36 魔族の国へ
地面には、ゼインたちの装備が散らばっていた。
フィルがそれを拾い集める。
「こいつらの装備。当然、頂いていいよな?」
「当然です」
答えたのはクーだ。
「かーちゃんを人質にしたのは許せない」
「本当に、僕たちに着いて来るんですか?」
「ああ」
フィルは軽く答えたあと、真面目な顔になった。
「儂も昔、恋人がいたんだ。彼女を無理やり、ロクでもない貴族のファミリーに奪われた。ギルド本部に訴えても、何もしてくれなかった。『【見逃し料】を払えばいい』とか言いやがって」
「オレみたいに100万ガル。払えばよかった」
「当時、お前さんみたいに強くなかった。契約獣も、あの鳥だけでな。貧乏だった」
フィルが空を指さす。
僕たちをずっと追ってきた鳥が、上空を旋回していた。
「ピィッ!」
フィルが指笛を吹く。
すると鳥は急降下し、そのままフィルの肩に止まった。
「お疲れだったな」
フィルは鳥を帰還させた。
「グリフォンも手に入れたから、戦力になるぞ?」
「ワン、ワン」
子犬のワンコが尻尾を振っている。
「エイジがオッケーなら、信用しよう」
こうして僕たちは、改めてフィルを仲間に加えた。
そして、ピラミッドの中へ入る。
中を見渡すと、魔法陣は真ん中と四隅に1つずつ。
全部で5つあった。
「これが魔族の国へと繋がっている」
ヨハンに促され、僕たちは隅の魔法陣の1つに立った。
「では、旅の無事を祈っております。クーを宜しく」
ヨハンが杖を振り上げる。
次の瞬間、真っ黒な霧が僕たちを包み込んだ。
……と思ったら。
身体が、真っ逆さまに落ちていく!
ジェットコースターが苦手な僕には、この感覚は無理だった。
「うわぁぁああああああーーー!」
僕はワンコをきつく抱きしめたまま、叫んでいた。
◇
気が付くと、目の前にエイジの顔があった。
「大丈夫か?」
「……ん?」
僕は彼の膝の上、抱きかかえられていた。
「鼓膜が破れるかと思ったよ。気絶したの、唯斗だけな。クッ」
エイジが声を殺して笑っている。
恥ずかしくて僕は耳まで熱くなった。
「ごめん。お、下りるよ……大丈夫」
魔法陣による移動は終わって、僕たちは白い東屋に到着していた。
空には星が瞬き、すっかり夜になっている。
見渡せば、ずっと遠くに暗い木々が茂っている。
それが360度、この広い土地を囲んでいる。
ここは樹海のどこかみたいだ。
立つと、僕の体はフラついた。それをエイジが支えてくれる。
「歩けるか?」
「うん」
小道の両脇には、大きなキノコや小さなキノコが生えていた。
どれも淡く光っていて、まるでランプみたいに辺りを照らしている。
道の先には小高い丘。
そして頂上には、
満月を背にした、大きな城が建っていた。
「メルヘンだね。絵本の中みたいだ」
「俺はもっと禍々しい世界を想像してた」
「ここにとーちゃんがいるはずです」
思い出したように、クーが話す。
「あの城に?」
「たぶん……」
「お前、そう言うの先に言えよ!」
「性格悪い」
「悪いです……」
エイジたちに責められ、クーが言い返す。
「だって、とーちゃんは家族を捨てたんだ」
複雑な家庭の事情がありそうだ。
「とりあえず、あの城に行こう」
5分ほどで城に到着。
門番はいない。
目の前には、大きな木の扉。
まるで僕たちを拒むように、固く閉ざされている。
「テントを張って、朝を待とうか」
僕がそう言うと、
ギィィィイイイーーー!
軋んだ音を立て、扉がゆっくりと開いていく。
「ひっ!」
クーが引きつった声を上げた。
扉の向こうに立っていたのは、蝋燭のランプを手にしたシワシワの老人だった。
黒いスーツ。
異様なほど青白い顔。
「いらっしゃいませ。ご主人様がお待ちです」
老人の後ろを覗く。
城の中は、不気味なほど真っ暗だ。
「あ、夜も遅いですし。明日の朝に出直してきます」
「ふぉふぉ、ここは夜の世界。朝などは来ませんよ」
老人は笑うと、闇の中へ歩き出した。
足音はしない。
まるで地面を滑るように進んでいく。
「今のところ、悪い臭いはしない。行こうぜ」
エイジに促され、僕たちは老人を追って城の中へ入った。
「じーさん、歩くの早すぎ」
僕の後ろでは、ラスとロイが腕を組んだまま話している。
「ここ、魔王の城?」
「どうだろう……」
ロイが答えた。
(魔王……)
僕の不安を感じて、ブブたんも鞄の中でブルっと震える。
老人が立ち止まった。
目の前には、立派な装飾が彫られた扉がある。
「こちらです」
老人が扉を開ける。
その先の部屋には、真っ赤な絨毯が敷き詰められていた。
天井には豪華なシャンデリア。
キャビネットには、高級そうな装飾品が並んでいる。
部屋の奥には、玉座。
そこに、一人の美しい青年が座っていた。
銀色の髪。
青白い顔。
絨毯と同じくらい真っ赤な唇。
その左右には、6人の美女が立っている。
青年が立ち上がった。
そして数歩進むと、恭しく頭を下げた。
「ようこそ勇者殿。私はこの城の主、アルカードと申します」
(魔王……なのか?)
そう思った直後──
「お帰りなさい、若様」
アルカードも、美女たちも、老人も、
一斉に頭を下げた。
僕は挨拶を返すことすら忘れていた。
──若様?
僕たちはみんな顔を見合わせた。
この中に若様がいる?
「クーか?」
エイジが言った。
魔物の血が流れているクー。
「……クーなの?」
僕たち5人は、クーから数歩離れた。
「え? え? 自分はただのオウレリアン族です!」
するとアルカードが、低い声で告げる。
「記憶は無いのですね。ならば私からは何も言えません」
そんな!
教えてよ!
めちゃくちゃ気になるじゃん!
読んでいただいて、ありがとうございました。




