「竜体を見せてもらったり、私たちの種族について聞いたり ①」
「おはようございます……。遅くなってごめんなさい」
「ううん。全然いいよ。よく眠れた?」
翌日、起きてから私は宿のエントランスへと向かった。カールティードさんのことを待たせてしまったかなと心配になって謝罪をする。
だけどカールティードさんは全く気にした様子もなく、笑みを浮かべていた。
「はい。ぐっすりでした」
ふかふかのベッドで、びっくりするぐらい深く眠っていた。カールティードさんと会って、安心したからというのもあるだろう。
前世の記憶を思い出して、この世界が「ただの侍女だったのに」と酷似していることを知って気を張っていたのかもしれない。
「それならよかった。ほら、行こうか」
カールティードさんから笑いかけられて頷く。
宿の支払いは既にカールティードさんが済ませてくれていた。柔らかい笑みを浮かべているカールティードさんに連れられて、宿の外に出る。
とても天気が良くて、空気が澄んでいる。
「街の外に出ようか」
「はい」
昼間の時間帯は、街にも人が多い。カールティードさんから手を伸ばされて、自分の手を重ねる。
迷子にならないように手を繋いでくれているのだろう。
誰かとこうして手を繋ぐのも今世では中々なかった。孤児院に居た頃も、そんなに記憶はない。
思い返してみると私の育った孤児院は環境が良くなかったかもしれない。そもそもこの世界において孤児院って、問題のある所もきっと多いのだろうな。親の居ない子供も、それなりに多い。魔物との戦いだったり、国家間の戦争だったり、何らかの事情で命を落とす場合はあるのだ。
私が生活していた孤児院も予算に余裕がない時期などは、食事の量が少なかったりもしていた記憶がある。
孤児院で働いていた人たちも、特に子供に愛情なんてなかったと思う。
だからなんだろう、私のことを甘やかしてくれる人に会ったのは初めてといっていいかもしれない。
小説通りに進むなら、ヒーロー役の旦那様がヒロインであるエラを甘やかす立場になっていたのだろうか。そんな気はする。
カールティードさんに手を引かれて街の外に出て、そして向かった先は森の奥深くだ。
普通の人からしたら危険な場所ではあるけれど、不思議と森の中を歩いていても不安は感じなかった。
「ここでいいか。俺の竜体見せてあげるね?」
森の奥深く、人気の全くない場所に辿り着いてからカールティードさんは口を開いた。
「はい。あ、私も抑えるのやめますね」
私はそう言って、魔力の制御を一旦解く。小説の中のエラのように薬を飲んで抑制しているわけでもないので、魔力で抑えていなければすぐに変化してしまう。
身体中の魔力が脈打っている。
身体が熱い。
抑えていたものが、解放されていくのが分かる。
視線を腕へと向ければ、鱗が映る。
小説の知識があること、それにカールティードさんから話を聞いたこともあって変化に対する恐れもあまりない気がする。
やっぱり情報を知っているのと、知らないのでは心情が変わっていく。
実際に同族を名乗るカールティードさんと会話を交わして、神の国へと向かうことへの不安が無くなっている気がする。嫌な思いをしたら下界で二人でゆっくりすればいいってそうも言ってくれたから。
神の国に向かったとして、そこで受け入れられなかったとしてもそれでも大丈夫だって思えた。
だから自分の身体が変化することも、竜の力が覚醒することも怖くなくなっている。
「綺麗だね」
私のことを見ながら、カールティードさんはにこにこしている。
私の変化した後の姿を見て喜んでいるみたいだった。
嬉しそうな様子のカールティードさんは、私から少し離れて魔力をめぐらせる。
魔力を敏感に感じ取れるようになっている私は、膨大な力がカールティードさんの身体を巡っているのが分かった。
ただ恐ろしいとは全く感じなかった。寧ろやっぱり心地よい。
そして光ったかと思えば、その身体が変化していた。
「わぁ……!!」
そこに居たのは美しい竜だった。汚れ一つのない美しい真っ白な鱗に覆われている。角や爪は美しい金色。大きな翼に、尻尾。
当然のことながら、竜を見るのは初めてだった。
前世でそれなりに異世界ファンタジーの物語を読んできた私は、とても興奮していた。
「凄い! かっこいい!!」
私は思わずはしゃいでしまって、竜体に変化したカールティードさんの周りをぐるぐると回ってじっくりと見てしまう。
「ははっ、気に入った?」
「はい。竜を見るのは初めてで、こんなにかっこいいのだなってびっくりしました」
「それなら良かった。エラもその内、竜体も取れるようになるだろうから、その時は見せてね?」
「竜体になれたらもちろん見せますけれど……、私も竜の姿になれるのですか?」
正直、自分が竜の姿を取るだなんて想像が出来なくて、そう口にしてしまった。
カールティードさんは私が竜の姿を取れるだろうと疑っても居ないようだけれども……。
「うん。なれるよ。竜体を取れるようになったら、成体になった証だからお祝いしようね? 竜の力がエラの身体に馴染んで、大人になったら竜の姿をとれるよ」
そう説明をされて、昨日感じた疑問が一つ解消された。竜にとっての成人の証は、竜体をとれることであるらしい。
そう考えると確かに私は竜の姿をとれないから、竜としてはまた子供なのだろう。
「カールティードさんは竜の姿になれるようになったのっていつ頃なんですか?」
「俺? 確か百歳にはなっていなかったと思うけれど、覚えてないや」
「百歳……カールティードさんって、今何歳なんですか?」
「俺は三百歳超えたぐらいだよ。だから同族の中では今まで一番下だったんだ。エラは俺が初めて出会った年下の同族なんだよね」
カールティードさんのそんな言葉にまた疑問が芽生える。
小説の中で竜人もいたはずだ。二巻でもちらっとその情報が出ていたし、友人が竜人の話をしていたはずだ。竜人の子供の話もあったはずだし、どういうことだろうか?
「私が初めて出会った年下の同族? あの、前世の小説の中で竜人の子供の話もあったと友人に聞いた記憶があります。だから三百歳より下の同族って、いるのでは……??」
私がそう言ったら、カールティードさんはきょとんとした顔をする。
「あ、そっか」
そして何かに気づいた様子を見せて、続けた。
「ごめんね、分かっているかと思って説明漏れていたかも。エラの言っているのは、人族である竜人のことだよね。俺達は竜人ではなくて竜だから、彼らとは違うよ?」
「え?」
「人族の言う、竜に神と書く方だね。竜は個体が凄く少ないから、俺より年下の子は初めて会ったんだよ」
な、なんだって――!?




