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異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった  作者: ミカン♬


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35/50

35 フィルの強奪

 〈夜明けの月〉との戦いは終わった。


 大剣をクーに取り上げられ、項垂れるゼインさんが悔しそうに呟く。


「君達を甘く見過ぎていた」


 だが顔を上げてキッパリ告げる。


「気を付けろ。まだ終わりではないぞ!」


「まだ?」


 辺りを見回す。


 すると、木陰からヨハンさんが、よろめきながら姿を現した。体には、動けないように白い蜘蛛の糸がぐるぐると巻き付いている。


 ──その後ろには、若い男とフィル。


 若い男が叫んだ。


「大人しくしろ!」


「クー……」

「かーちゃん!」


 男はヨハンさんを、フィルはクーのかーちゃんを盾にしていた。


「みんな動かないで」


 僕は仲間に命じる。

 

 少しの間、様子見だ。



 男を鑑定。


 ──Lv120。

 召喚士。


「グルゥ……」

 ワンコが低く唸る。


 すると召喚士は、次々と聖獣を召喚した。


 《グリフォン》続いて《羽のある巨大な蛇》。


「動くと、人質の命はない」


 男はそう言ってからラスに視線を向けた。


「あとで100万ガルの集金だ」


 どうやら、ゴリアドの手下らしい。


「ゼイン、いいザマだな。初めからこうすりゃいいのに。意気がって正義感などかざすからだ」


「ギルドの情報は間違っていた。〈タシオン〉は俺達より遥かに強かった!」


 男はゼインの言い訳など無視して僕を見る。


「エイジとユイトは多少痛い目に遭わせても連れ戻すよう、ゴリアド様の命令だ」


「来年まで待ってくれるんじゃないの?」


「やんちゃ坊主は奴隷にして、檻に入れて待つことにした」


 不快感に、僕の体が震えた。


 奴隷?

 檻に入れる?

 冗談じゃない!


 気持ちは、エイジも同じだった。

 ワンコの体が、青白く光り始める。


 そのわずかな隙に、


 シュルシュルッ!


 蛇が一気に距離を詰め、ワンコに飛び掛かった。

 耐電性があるようだ。

 蛇はワンコの体へ巻き付き、ボキボキと締め上げる。


「ギャン!!」


 ピッ!

 ピッ!


 素早くブブたんの光線が蛇に命中。蛇の力が緩んだ。


 ポン!


 ワンコの体が子犬になった。


「キャン! キャン!」

 ワンコは僕のところまで一目散に逃げてくる。


「大丈夫? どこか怪我した?」

「クゥ~ン」

「勝手に動くからだよ……」


 僕は【速歩】を唱えて終わらせようとした。


 ──だがここで、

 いきなりフィルが男の脇腹へ、ナイフを突き立てた。


「なぜだ?」

 男が苦しそうに呟く。


 何が起こったのか……?

 でも、考えるより先に僕の体は動いていた。


「ブブカッター!」


 それは羽の生えた巨大な蛇を真っ二つに斬り裂いた。


 蛇は霧になって消えた。

 魔石1つだけ残して。


 一方、グリフォンは空高く舞い上がり、フィルに狙いを定めて急降下してきた。


 フィルの前に巨大化したタランチュラが立ち塞がる。


 グリフォンの鋭い爪がタランチュラの背に食い込む。

 さらにクチバシで何度も突き、タランチュラは体をねじって横倒しになった。


「こいつは儂に任せろ!」


 ……フィルを信じていいんだろうか?


 ロイとラスは、僕の指示を待っている。


「人質救出だ」


 僕が叫んだ直後、

「強奪!」

 フィルが叫ぶ。

 だけど、何も起こらない。


「強奪するには、グリフォンを弱らせないと」


 ロイの言葉で、僕は理解した。

 【強奪】は、召喚獣を他者から奪い取るスキルなのだと。


「なら、援護しよう!」


 僕はグリフォンに向けて、3発のブブ光線を撃ち込んだ。

 ラスも水魔法で援護する。


「グルルゥ!」


 グリフォンが苦しそうに鳴き、再び空へ舞い上がろうとした。

 引き留めようとタランチュラが糸を吐く。

 それがグリフォンの体に絡み付き、動きを封じた。


「強奪!」

 フィルが再び叫ぶ。

 するとグリフォンの体が、白い風船の膜に包まれた。


 そのまま、


 ス──ッ。


 グリフォンは消えていった。


「成功だ! 協力に感謝する」

 フィルは満面の笑顔を浮かべている。


 僕は、その笑顔を見つめた。

 助かったはずなのに、胸の中には嫌なものが残っていた。


 フィルは、僕たちを助けたかった訳じゃなくて、

 ただ、グリフォンの【強奪】を狙っただけじゃないのか?


 ギルドの回し者だ。


 ……彼を信用できない。


 ◇



 ラスは召喚士とゼインもスライムに変えた。


 これで僕たちは、完全にギルドを敵に回した。

 ギルドは、これからも僕たちを追ってくるだろう。


 ゴリアドにだけは絶対に捕まりたくない。

 そのためには、あいつを倒せるくらい強くならないと。


「ワン! ワン!」

 吠える子犬を、僕は抱きしめた。


「エイジがやられるの、初めて見たよ」

「クゥ~ン」

「まだまだ僕たちは弱いな」



 蜘蛛の糸を外したヨハンさんに、僕は謝罪した。


「巻き込んですみません」

「いや、驚いたが無事終わって何よりだ」


 スライムたちが、ラスの周りを跳ねている。


「あれはどうなりますか?」

「100日程度で元の姿に戻る」

「結構長いですね」


 僕はラスに族長の杖を返すよう命じた。


「魔族の国へ送ってくれますね?」

「いいだろう」


「儂も付いて行くぞ?」

 フィルに声を掛けられた。


 僕は即答する。


「お断りだ。信用できない」


「儂もギルドを裏切った。このままでは帰れんし、金も欲しい」


 フィルはニンマリと笑う。


 ……さて、どうしたものか。


 僕は迷っていた。



読んでいただいて、ありがとうございました。

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