「総本殿にて、カールティードさんとウルノワさんと ②」
「次は竜の像を見に行きましょう」
ウルノワさんにそう言われて、手を引かれる。空いた方の手はカールティードさんが手をつないでくれる。やっぱりなんだか、凄く子供扱いされている気がする。
私がまた迷子にならないようにという配慮も感じられる。考えてみれば私にとっては竜として覚醒したことも、自分が竜神であることも突然だったけれども……、竜神たちからしてみれば十数年も竜が迷子になっていた状況だ。だから私がまた迷子になってしまったりしないか、心配してくれているのだと思う。
ウルノワさんとカールティードさんと手を繋いでいると、安心する。ウルノワさんの魔力も優しくて、ほっとする。
ウルノワさんは竜神教の総本殿によくいるからというのもあるだろうけれど、勝手知ったる様子である。
「そういえばさっき金髪の人が多いって言ってましたけれど、親が金髪でも人の姿の時に髪色が違う時ってあるんですか?」
竜の像のある場所まで歩きながら、気になっていたことを聞いてみた。
「ええ。あるわよ。カールティードの両親もカールティードも金色の髪だけど、上の二人は違う髪色だもの。竜が卵から産まれてくる際、毎回、どんな適性を持つ子なのだろうかって凄く楽しみなの」
「卵?」
ウルノワさんから言われた言葉に私は驚いてしまう。
だって卵から産まれてくると、言われたから。人は赤子として産まれる。少なくとも私はこの世界で生きてきて、卵から産まれる人族は知らない。
人間や竜人やエルフ、獣人など……所謂人族に分類される人たちは、前世の人間と同じように赤子を産む。
でも竜神は、根本的に違うのかもしれない。
「そうよ。竜は卵から産まれるの。エラだって卵から産まれたはずだけど、やっぱりその当時の記憶はないのね?」
ウルノワさんの不思議な言い回しに何を言っているのだろうと思っていると、カールティードさんが説明してくれる。
「基本的に竜は、卵に居る頃から意思があることの方が多いんだよ。俺も記憶がある。成体になるまで、人間として育ったとしてもその当時の記憶が何も残っていないのもエラの不自然な点だね」
「へぇ……」
自分が卵の中に居ただなんて想像がつかない。卵が産まれ、そこから人間や竜人などの竜の伴侶の子供が産まれる。そしてその子供は成体になったら、竜として覚醒するか、竜人になるか、伴侶の種族として生きるか確定する。竜の生態は凄く不思議だ。
卵に居た頃の記憶があるってどういう感じなんだろうか。
親に会えることを楽しみにして、早く外に出たいなと思うものなのだろうか。
そうなると生まれながらに、竜としての自覚は持ちそう。でも私は思い出す限り、小さい頃の記憶は持っていない。
それは竜にとっても不思議なことなのだろう。それって意図的に誰かに何かをされて記憶が消えた? それとも何らかの偶然が重なって消えたのか。どうなんだろう?
「卵から産まれたなんて、凄く不思議です」
「そうよね。その頃の記憶がなければ不思議に思うわよね。卵に居た頃の記憶があれば、もう少し早く竜の血を引くとして保護をされたと思うのよね。竜神教の信徒は、少なくとも竜の事を知る者が多いから」
……私は徹底的に竜神教と関わることがなく、生きてきた。それこそ不自然なほどに。
そう考えると私がこうしてあの場所から逃げ出して竜神に保護されたのは幸運だったと思う。
もし竜を下界に堕とそうとしている人達がその場に居たら、私が逃げ出すことは叶わなかったのではないかと思った。
それに公爵領を出てすぐに、カールティードさんと出会えたことも。
カールティードさんに会えなかったら、連れ戻されたりすることもあったかもしれない。言いくるめられて、訳が分からないままに約束をさせられた可能性もあったのだな。
……何も分かっていない竜を言いくるめるのなんてきっと簡単なはずだろうから。
「それもそうですね。ただカールティードさんとも話していたのですけれど、私、不自然なほどに竜神教と関わることなく生きてきました。だから結局すぐには保護されなかったかもしれないです」
「あらあら、そうなのね。なんてことかしら」
私の言葉を聞いて、ウルノワさんは私達の後ろをついてきている竜神教の人達へと視線を向ける。
「聞いたかしら? ちゃんと調べなさいよ。この子の居た領地について。そして今後、迷子の竜が出た際にすぐに保護出来るように」
……ウルノワさん、私やカールティードさんに対してはずっとにこにこしているのに、竜神教の人達へと声をかけている様子はちょっと違う。冷たいというか、淡々としているというか。
同じ竜相手にはとても優しいけれど、他の人相手にはちょっと違うのだろう。
カールティードさんも私の事情を全てウルノワさんに説明しているわけではないだろうし。
これからちゃんと調べてもらえるのだろう。
そうこう話しているうちに、竜の像のあるエリアに辿り着く。
真っ白な部屋の中に、竜の像がいくつもおかれている。巨大な部屋だ。竜の像自体もとても大きい。
でも等身大なわけじゃないみたい。だって実際の竜はもっと大きいだろうから。カールティードさんの竜体ももう少し大きかったしね。
「あの一番大きな竜の像がアーニーベガ様の像よ」
「そうなんですね。かっこいい、竜ですね」
一際大きな竜の像が始まりの竜であるアーニーベガ様の像らしい。
「ええ。アーニーベガ様の竜体はとても素晴らしいわ。そして、エラ、あなたのお爺様にあたると思うわ」
「え?」
「ここ最近、産まれた卵はアーニーベガ様の次男夫婦のものだけだもの。あなたたちから連絡が来てから改めて天で確認もしたわ。カールティードのように下界に顔をだした竜に心当たりがないかも聞いた。だけど、該当するのはその卵しかいなかったの」
私は言われた言葉に驚きのあまり固まってしまった。




