8 約束
翌日、僕たちは再び【青のダンジョン】へやって来た。
昨日の疲れは全くない。
このダンジョンは全七階層。
最下層にはレベル67のサラマンダーがいる。
そいつの牙を50個ギルドに納めれば、
【上級ダンジョン通行書】が手に入る。
その頃にはエイジも大型犬になっているかも、だ。
――そんな期待を胸に入口をくぐった時だった。
「唯斗。俺、なんだか体がウズウズするんだよ」
「……変身しないでよね。……って、ええええっ!?」
止める暇もなかった。
エイジは一瞬で犬になっていた。
しかも。
「ワンワンワンッ!」
めちゃくちゃ楽しそうだ。
ダンジョン内を全力疾走して、まさにワンコ。
「待て! 本当に待て!」
オークウォーリアに遭遇すればイチコロだぞ!?
って!
前方にオークウォーリアが二匹現れた。
「エイジ! 戻れ!」
しかし――
エイジは逃げない。
大きく口を開くと、
ゴォォッ!!
火球が飛んだ。
「……うそぉ」
炎に包まれたオークウォーリアたちが悲鳴を上げる。
「ぶひぃぃぃぃっ!!」
香ばしい匂いを残して消滅。
肉の塊が一つ転がった。
「強っ!?」
エイジは喜んで肉へ飛びついた。
「あっ! 待て!」
エイジはピタッと停止。
でも目は完全に肉を狙っている。
──エイジじゃないな。もうワンコそのものだ!
「よし、そのまま」
僕は急いでブブたんに肉を換金してもらう。
「メッ! 生肉に寄生虫がいたらどうするんだよ!」
「クゥーン……」
……可愛い。
だけどダメなものはダメだ。
その後もワンコの快進撃は続いた。
走り回り、飛び跳ね、火を吐く。
敵は次々と消し炭になって消えた。
「今日はブブたんの出番なさそうだな」
そう呟くと、ブブたんがブルッと小さく震えた。
「絶対、ブブたんは意思があるよね?」
ブブブブッ。
──うん、間違いなくあるな。
オークウォーリアーを20匹ほど倒して、2階層への階段に到着した。
このダンジョンの長所。
広い割には次の階層までの距離が約1キロと、近い事。
下への階段は安全地帯、一息つくところなのに。
「ワンッ!」
「あっ、こら!」
ワンコが勝手に階段を駆け下りていった。
「エイジ!」
慌てて追いかける。
本当に目が離せない。
ちゃんと躾をしないと、このままじゃ絶対危険だ。
二階層へ降りると視界が一気に暗くなった。
目が慣れるまで立ち止まる。
「こんな予定じゃなかったのに……」
遠くで炎が弾けた。
ワンコだ。
ゴブリンシャーマンとシャドーウルフを相手に戦っている。
火球が飛ぶ。
敵の魔法も、つぎつぎ飛ぶ。
だけどワンコの動きは、恐ろしく速かった。
闇の中を駆け抜け、敵の攻撃はまるで当たらない。
やがて魔物たちは倒れ、勝利したワンコの遠吠えが響いた。
「ワオォ──ォォン!」
声に向かって、僕が慎重に二、三歩進んだ時だった。
ビシュッ!
ビシュッ!
ブブたんから光線が二発飛んだ。
「ギャンッ!」
隠れていたシャドーウルフが倒れ、魔石が転がった。
油断はできない。
ブブたんは強力だけど、壊れやすいという弱点もある。
もしここで砕けたら大惨事だ。
大量の小銭が地面にぶちまけられる。
「壊さないように気を付けなきゃ」
するとワンコが戻って来た。
「ワン!」
まるで『任せろ』と言うように尻尾を振る。
(――いや、お前が一番心配なんだからな!)
しばらくすると、ワンコはエイジの姿に戻った。
「つ、疲れた……」
その場にへたり込む。
「そりゃ、あれだけ活躍すればね」
「へへっ」
エイジは笑ったけど、僕は笑えない。
「唯斗、これで俺も役に立てそうだ」
「確かに強くなったよ。でも、このままじゃパーティを組む意味がない」
「え?」
エイジは意外そうな顔をした。
「勝手に突っ走って、全然連携が取れない。そんなに強いならソロでいいよ」
「ソロなんて無理だ」
「分かってるなら協力してよ。今日みたいに勝手な行動をするなら、僕はもうダンジョンに来ない」
強く言い切るとエイジの顔は悲しそうに見える。
もちろん、分かってるよ。
新しい力が嬉しくて、はしゃいでしまったんだよね。
だけど。
ダンジョンでの勝手な行動は命に関わる。
絶対に譲れない。
「ごめん。これからはちゃんと協力する。だからさ……許してよ、唯斗」
「約束だよ?」
「する!」
「ならいいよ」
「よかった」
仲直りした僕たちは一階層へ戻る。
帰り道は役割を決める。
攻撃担当はブブたん。
周囲の警戒はエイジ。
そして僕はブブたんを守る。
歩きながら考える。
――もう一人仲間が欲しい。
僕達を守ってくれる人。
信頼できる仲間。
いや。
首を振った。
強くなれば、もっと先へ進みたくなる。
危険な魔物のいる場所へ。
そうやって人は無茶をする。
僕はそんな冒険者になりたくない。
目指しているのは、平和で安全。のんびりした暮らしだ。
「唯斗?」
エイジが僕の顔を覗き込んでくる。
「なに?」
「もう怒ってない?」
「ないよ」
「ほんとに?」
「ほんと」
「俺は唯斗には嫌われたくない」
「嫌うわけないよ」
僕はずっと、眩しい君に憧れていたんだから。
読んでいただいて、ありがとうございました。




