45 魔王とエイジと唯斗
★エイジ視点★
瀕死の唯斗を、腕の中に抱きしめていた。
俺のスキルで、絶対に唯斗を死なせない。
「次は俺を殺すのか」
「いいや」
「くっそ! 唯斗が死んだら、お前を殺す!」
すると魔王は息を吐いた。
「はぁ。そうやって、お前は勇者キョウヤを救おうとした。その時に倒されたのだ」
「キョウヤ?」
遠い。
でも、どこか懐かしい名前。
「魔族は数個の心臓を持つ。お前は二つ持っていた。キョウヤを救うため、心臓の一つを与え《《蘇生》》しようとした。だが、裏切った勇者たちによって、お前もキョウヤも命を落とした」
「は? 何の話をしているんだ」
「お前の魂はキョウヤと共に、地球へ渡った。恐らく、心臓を与えたから。あるいは、お前自身が望んだのかもしれない」
話を聞きながら、俺は別の疑問を口にした。
「じゃあ、どうして息子に、お前の心臓を与えなかったんだ?」
「長い年月、何度も勇者と戦い続け、余の心臓も残り一つだ」
「それが、人族と停戦した理由なんだな」
「そうだ。お前が再び戻るのを、余はずっと待っていた」
ここまで聞けば、俺にも分かる。
「俺が若様ってことか。あの遺体は前世の……俺なんだな」
「お前の名はヴァエル。真の体を取り戻せ」
俺は勇者なんかじゃなかった。
魔王の息子。
──勇者の敵だった。
「恨みを晴らせ。人族に復讐するのだ」
魔王が仮面を外した。
氷の中に眠っているヴァエルと、同じ顔。
美しいのに、どこか恐ろしい。
そうだ。
俺はヴァエルの体を取り戻す。
そして魔王になる。
……魔王に。
「へへっ。俺は地球で生まれたんだ。元の世界に帰る。魔王になんかなるもんか!」
危ない。
もう少しで、魔王の言葉に飲み込まれるところだった。
「ヴァエルの体を取り戻せば、余の心臓も与えよう。継承すれば100倍は強くなれるぞ?」
「断る。人間やめるのマジでイヤだ」
「受け入れれば、勇者ユイトを助けてやろう」
唯斗!
顔から血の気が引いて、
脈も弱い。
「ユイトが死んだら俺も死んでやる。異世界なんて、俺にはどうでもいいんだよ!」
継承なんてしない。
世界なんて、どうでもいい。
今の俺が大事なのは──。
唯斗だけだ。
◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇
義彦たちは僕の話を信じるだろうか。
もし、義彦たちが前世の勇者仲間だったとしたら、僕のように記憶を戻すかもしれない。
思い出すだろうか。
キョウヤを殺したことを。
キョウヤは裏切り者のレッテルを貼られた。
魔族との同盟を望んだからだ。
キョウヤと魔界の王子は何度も激突した。
戦いを繰り返すうちに、二人は少しずつ心を通わせていった。
戦争の虚しさを、互いに理解したんだ。
魔界の王子、ヴァエル。
あの氷の中に横たわっていた少年だ。
キョウヤが死んだあと、ヴァエルも死んだのか。
魔王は、その遺体をずっと保存していた。
──蘇らせるために?
そのための生贄がエイジ。
いや。
エイジの魂を、ヴァエルの体に戻すと言ったほうが正しい。
エイジは勇者なんかじゃない。
魔界の王子だったんだ。
でも、どうしてヴァエルがエイジとして、こっちの世界に生まれていたんだろう。
キョウヤが死んだあとに、何かがあったはずだ。
異世界はどうなったのか。
魔族が地上を制覇したのか。
人族が勝ったのか。
キョウヤには知ることができなかった。
それだけが、前世の心残りだった。
そして今。
泣き崩れる家族を目の前にして、
僕の中に葛藤が生まれている。
──このまま、こっちに残りたい。
何もかも放り出して。
家族と一緒に暮らしたい。
……だめだ。
……エイジが僕を待っている。
まさか、もうヴァエルになってしまったんじゃ……。
そんなことになったら、僕たちは一緒にこの世界へ戻れなくなる。
魔王の攻撃は、僕の記憶を戻す為なのか?
戻れば確実に殺されるかも……。
それでも、帰らなきゃ。
異世界に。
「ブブたん、僕たち戻れるんだよね?」
「ブブブブブブ!」
「母さん、みんなごめん。必ず戻るから、待ってて」
僕が決心すると、ブブたんは誘導するようにフワフワ飛んでいく。
「待って!」
僕はブブたんを追いかけた。
病院の外に出て向かったのは、近くの僕の高校だった。
到着すると門前には警官がいて、大勢の保護者達やマスコミも押しかけている。
原因不明で7名も意識不明になったから、大騒ぎになっていた。
校舎に入ると、どの教室にも生徒の姿はない。
ブブたんは校舎の階段を上がっていく。
2階の僕らの教室は封鎖されていた。
扉を通り抜けて教室に。──異世界召喚された場所に入った。
「ここから異世界に帰れるの?」
「ブブブブブ!」
ブブたんは天井近くまで舞い上がった。
そして、小銅貨を次々とばら撒いていく。
小銅貨は浮かんで、教室の空中に大きな魔法陣を描いていく。
やがて魔法陣が完成した。
その中心で、ブブたんの姿が勇者の剣になった。
勇者の剣を手に取り、魔法陣の中心へ立つ──
僕の視界が一瞬で真っ白に染まった。
そして……
「唯斗!」
飛び込んできたのは、エイジの顔。
戻って来た。
僕は、異世界に戻って来たんだ。
読んでいただいて、ありがとうございました。




