44 前世の記憶
到着した先は、巨大な城だった。
「お帰りなさい若様。魔王様がお待ちです」
出迎えてくれたのは、頭に小さな角が生えた、どう見ても悪魔みたいな男性。
案内されて廊下を歩く。
アルカードの城とは、まるで違う。
もっと……もっと巨大だ。
天井は見上げるほど高く、柱は巨木みたいに太い。
しかも、細かな装飾まで施されている。
エイジが周囲を見回しながら呟いた。
「ここって地底だよな?」
「うん。地底帝国だね」
「そう言えば、クーの父親ってアルカードの城にいたのか?」
「聞いて回ったけど、とーちゃんはいませんでした」
「じゃあ、ここにいるのか?」
「さあ。もう、どうでもいいです」
──まさか。
とーちゃんが魔王だったりしないよね?
長い廊下を通り抜け、謁見の間へ到着した。
中には、数人の魔族が並んでいる。
たぶん幹部だ。
どの人も、恐ろしく強そうだった。
「おお、若様が戻られた」
誰かが声を上げる。
すると、全員が一斉に頭を下げた。
僕たちは、玉座の前へ進む。
そこにいたのは──魔王。
頭には、3本の角。
顔には仮面をつけている。
長い髪は真っ黒だ。
……まさか、フィルのとーちゃん?
僕たちは魔王の前で頭を下げた。
「挨拶はよい。面倒だ」
魔王からは、思っていたような脅威は感じない。
だけど──。
「勇者が、まさか敵の陣地に逃避行とは……」
「敵」という言葉に、僕たちの空気が一気に変わった。
「相変わらず、人間どもは愚かだ」
魔族と人族、今は停戦状態だ。
そもそも僕たちが召喚されたのも、この魔王を倒すためじゃない。
「ここに来ても、まだ記憶が戻らないのだな」
魔王がそう言って、手を上げた。
あっという間に景色が変わって、僕とエイジだけが、別の場所に移動していた。
目の前にあったのは、巨大な氷の塊。
青く輝く氷の中に、誰かが横たわっている。
頭には、立派な角が2本。
そして、その顔は──。
「なんかエイジに似てないか?」
「そうか? 俺はあんな凶悪な顔か?」
……似ている。
ただ、顔や全身に黒い文様が刻まれていて、綺麗な顔が恐ろしく見える。
「思い出したか?」
いつの間にか、魔王が僕とエイジの真後ろに立っていた。
近い!
僕の心臓が跳ねる。
「これは余の息子だ」
「眠っているのですか?」
「いや。空っぽの体だ。長い間、蘇らせる機会を待っていた」
その言葉を聞いた直後だった。
──スパッ!
首に、鋭い感触。
次の瞬間、生温かな血が噴き出した。
「な……なぜ?」
魔王が僕の首を、爪で斬ったのだ。
僕が勇者だから?
最初から、受け入れるつもりなんてなかったのか?
力が抜ける。
僕の体が、ゆっくり前へ倒れていく。
「唯斗!」
(ああ……僕、死ぬんだ)
そう思った瞬間。
体ごと、どこかへ流されていくような感覚に包まれた。
ユラユラと。
川を流れる木の葉みたいに。
(……この感覚)
(僕は、覚えている……)
元の世界に戻るんだ。
◇
「唯斗!」
「ユイちゃん」
兄さんと母さんの声が聞こえて、僕はゆっくり目を開けた。
「早く目を覚まして!」
姉もいる。
みんな、泣いている。
僕は戻って来た。
──家族のもとへ。
「母さん!」
でも何かヘンだ。
「僕の体、透けている?」
母さんに触れても、空を切る。
ここは病院だ。
ベッドに横たわる僕がいた。
家族は誰も僕に気が付かない。
そうか。
「僕の魂だけ戻って来たんだ」
ベッドの僕の体に戻れないか、何度も試した。
けど、体に魂を戻すことが出来ない!
体が二つ。
異世界の体はクローンのようなものなのか?
そのクローンの体は、極めて危険な状態にあるはずだ。
エイジのスキルで、かろうじて、糸のように細い命を繋いでいる。
「異世界で間もなく僕は死ぬんだ」
僕は頭上のブブたんに話しかける。
「そうだよね、ブブたん?」
「ブッ!」
「違うの?」
「ブブブブ!」
「異世界に戻れる?」
「ブブブブブ!」
「どうやって?」
「ブ……」
「ブブたん、話せないもんね」
家族にブブたんの姿は見えないし、僕らの会話も聞こえない。
そこへ、父さんも駆け付けた。
「唯斗は?」
「まだ意識不明よ」
姉が答える。
「唯斗たちのクラスで突然、7名が意識不明になったの。原因も分からなくて」
「ユイちゃんの心機能は極めて危険な水準まで低下していて、このままだと、明日にでも心停止を起こす可能性が高いって言われたの」
母さんは泣き崩れた。
僕は辛くて見ていられない。
「……唯斗、目を覚ましてくれ」
「父さん、みんな、心配かけてごめん」
僕は何も出来ない。
家族と一緒に泣くだけだ。
でも。
僕に泣いている時間は無い。
──それは前世の記憶だった。
僕は「キョウヤ」と呼ばれていた。
やはり、異世界召喚されて、勇者になった。
魔王軍と戦う為だ。
でも。
戦争が終わらないうちに、キョウヤは仲間の勇者たちに殺された。
それで異世界からキョウヤの魂が日本に戻った。
キョウヤだけ意識が戻り、生き残ったんだ。
キョウヤの仲間の勇者たちは病院でみんな死亡した。
意識を失ってから、約24時間後に。
──死に戻り。
それが異世界から、こっちに戻る方法。
だとすると。
明日、エイジたち全員は、ここの病院で死亡する。
日本には二度と戻れなくなる。
この世界と異世界では時間の流れが大きく違う。
僕たちが学校で倒れてから、3時間しか経っていない。
まだ21時間ある!
早く戻って、この事実を皆に知らせないと。
読んでいただいて、ありがとうございました。




