「竜神教の総本殿への道のり ②」
「わぁ……」
私は思わず感嘆の声をあげてしまう。だって凄くかっこいい! とても神秘的で、見ているだけでワクワクしてくる。
だけど次の瞬間にははっとする。はしゃぎすぎてしまったとカールティードさんを見れば、にこにこしながらこちらを見つめていた。普通に恥ずかしい……。
カールティードさんからしたら私は成体になっていない子供でしかないのだと思う。
――それが少しだけ何とも言えない気持ちになった。私の感覚としては、大人のつもりだから子供扱いされているのは複雑だったりはする。優しくしてもらえているのはとてもほっとするし、嬉しいけれど。
「このまま移動しちゃおうね。ただ成体になる前の竜が転移門通った例はないから、まずはお試しで少し近場に移動して様子を見ながら進もうか」
「はい。分かりました」
基本的に転移門は大人が使うものの想定なのかな? 私は大人のつもりでも、身体的には竜としては子供なわけで……確かに少し様子見はした方がいいのかもしれない。
私が初めて転移門を使うから、身体への影響などを考えてくれているのかもしれない。
「カールティード様、それなら向かう先の神殿へ先ぶれを出してもよろしいでしょうか! いきなり竜神様が二人も現れたら向こうも大混乱に陥ってしまいます!」
「ああ。それもそうか。あ、そうだ。総本殿への連絡もここから出来るよね?」
「はい! こちらをどうぞ!!」
チェスタスさんの提案にカールティードさんが同意すれば、すぐさまチェスタスさんは一つの道具を持って来る。なんだか前世の固定電話みたいな見た目をしている。
……私が日本で生きた記憶を持っているように、もしかしたら異世界の記憶を持って産まれた人ってこれまでにも複数いたりしたのかな? その影響でこういった道具があるのかも。
カールティードさんも私の話を聞いた時、「一つ一つは珍しいけれどたまに見かける」って言っていたし。
「俺は総本殿に直接連絡するね。最寄りの大神殿にはチェスタスが連絡入れといて。俺とエラが行くって」
カールティードさんはそう言うと受話器を手に取ってどこかに連絡をし始めた。
受話器の向こうから微かに声が聞こえる。竜として覚醒しつつある私はそれを聞こうと思えば聞けるけれど、盗み聞きするのもどうかと思うので聞かないようにしておく。
「久しぶりです。ウルノワさん」
受話器の向こうのはしゃいだような声が聞こえてくる。……竜の言うお久しぶりって、どのくらいなんだろう?
カールティードさんはチェスタスさんに会ったのも一度だけだと言っていた。
それ以来、此処にも訪れていなかったということだよね。それに神の国から下界に降りてきてから神殿を訪れることもなかったのならばもしかしてそれ以来? そうなると途方もないぐらい長い期間なんだろうな。
「俺、天にこれから戻るから。それと迷子の竜を見つけたんだ。ウルノワさん、心当たりある? そのあたりも天に確認しといてくれる?」
カールティードさんがそう言うと、先ほどよりもずっと大きな声が受話器から聞こえてきた。
『なんですって!!』
……盗み聞きしないようにしようと思っていたのにそんな女性の声が聞こえてきた。
ウルノワさん……という方は女性らしい。カールティードさんがさん付けをしてこうして話しかけているのを見るに、彼女も竜神なのかな……?
「エラ、ちょっとおいで」
「あ、はい」
考え込んでいたら、カールティードさんから手招きをされる。
「ウルノワさんが話をしたいって」
「え」
「大丈夫。ウルノワさんは怖くないよ? 俺が小さな頃も沢山遊んでくれたし、小さな子には優しいから」
いきなりカールティードさん以外の竜と話すことになるなんてと固まる私に、カールティードさんは優しく笑った。
「……は、話してみます」
私はそう言って恐る恐る受話器を受け取った。
「えっと、は、はじめまして。エ、エラと言います」
なんとか口にしたのはそんな言葉だった。自分がどもりすぎてびっくりした。カールティードさんとは沢山話して安心出来ているけれど、他の竜神はどうなんだろうって心配はやっぱり私の中にあるみたい。
不安にならなくていいって散々言われているのにな。
『まぁまぁまぁ! ご挨拶ありがとう。私は時と空間を司る藍竜のウルノワよ。よろしくね、お嬢さん』
嬉しそうな声が聞こえてくる。心から歓迎している様子の言葉だ。
カールティードさんの両親と同じく最初につくられた竜の一種ってこと? そう考えると凄く偉い人なのでないかと驚く。
「は、はい。よろしくお願いします」
『まぁ、そんなに緊張する必要はないわ。これからカールティードと一緒に天に帰るのでしょう? あなたの帰還を祝う準備をしておくわ』
訪れるではなく、帰還と言ってくれるんだなともびっくりした。
そうか。私は神の国へ行くのではなくて、帰るのか。どういういきさつで私が下界に居たのかはさっぱり分からないけれど、神の国は私の帰る場所なんだな。
「ありがとうございます」
『ふふっ、楽しみにしているわ。総本殿経由で帰還するなら、その時に会えるわね。一緒に帰りましょう』
「ウルノワさんは、総本殿に居るんですか?」
『転移門を管理しているのは私だもの。それに下界の様子を見に総本殿にはちょくちょく行くの』
「そうなんですね。楽しみにしています!」
不思議とこうして話していると不安も無くなって行った。ウルノワさんの声が何処までも優しいからかもしれない。
それからしばらく話してカールティードさんに受話器を返した。
……私が話している間、カールティードさんは優しい目でこちらを見ていた。




