38 過酷な試練
アルカードとの食事を終えて部屋に戻ると、バスタブには湯が張られていた。
ふわっと、いい香りが漂ってくる。
湯船にはバラの花びらまで浮かんでいた。
なんとも優雅なバスタイムだ。
「……気持ちいい」
熱い湯に体を沈めると、全身から力が抜けていく。
召喚されて、追放されて、今ここにいる。
勇者なのに、魔族の国へ逃避行。なんだか冗談みたいだ。
義彦たちは無事だろうか。
それに、高位ダンジョンをどうやって封印するんだろう。
そもそも、ダンジョンってどうやってできたんだ?
ダンジョンを作った神様でもいるんだろうか。
──分からないことを考えても仕方ない。
バスタイムを終えて、ベッドに腰を下ろした時だ。
枕を抱えたクーが、そっと部屋に入ってきた。
「一人で寝るのが不安なんです」
「分かるよ」
この城、薄暗いんだよな。
窓の外を見れば、蝙蝠が何匹も飛んでいる。
一人だとちょっと怖い。
まあ、クーと二人ならベッドもそれほど狭くない。
そう思っていたら──。
「唯斗がいないと落ち着かない」
今度はエイジがやって来た。
「先客がいるから、帰ってくれるかな」
三人はさすがに狭い。
せっかく広いベッドで眠れるのに。
するとエイジは──。
ポン!
突然、子犬の姿に変身した。
「クゥ~ン」
潤んだ瞳で僕を見上げてくる。
(ずるい! ずるいぞ、エイジ!)
「かわいい!」
クーが子犬を抱き上げると、
「ガルゥゥゥゥーー!」
子犬は鼻に皺を寄せ、牙を剥いた。
……それすら、かわいい。
「抱っこはユイトさんだけの特権なんですね」
「はあ……しょうがないな。エイジは寝相が悪いから、ヤなんだけど」
結局、子犬のエイジを真ん中にして、三人で川の字になって眠る。
そして翌朝。
予想通り。
元に戻ったエイジがベッドの真ん中で、斜めに大の字。
僕とクーは、ベッドの端で小さく丸まっていた。
◇
朝食を終えると、僕たちは急いで旅支度を始めた。
アルカードが、さっそくダンジョンへ連れて行ってくれるからだ。
玉座のある部屋に集合すると、アルカードが説明を始めた。
「実は、この城の地下が、100階層のダンジョンになっているのです」
100階……。
思わず息を呑む。
「挑戦しますか?」
「はい、強くなって地下帝国に行きたいので」
「言っておきますが、脱出用スクロールの使用は認めない。使用すれば、そこで終了。強くなるチャンスは一度だけです」
「1度だけ……」
厳しい。
失敗が許されない試練だ。
城の地下室へ向かう。
そこには、床いっぱいに巨大な魔法陣が描かれていた。
嫌な汗が背中を伝う。
スクロールでの移動は平気だけど、魔法陣は苦手だ。
僕たちは全員、魔法陣の上に立たされる。
「あなた方は二手に分かれて、ランダムに飛ばされます」
「なんで二手に分かれるの?」
「強くなりたいのでしょう?」
アルカードが短い呪文を唱える。
魔法陣から黒い霧が噴き出した。
「うっ……」
視界が真っ黒に染まる。
「うわぁぁぁぁあああ!」
体が落ちていく感覚に襲われて、僕の意識は完全にブラックアウトした。
◇
「ユイトさん……」
クーの声が聞こえた。
頬をパシパシと叩かれている。
「気が付いたか?」
フィルの声だ。
「こっちは儂ら3人だ」
「え?」
──エイジがいない。
初めて離れ離れになった。
それだけで胸が苦しくなる。
「向こうは精鋭揃い。大丈夫だろう。問題はこっちだ」
僕とフィル。
そして戦闘経験が浅いクー……確かに不安だ。
フラつく頭を押さえながら、周囲を見渡す。
遺跡のような……コロシアム?
ギロチン。
巨大な十字架。
まるで処刑場だ。
そして、その中央には処刑執行人がいる。
大剣を手に、僕らの首を落とす時を待っているようだ。
クーは震えながら地面に座り込んでいる。
「ユイトさん、怖くて足が震えて……う、動けません」
僕は自分の頬を思いっきり叩いた。
不安がってる場合じゃない。
「盾を渡すから、クーは自分を守れ」
僕はアンギスの盾をクーに渡し、アイスソードを受け取った。
「お、重いです……けど」
元々クーは力持ちだ。
加えて【怪力】のスキルで、なんとかアンギスの盾を構える。
僕だって、ロイに剣を教えてもらった。
多少は戦えるはずだ。
なんたって──僕にはブブたんがいる!
フィルが《グリフォン》を召喚する。
肩に乗っていた《タランチュラ》も、みるみる巨大化していく。
僕はクーの背中を思いっきり叩いた。
「強い冒険者になるんだろ? 漢を見せろ!」
「は、はい!」
その瞬間──。
ガラン! ガラン! ガラン──!
どこからか、処刑開始の鐘が鳴り響いた。
同時に何かが飛んできて、僕の口に張り付く。
「×××××!」
声が出せない。
三人とも喋れない!
──ヤバイ!
これじゃ【速歩】が唱えられない!
次の瞬間。
クーとフィルの体が、いきなり宙に浮いて飛んで行く。
フィルはギロチンへ。
クーは十字架へ。
ガッチリと拘束された。
クーの足元に火が付く。
そして──。
処刑執行人がギロチンの刃につながる鎖を、今まさに斬ろうとしていた。
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