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異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった  作者: ミカン♬


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7 11日目 エイジの進化

 青のダンジョンから無事に冒険者ギルドへ戻ると、受付のジニーさんがほっとしたように長い耳を下げた。


「換金はないのですか? やはり、すぐ撤退したんですね?」


 成果なしだと思われている。

 銀の髪飾りも鞄の底だ。


 でも白のカードを提出した次の瞬間――


「レベル19⁈」


 鑑定結果に驚いた。


「ちゃんと戦ってきましたよ。一階層だけですけど」


 ジニーさんはもう一度、僕たちを鑑定したが結果は同じLv19だ。


「換金はしないのですか?」

「はい、必要なので」


「はぁ……」

 それ以上は追究してこなかった。



 あとは宿に帰って、エイジに魔石を吸収してもらうだけだ。


 帰ろうとすると、


 ぞわり……


 背筋に冷たいものが走る。

 誰かに見られている。


 反射的に階段の方へ意識が向く。


 二階。

 でも怖くて見上げられない。


 心臓が嫌な音を立てていた。


「ジニーさん。二階って何があるんですか?」

「ギルドマスターの部屋と、Sクラス以上の冒険者専用室ですよ」

「そうですか、ありがとう」


 それ以上聞くのは危険な気がした。



 ギルドを出ると、隣を歩くエイジが囁いた。


「唯斗も、視線感じたか」

「うん」


「俺もだ。全身ゾワッとした」

「誰だろう」


「絶対にロクな相手じゃない」

 エイジの表情は強張っている。


「そんな顔をされると余計に不安になるよ~」


 僕たちは警戒しながら、足早に宿へ戻った。



 ◇


 宿の部屋に戻ると、さっそくエイジが魔石の吸収を始めた。


 今の姿は子犬。

 ベッドの上でちょこんと座り、次々と魔石を取り込んでいく。


 そして今日の分を半分ほど吸収した時だった。


 ムクムクッ――

 目の前で体が大きくなり始めた。


「ふぇ──っ!?」


 エイジは子犬から柴犬くらいの大きさに成長していた。


「中型犬に進化した!」


「ワンワン!」


 嬉しそうに尻尾を振ったエイジ犬が僕に飛びついてくる。


「うわっ!」


 そして顔をぺろぺろとなめる。


「ちょ、エイジ!」


 普通の犬なら、僕は絶対に許さない。

 でも嫌じゃない、だってエイジだから。


「よしよし。いい子だな」


 頭を撫でると、エイジ犬は満足そうに目を細めた。


 抱きしめるとふわふわで温かい。

 癒される。


「君がいてくれてよかった」


 そう言った瞬間――


 テーブルの上でブブたんが震えた。


 ブーブブブブブ!


 まるで抗議しているみたいだ。

 いや、まさか。


「……やきもち?」

 試しに頭を撫でると、振動はぴたりと止まった。


「よくわかんないよ」

 ブブたん、話せるといいのにな。


 ◇



 残った魔石も全部吸収し終えると、エイジはぐっすり眠ってしまった。

 僕は顔を洗って、一人で夕食を済ませた。

 もちろんエイジの分は持ち帰る。


 部屋に戻るとエイジは人間の姿に戻っていた。

 しかもシャワーまで終わっている。


「おかえり」


 濡れた茶髪。

 水滴が首筋を伝い、鍛えられた上半身がランプの明かりに照らされる。


 なんというか……妙に眩しい。

 視線の置き場に困る。


「食事運んでくれたんだ。あり!」


「う、うん。僕もシャワーしてくる」


 逃げるように浴室へ向かった。


 さっき頬を舐められた感触を思い出して、顔が熱い。

 今日はぬるめのシャワーが心地よかった。



 ◇



 夜。


 エイジに前から気になっていたことを聞いてみた。


「犬に変身した時って、どんな感じなの?」

「んー。テンションが上がる。走り回りたくなるんだ」


 なるほど。


「人の時とは、全然別人だよね」

「なんか解放された気分になる」


「へえ」

「それと――」


 エイジは少し間を置いた。


「唯斗のことを『ご主人サマ』って思える」


「はぁあ?」


「世話になってるからな。犬の時は、唯斗に飛びつきたくてウズウズする」


 エイジ、完全にワンコじゃないか。


「自分の意識はあるの?」

「もちろんある」


 あるのか。

 あるのに、僕の顔を舐めるのか。


 たぶん犬の本能が強くなるんだろう。

 あれはご主人サマへの愛情表現なんだ。


「そっか。よく分かった。早くシェパードになれるといいね」


「もっと進化したら戦えるかもしれない。

 今は唯斗に頼りっぱなしでさ、申し訳ないと思ってる」


 驚いた。

 エイジがそんな風に考えていたなんて。


「何言ってんの。エイジがいなかったら、僕はダンジョンにだって行かなかったよ」


 一人だったら絶対に挑戦しない。

 きっと歩いて、地道にお金を貯める生活を選んだだろう。


「エイジだって勇者だもん。もともとポテンシャル高めだし、頼りにしてるよ」


「へへっ」

 エイジは笑うだけだ。


 僕もそれ以上何も言わない。


 戦力外なのは僕も同じだ。

 戦う能力もないし、ブブたん頼り。


 でも気にしない。

 普通に生活している人だって、この世界には大勢いるんだ。 


 お金さえあれば別に強くなる必要もないと、僕は思っている。

 

 ──エイジには言わないけどね。


 彼がシェパードになるまで、僕は一緒に頑張るだけだ。



読んでいただいて、ありがとうございました。

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