10 ブブたんの進化
異世界に来て20日目。今日も、挑むのは【青のダンジョン】。
冒険者レベルは29になった。
目標は――ファミリーの形成だ!
……とはいえ、僕には別の目標もある。ゴリアドに【見逃し料】100万ガルを払うんだ。
その方が絶対に現実的だって。
だいたい結婚相手だってどうするんだよ。
エイジはいい。女子にモテるから。
僕はどうなるんだ?
エイジの奥さんの愛人になるのか?
……いや、それ、認めてもらえるかな。
それに元の世界に帰る時はどうするんだ。
エイジは奥さんを置いていくのか?
考えれば考えるほど、悩んでしまう。
──お金だって悩みの種だよ。
ここは日本より遥かに物価が安い世界。
生活消耗品は確かに激安だ。
でも、冒険者として生きていくにはお金がかかる。
先日買ったマジックアーマー。
魔法ダメージを30%カットしてくれる。
それが2つで10万ガル。
もしも、高級防具で全身揃えると確実に赤字だ。
まあ、歩けば小銭は貯まるけどね。
ちなみに、ブブたん貯金は344140ガル。
そんな僕の悩みも知らず、今日もエイジは絶好調。
たった今、僕たちはダンジョンの1~2階層を駆け抜けたところだ。
──3階層へ到着。
ワンコは軽やかに駆け出し、沼地で戦闘開始。
変身時間は約1時間。クールタイムは30分。
火に弱いリザードマンや、沼に潜む巨大な鰐が、次々と倒されていった。
「エイジ、強い!」
僕は感心しながら後を追う。
ワンコはそんな僕を気遣って時々振り返る。無茶な進み方はしない。
ドロップ品はすぐ換金。
で、魔石……
ぜんぶワンコのドッグフード。
……貯金はあまり増えない。
やっぱり、1億ガル稼ぐなんて、夢のまた夢だよ。
その代わり経験値はしっかり増えていた。
たった今、僕のレベルは30になったはずだ。
なぜ分かるのかというと――
ブブたんが進化したから!
僕の手からふわりと離れたブブたん。
自分の意思で飛べると判明した。
ブブたんは、そのまま頭上へ移動。
そして定位置を確保すると、クルクル回転し始めた。
まるで戦車の砲塔みたいに360度攻撃できる。
「進化おめでとう、ブブたん!」
ブブブブーーー!
たぶん『アリガトウ』って言ってると思う。
こうなると僕の両手も自由になった。
早く戦力にならないと!
そう思った時。
ワンコが倒したリザードマンから、キラキラと輝くアイテムが落ちた。
「ワン!」
「出た! 奇跡のレアドロップだ!」
現れたのは【ハルバード】。
槍と斧を合わせたような武器で、万能の強さを誇る。
超ラッキー! 装備可能はレベル40以上だ。
恐る恐る手に取る。
見た目は重そうなのに、すごく軽い。
僕のレベルは足りないのに、握った感触もしっくりくる。
まるで最初から僕のために作られたみたいだ。
「貰っていい?」
「ワンワン!」
「ありがとう」
――これで戦える。
ようやく僕も、エイジの隣に立てる気がした。
「帰ろうか。今日はここまで」
「ワン!」
2階層へ戻った。
途中のモンスターは、ブブたんがどんどん倒していく。
クルクル360度の、ブブ回転無双。
僕とエイジの出番はない。
シャドーウルフの通常ドロップが出た。
【漆黒の布】電撃を遮断。防具の素材。
ハンカチサイズで軽いから鞄に入れる。ギルドで換金800ガルだ。
ブブ換金は便利で助かる。
ギルドと同じ値段で換金してくれるんだから。
本来、全部ギルドで換金する方が世間の役に立っていいんだけどね。
でも、リザードマンの錆びた槍や大鰐の鰐皮とか、鞄に入らないんだよ。
血の滴る肉の塊なんて面倒なドロップも、全部ブブたんにポイだ。
──1階層へ戻る頃には、エイジも元の姿に戻っていた。
前から聞いてみたかった。
「人に戻った時、装備や服とかは、ちゃんと身に着けてるよね、どうなってるの?」
「俺も分からない。勇者チート! ということで」
チート……便利な言葉だ。
「僕がハルバードを装備できるのもチート」
「ブブたんなんて、チートの塊じゃん」
「確かに」
錆びた槍、1本1200ガル
鰐皮。1枚1000ガル。
今回の換金額はざっと10000ガルくらい。
貯金はあまり増えない。
だけどエイジはいつも通り前向きだ。
「強くなろうぜ! ギルドランクを【A】にしよう!」
「レベルを100まで上げないといけないんだよ?」
「できる! だって俺達は一応、勇者なんだから」
「うん」
できるかな?
追放された勇者なんだけど……
エイジと一緒なら、可能かもしれない。
──そんな気になってしまう、不思議だ。
読んでいただいて、ありがとうございました。




