35 フィルの強奪
〈夜明けの月〉との戦いは終わった。
大剣をクーに取り上げられ、項垂れるゼインさんが悔しそうに呟く。
「君達を甘く見過ぎていた」
だが顔を上げてキッパリ告げる。
「気を付けろ。まだ終わりではないぞ!」
「まだ?」
辺りを見回す。
すると、木陰からヨハンさんが、よろめきながら姿を現した。体には、動けないように白い蜘蛛の糸がぐるぐると巻き付いている。
──その後ろには、若い男とフィル。
若い男が叫んだ。
「大人しくしろ!」
「クー……」
「かーちゃん!」
男はヨハンさんを、フィルはクーのかーちゃんを盾にしていた。
「みんな動かないで」
僕は仲間に命じる。
少しの間、様子見だ。
男を鑑定。
──Lv120。
召喚士。
「グルゥ……」
ワンコが低く唸る。
すると召喚士は、次々と聖獣を召喚した。
《グリフォン》続いて《羽のある巨大な蛇》。
「動くと、人質の命はない」
男はそう言ってからラスに視線を向けた。
「あとで100万ガルの集金だ」
どうやら、ゴリアドの手下らしい。
「ゼイン、いいザマだな。初めからこうすりゃいいのに。意気がって正義感などかざすからだ」
「ギルドの情報は間違っていた。〈タシオン〉は俺達より遥かに強かった!」
男はゼインの言い訳など無視して僕を見る。
「エイジとユイトは多少痛い目に遭わせても連れ戻すよう、ゴリアド様の命令だ」
「来年まで待ってくれるんじゃないの?」
「やんちゃ坊主は奴隷にして、檻に入れて待つことにした」
不快感に、僕の体が震えた。
奴隷?
檻に入れる?
冗談じゃない!
気持ちは、エイジも同じだった。
ワンコの体が、青白く光り始める。
そのわずかな隙に、
シュルシュルッ!
蛇が一気に距離を詰め、ワンコに飛び掛かった。
耐電性があるようだ。
蛇はワンコの体へ巻き付き、ボキボキと締め上げる。
「ギャン!!」
ピッ!
ピッ!
素早くブブたんの光線が蛇に命中。蛇の力が緩んだ。
ポン!
ワンコの体が子犬になった。
「キャン! キャン!」
ワンコは僕のところまで一目散に逃げてくる。
「大丈夫? どこか怪我した?」
「クゥ~ン」
「勝手に動くからだよ……」
僕は【速歩】を唱えて終わらせようとした。
──だがここで、
いきなりフィルが男の脇腹へ、ナイフを突き立てた。
「なぜだ?」
男が苦しそうに呟く。
何が起こったのか……?
でも、考えるより先に僕の体は動いていた。
「ブブカッター!」
それは羽の生えた巨大な蛇を真っ二つに斬り裂いた。
蛇は霧になって消えた。
魔石1つだけ残して。
一方、グリフォンは空高く舞い上がり、フィルに狙いを定めて急降下してきた。
フィルの前に巨大化したタランチュラが立ち塞がる。
グリフォンの鋭い爪がタランチュラの背に食い込む。
さらにクチバシで何度も突き、タランチュラは体をねじって横倒しになった。
「こいつは儂に任せろ!」
……フィルを信じていいんだろうか?
ロイとラスは、僕の指示を待っている。
「人質救出だ」
僕が叫んだ直後、
「強奪!」
フィルが叫ぶ。
だけど、何も起こらない。
「強奪するには、グリフォンを弱らせないと」
ロイの言葉で、僕は理解した。
【強奪】は、召喚獣を他者から奪い取るスキルなのだと。
「なら、援護しよう!」
僕はグリフォンに向けて、3発のブブ光線を撃ち込んだ。
ラスも水魔法で援護する。
「グルルゥ!」
グリフォンが苦しそうに鳴き、再び空へ舞い上がろうとした。
引き留めようとタランチュラが糸を吐く。
それがグリフォンの体に絡み付き、動きを封じた。
「強奪!」
フィルが再び叫ぶ。
するとグリフォンの体が、白い風船の膜に包まれた。
そのまま、
ス──ッ。
グリフォンは消えていった。
「成功だ! 協力に感謝する」
フィルは満面の笑顔を浮かべている。
僕は、その笑顔を見つめた。
助かったはずなのに、胸の中には嫌なものが残っていた。
フィルは、僕たちを助けたかった訳じゃなくて、
ただ、グリフォンの【強奪】を狙っただけじゃないのか?
ギルドの回し者だ。
……彼を信用できない。
◇
ラスは召喚士とゼインもスライムに変えた。
これで僕たちは、完全にギルドを敵に回した。
ギルドは、これからも僕たちを追ってくるだろう。
ゴリアドにだけは絶対に捕まりたくない。
そのためには、あいつを倒せるくらい強くならないと。
「ワン! ワン!」
吠える子犬を、僕は抱きしめた。
「エイジがやられるの、初めて見たよ」
「クゥ~ン」
「まだまだ僕たちは弱いな」
蜘蛛の糸を外したヨハンさんに、僕は謝罪した。
「巻き込んですみません」
「いや、驚いたが無事終わって何よりだ」
スライムたちが、ラスの周りを跳ねている。
「あれはどうなりますか?」
「100日程度で元の姿に戻る」
「結構長いですね」
僕はラスに族長の杖を返すよう命じた。
「魔族の国へ送ってくれますね?」
「いいだろう」
「儂も付いて行くぞ?」
フィルに声を掛けられた。
僕は即答する。
「お断りだ。信用できない」
「儂もギルドを裏切った。このままでは帰れんし、金も欲しい」
フィルはニンマリと笑う。
……さて、どうしたものか。
僕は迷っていた。
読んでいただいて、ありがとうございました。




