9 ゴリアドファミリー
ギルドに戻ると、ランクは【D】になった。
レベルも22。
悪くない。
「俺はもっと強いモンスターを倒したい」
エイジは気軽に言うけど、問題は山積みだ。
まずは資金。
「装備を買い換えなきゃ。2~3日は歩いて稼ごうよ」
「俺が魔石食べるから、資金不足だよな。ごめん」
「それは構わないよ。3階層はエイジと相性が良さそうだし」
「スケルトンナイトに、巨大鰐、槍を持ったリザードマンか。弱点は火だな」
ギルドの隅で地図を広げながら頭を寄せて、僕達は話し合っていた。
すると、
ぞわり……
またあの視線だ。
恐ろしい威圧を感じて、僕達は顔を上げられなかった。
息を殺していると、
ガシッ!
後ろから肩を、痛いほど掴まれた。
のっそりと……
身長が2メートルを超える、ゴリラ獣人の男が僕達の顔を覗き込む。
「はぅうっ!?」
びっくりし過ぎて、僕の喉からヘンな声が出た。
筋肉ムキムキ、間違いなくゴリラだ。
なぜか後ろには、美形の男性が二人控えている。
「可愛い坊や達ね、うちのファミリーに入れてあげるわ」
ゴリラ男は優しげな口調で、エイジの頭を豪快に撫で回した。
「や、や……」
止めろと言えないエイジ。
受付のジニーさんが慌てて飛んで来る。
「ゴリアド様! この二人は未成年です!」
「あら、いくつなの?」
「17歳です!」
「そう。じゃあ、ダーリン、来年が楽しみだわ!」
そして――
ぶちゅうっ!
エイジの頬に熱いキスをした。
犯罪級のセクハラだ!
去り際にゴリアド様は、僕の頭もワシワシ撫でると、そのまま満足そうに二階への階段を上っていく。
残された僕たちは顔面蒼白だ。
エイジなんて、今にも吐血しそう。
すぐにクリーン魔法を発動。
「何だよ、あのゴリラ! ファミリーって何?」
「ダーリンって言ったよね」
同時に、二人ともブルブル身震いした。
「厄介な方に気に入られましたね」
ジニーさんが声を潜めて教えてくれた。
ゴリアドはSクラス冒険者。
ゴリアドファミリーのボスである。
『ファミリー』とはボスが絶対王者のパーティー構成のこと。
ただし。
これはただのパーティーじゃない。婚姻によって認められるのだ。
驚いたのは、この世界は一夫多妻も、一妻多夫も認められている。
男女の区別も関係ない、ジェンダーニュートラル社会。
ただし、誰でも自由にファミリーを作れるわけじゃない。
ファミリーを形成する条件がある。
ボスはギルドランク【A】以上、冒険者レベルが100以上であること。
その上でファミリーの月収が1億ガル以上。
ギルド本部に申し込んでも安定した収入がないと審査は通らない。
月収1億ガルで二人目の配偶者。
3億で三人目。
5億で四人目。
しかも上限なし。
……完全な金持ち用システム。
「しかも、ボスの配偶者は、愛人を持つことも許されます」
「へぇえ……」
――いや、感心してる場合じゃない!
『来年が楽しみだわ!』
ゴリアドはそう言っていた。
そしてジニーさんの予想では――
エイジがゴリアドの夫。僕がエイジの愛人。そういう形で僕たちをファミリーに取り込む。
「げっ! 冗談じゃない。唯斗、逃げよう!」
「うん、急いで遠くに行こう!」
「あの方はしつこいですよ。狙った獲物は絶対に逃がしません」
……絶望的だ。
「でも回避方法はあります。毎月【見逃し料】として、ゴリアド様に100万ガル以上を納めるんです」
「お金で見逃してもらうの? ひどいシステムだな」
「はい、問題になっているんですけど。誰も止められなくて」
しかも、こんな悪習慣はゴリアドだけじゃない。
この世界のあちこちに蔓延しているとか。
「普通に、誰かと結婚すればよくないか?」
「原則では既婚者には無理強い出来ません。でも、弱者に対して権力を使い、好き勝手やるんですよ」
「うぐっ……」
エイジが肩を落とす。
「見逃し料を払おうよ。100万ガル、無理すればいける」
僕の提案に、エイジは反対した。
「いや! 唯斗、俺達のファミリーを作ろう!」
「うーん」
ギルドランク【A】レベル100だよ?
月収だって――1億ガルだ。
──無理!
ともかく、来年までに何か対策を考えないといけない。
これって、もしかして――『ダンジョン巡り生活』の始まりなんじゃないか?
「強くなってお金も貯めよう! ファミリー結成だ」
エイジは、すっかりその気だ。
元の世界のエイジは、もう少し冷めた性格だった。
適度に距離を取りながら、クラスメイトとは上手く付き合っていた。
環境が変わると、人ってこんなに変わるんだな。
僕は……あまり変わっていない。
でも、この世界で生き残るには、僕も変わらなきゃいけない。
ゴリアドなんて獣人に目を付けられたせいで、僕の計画――『異世界のんびり生活』は盛大に崩れ去ろうとしていた。
ああ、なんてことだよ。
──ちっくしょう‼
読んでいただいて、ありがとうございました。




