46 初心に戻って
「エイジ……間に合ったんだな。良かった」
ブブたんは場所と時間を調整して、異世界へ戻してくれた。
あっちの3時間が、こっちの180日くらい。
向こうで、1時間以上過ごした。
こっちでは2か月くらい過ぎていたかもしれない。
「唯斗……」
エイジは、今にも泣きそうな顔をしていた。
「俺、勇者じゃなかった。人間でもなかった」
「いや、人間だよ。一緒に日本に帰ろう」
「唯斗!」
エイジに思いっきり抱きしめられた。
「く……苦しい」
「悪い。嬉しくて、つい」
氷のヴァエルの隣に、魔王は立っていた。
「勇者よ、記憶は戻ったか」
「はい。元の世界に戻る方法も分かりました」
「息子の方は一向に戻らぬ。頑固なヤツよ」
エイジは無意識に、記憶が戻ることを拒んでいるのかもしれない。
そうやって、自分は人間なのだと、心を守っている。
魔王は動かない。
僕を殺すつもりはないようだ。
乱暴な方法だったけど、キョウヤの記憶を手に入れることができた。
立ち上がろうとすると、足下がふらついた。
すぐにエイジが肩を貸してくれる。
「俺さ。……俺……気づいたんだ」
「うん?」
「唯斗が何よりも大事なんだって」
「何だよそれ。告白みたいじゃないか」
「だって、そう思ったんだから仕方ないだろう!」
「僕も同じこと思ったよ。だから、こっちに戻って来た」
「へへっ」
いつものように笑うエイジ。
なんだか恋人同士みたいな会話になってしまった。
真っ直ぐ立つと、頭がくらくらした。
傷から血を流しすぎたんだ。
「おい魔王、いつまでここにいるんだ!」
(ちょ、やめて!)
……エイジ、
魔王を怒らせないでくれよ~。
黙って魔王が手を上げる。
すると、僕とエイジは別の部屋へ飛ばされた。
(助かった)
そこは会議室のような場所で、円卓を囲んで仲間たちが待っていた。
僕が血だらけなのを見て、全員が一斉に立ち上がった。
ロイが駆け寄る。
「何があったのですか!」
「大丈夫。ちょっと座りたい」
椅子に座り、荒い息を整えていると、ゴブリンのような悪魔が部屋に入ってきた。
「魔王様から、薬を渡すようにと命じられました」
差し出された真っ赤な粒状の薬を、僕は飲み込んだ。
エイジが悪魔に命じる。
「休める部屋を用意しろ!」
「かしこまりました。少々お待ちを」
……エイジ、すっかり若様じゃん。
◇
魔王の薬を飲んで、僕は元気になった。
エイジのスキルのお陰でもある。
仲間には魔王との経緯を説明。
死に戻りの件もエイジに話した。
「ユイトさん、いつか地球に帰ってしまうんですか?」
クーに聞かれた。
「うん。家族が待ってるからね。その前に最強を目指すけど」
「ん! 強くなってゴリアドの件、片付けたい」
「ラスを守る為、私も最強を目指します!」
「ロイとラスならなれるよ」
タイムリミットは21時間。
21時間×60日=1260日。
……いや、待てよ。
僕はロイに尋ねた。
「魔族と停戦したのは何年前なの?」
「100年前です」
100年!?
キョウヤとして80年生きて、唯斗として17年。
あれ?
あっちの3時間が異世界の180日って計算、全然合わないじゃん!
というか、時間はほぼ同時に進んでるってこと?
僕は頭を抱えた。
「エイジ、この謎を解いてよ。僕の頭じゃムリ!」
「んん……こっちとあっち、転移するのが魂ってところがオチじゃないか?」
「わかんないよ~」
「俺だって分からないよ。てか、分かろうとするだけムダじゃね?」
「そっか……」
うん。考えても分からないものは仕方ない。
死に戻りするには1260日が目安。
それを信じよう。
「魔界で買い物をしておかないか」
フィルが言い出した。
「ん。魔力回復薬、なくなった」
「行きましょう、ユイトさん!」
地底帝国を観察してみたい。
僕は頷いた。
お金なら、たっぷりある。
「ブブたん、資金を出してくれる?」
「ブ……」
「とりあえず、みんなに小金貨1枚ずつ渡そう」
「……ブ」
「ブブたん?」
僕はブブたんを掴んで、上下に振った。
……音がしない。
「うそ……カラッポ?」
まさかの完全枯渇!
こっちに戻るために、ガルを魔力として使い果たしたのか?
「55億も必要だったの?」
「ブブ!」
「55億だよ?」
「ブブブブブブブ!」
「そっか……」
ブブたんを責めるのは間違っている。
あれはアルカードがくれたお金だった。
もし、あのお金がなかったら……僕はこっちに戻って来られなかった。
改めて、アルカードに感謝。
そしてブブたんにも。
部屋は、シーンと静まり返っていた。
「あ……唯斗、また歩こうぜ」
「ダンジョンに行けば、すぐに貯まります」
「ん!」
「自分もそう思います」
「買い物はお預けだな。儂はタバコさえあればいい」
「うん」
皆の言う通りだ。
初心に戻って――歩こう!
そして高難易度ダンジョンを攻略だ!
読んでいただいて、ありがとうございました。




