、いつから待っていたのだろうか……?
まさか、私が神の国に戻ってくるかもしれないと知ってからずっと待っていたとか? 結構な日数だけど、なんて思っていたら――、
「あ、ルネリッツさん、来たね」
「待ちきれなかったのかしら」
カールティードさんとウルノワさんのそんな声が聞こえてきた。
彼らの視線の先を見ると、美しい金色の竜がこちらに向かってきていた。それにその上には一人の女性が乗っている。
その竜が勢いよくこちらに向かっている。
私は驚いた。だって竜の姿を見るのなんて、カールティードさんに見せてもらったのと合わせて二回目だよ。
巨大な竜が向かってきた事に一瞬身構えてしまう。
「ルネリッツさん、ストップ! エラが帰ってきて嬉しいのは分かるけれど、びっくりしているから!」
「竜の姿に慣れていないのよ? 近づくのならば、ゆっくり!」
私の様子に気づいた二人がそう言ってくれて、ほっとする。
あの竜のことをカールティードさんがルネリッツと言っていたから、私のお父さんなのだろう。
突然でびっくりしてしまったけれど、大人しくカールティードさん達の言うことを聞いて飛び降りた様子を見ると笑ってしまった。
そしてそれと同時に竜の姿から、人の姿へと変わっていく。
美しい人だった。綺麗な金色の髪で、凄く若く見える。ウルノワさんだってそれこそ創世神話の頃から生きているのだろうし、竜は見た目じゃ年齢全然分からないなと思った。
「ペルラティナ!!」
そして聞きなれない名前を呼んだかと思えば、私のことを思いっきり抱きしめてくる。
もしかしてお父さんたちが用意してくれていた私の名前なのかな。
急に抱きしめられて驚いて、それでいて頭上で涙を流す声が聞こえてきてまた驚愕する。
泣いている。
私が見つかって、ほっとして、それでこんなにも感情を露わにしているのかな。何だか私もつられて泣きそうになる。
なんだろう、私のことをこれだけ心配してくれているお父さんがいたんだなって。それを実感しただけで嬉しかった。
胸にくるものがあって、言葉にならないような気持ちでいっぱいだ。
私にとってはこの世界で生まれ変わって十五年。でも、竜たちにとっては五十年だもんね。
「えっと……ただいま。お、お父さん」
私はなんて返事をしたら良いか分からなかった。でもこの人が父親だろうということはカールティードさん達に聞いていたからそう口にした。
この世界で、誰かを“お父さん”なんて呼ぶのも初めてだった。
孤児院で育って、両親なんていないって思っていた。孤児院で育つ子供の中には何れ両親が迎えに来てくれることを夢見ている子供も多かった。だけれども実際に血の繋がった家族が迎えに来る確率なんて本当に低い。
私自身はとっくに諦めていて、そんな人は居ないのだろうなって思っていた。
だから余計に少し、変な感覚。両親がいることも、血の繋がった親族がいることも、聞いていたのにな。それでもこうして実際に会ってみたら、本当に私の親は神の国に存在していて、私の帰りを願っていたのだなって。そのことを実感して温かい気持ちが広がっていく。
私の身体を離したお父さんは、私から“お父さん”と呼ばれたことに感激しているのかまた大泣きしていた。
竜ってこんなに泣くものなんだ、とびっくりした。
ああ、でもそうか。卵のまま行方不明になって、それで無事に卵から孵ったかどうかも分からない状況だったのだから、こうして成長した私を見て泣くのも当然のことなのかもしれない。
「私も挨拶させてね、ペルラティナ。私はあなたの母親で、ローデジレというの。あなたと同じ元人間だわ。こんなに大きくなって……ああ、本当に無事でよかったわ」
そして竜体のお父さんの上に乗ってここまでやってきた人間の女性は、私のお母さんだったみたい。
ほっとした様子でそう言って、こちらも泣きそうになっていた。




