「食事を終えた後、宿にて」
10/11 二話目
食事を終えた後、私たちは宿へと向かった。カールティードさんには竜神教の神殿にでも行くかとも聞かれたけれど、私が不安そうにしていたからか宿をとってくれたらしい。
あとはこの街の神殿には人間ばかりっぽいから、大きい神殿に行った方が色々楽らしい。
うん、私にはよく分からないけれど、カールティードさんがそういうならそうなのだろうなと思った。
それにしてもカールティードさんってお金に余裕があるのだなぁ。連れてきてもらった宿、良いところだった。
しかも別部屋をとってくれた。
私が同室に泊まることを躊躇していたからなのだろうな。
「エラ、明日起きたら宿のエントランスに集合ね? 出発するのは何時でもいいから寝たいだけ寝ていいよ」
カールティードさんはわざわざ私のために取ってくれた部屋の前まで送ってくれる。
「え、いや、流石に寝坊はしたくないのですが」
「大丈夫だよ。夕方とか夜まで寝ていても問題ないよ? 寝たいだけ寝たらいいんだよ」
……なんか、うん、私もう十六歳なのに滅茶苦茶甘やかされている気がする。あと竜だからこそ、時間に対してルーズなのかもしれない。
個別の性格によるもので、カールティードさんがただのんびり屋さんなだけかもしれないけれど。
「変化後の姿は人前では嫌だって話だから、明日見せてもらおうかなぁ。此処だと、また急に変化しちゃう感じになるから嫌でしょ?」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「全く気にしなくていいよ。それと、眠る前に一つ重要なことだけど、誰かと気軽に約束はしないようにね?」
「え? それって……」
「口約束程度ならまだいいけれど、魔力を用いた正式な約束をしたら駄目だよ? 俺達はそういった約束をしちゃうと世界に誓った形になってしまうから。そうなったら取り返しのつかないことになってしまう可能性が高いし、それで制約がかっちゃうよ」
「そうなんですか……!?」
「うん。竜にとって約束は大事なことだよ。だからなるべく約束はしちゃ駄目。同族にはちゃんと伝えるようになっているのだけど、エラはそのことも教えてもらってないだろうから」
「分かりました……!」
私と話す時はいつもにこにこしているカールティードさんが真剣な目で言うので、私は大きく頷いた。
「分かってくれたなら良かった。じゃあ、また明日ね? もし寝れなくなったらいつでも俺の部屋来ていいからね?」
「……カールティードさん、私のこと、何歳だと思っているのですか?」
「ん? だってエラはまだ成体になっていないから、子供でしょ?」
あ、そう言う認識なんだと思った。この世界だと人間は十六歳は既に働いている年だ。だけど竜の血を引く者にとっては違うのだろうな。
「今日は色んな話を聞いて疲れたでしょ? ゆっくり休んでね」
それからカールティードさんはそう言って私の頭を軽く撫でる。私はカールティードさんに見守られながら部屋の中に入った。……なんで入るまで見守ってくれているのだろうか?
さっき言われたように私が子供だって認識だから? 私は大人なつもりだから、ちょっとなんか、変な感覚……。
ベッドに寝転がって、今日のことを振り返る。
カールティードさんに話しかけられて、同族だからってよくしてもらって。知らなかった竜のことを聞いて。それでいて竜を堕とそうとしている存在も居て。うん、情報過多すぎる。
一日でこんなことになるとは思っていなかった。
成体ってどうやったらなれるのだろうか? どういう状態が成体ってこと? そもそも私はこの年まで自分のことを人間と思い込んで生きていたわけで、その辺の成長過程ってどうなのだろうか?
竜同士の子だと最初は人として産まれるとか? いや、でも友人から聞いた「ただの侍女だったのに」の世界では竜人の子供の話があった気もするし。うーん、分からない。
私は両親のことを知らないけれど、十六歳まで人間で、その後竜に覚醒するってどういう生態なんだろう……。私に竜の血だけではなく、人間の血も流れているからってこと?でもそれだと違いが全然分からない! うん、そのあたりは明日になってからカールティードさんに聞いてみよう。
それに、最後に聞いた約束の話……。
前世の「ただの侍女だったのに」の世界でそういう話あっただろうか……? と思い越してみる。
――あのね、聞いて。エラがね、約束をするシーンがとても素敵だったの。相手と添い遂げるために特別な誓いをするなんてとても素敵!!
そこで友人の言葉を思い出した。あった。そう、私はそのシーンを小説で読んでもないし、アニメを見たわけじゃない。
でもその約束が……カールティードさんの言うような正式な約束だったならば、小説の中のエラはそれがそこまで特別な制約になってしまうなんて知らずに約束をしたのではないか。
少なくとも私は……前世の記憶がなければ竜にとって魔力を用いた約束がそんなに特別なものだと知らなかった。
……それはきっと、小説の中のエラもそう。
そう考えると、ぞっとする。
何も考えずに、周りの善意を信じて……疑うことも知らなかったら。前世の記憶が無くて、あの屋敷から逃げようと思わなかったら。
人を疑うことを知らないままに生きていたら、「大切な人と一緒にいるために約束をした方がいいよ」なんてそそのかされたら、深く考えずに約束をしてしまったかもしれない。
それこそ、カールティードさんの言っていたように下界に留まらなければならない枷にだってなり得たのではないだろうか?
竜の血を引く者を下界に留めるメリットってなに? おそらく何かしらあるのだろうけれど、それも私は知らない。
そこまで手を回してまで、私を留めたかった何かがいるかもしれないってことなんだよね?
それにこれって前世で言う卵が先か鶏が先かの問題でもある気がする。
うん、小説があって、その世界に私が転生したじゃなくて。
カールティードさんが言ったように元々竜の血を引く私が産まれる未来が事実としてあって、その私を下界に留めるためにその通りになるような理想を物語として異世界に流したとか?
でも前世の記憶がなかったらそのままのんびりと生きて、小説の通りのエラとして生きていたかもしれないわけで……。そう考えると私を下界で囲ってしまおうという人と別に、カールティードさんがいったように私が囲われてしまわないように誰かが何かしてくれた?
うん、難しい!! この状況、凄くややこしいよ。
色んなことを考えていると頭がパンクしそうになる。でもカールティードさんに出会えてよかったな。一緒に居ると安心するし、私に対して悪意が全くない。ずっとにこにこしていて、純粋に私のことを可愛がっているというかなんというか。
話を聞いている限り、迷子の子供を見つけたから保護している感覚なんだろうな。それこそ前世で言うショッピングセンターとかで、迷子の子供がいて保護して一緒になって笑っている大人みたいな感じなのかも。
「ふぁ……」
考え込んでいたら眠くなってきて欠伸が出た。
そして私はそのまま、ふかふかのベッドに身を任せて、気づいたら夢の世界へ旅立っていた。
……起きた時にはすっかり昼間でびっくりした。




