34 〈夜明けの月〉
ゼインLv95 【大剣熟練】【鼓舞】【威圧】【全力斬り】など。
他のメンバー5名はLv90以下。
それでも、全員がそれなりの実力者だ。
前衛はタンク役、ゼイン、槍使い。
後衛には回復役、弓使い、魔法使い。
冒険者として、手慣れた陣形だった。
僕は念のため確認する。
「ギルドはどういう命令を出したの?」
「怪しい動きがあれば、消せ。……殺せってことだ」
「そっか。僕たちの決断は正しかった。もう弱者のままではいられない」
いきなりゼインが【鼓舞】を唱える。
仲間たちの身体に力がみなぎった。
パーティー全員のステータスが、大幅に上昇したようだ。
ゼインは大剣を構え、僕たちに告げる。
「今ならまだ引き返せる。俺達と一緒に戻るんだ」
「どこへ? 僕たちに戻る場所なんか無い!」
鞄からは、ブブたんが飛び出し戦闘態勢に入る。
正直、ブブたんのブブカッターなら、こいつらは瞬殺できる。
「ブブたん、敵を殺さないでよ」
【速歩】で動きを止め、《スライムの刑》で終わらせる手もある。
負ける気は、まったくしない。
前衛の三人はロイとエイジで十分だろう。
そんな僕に、エイジが小声で言った。
「唯斗、久々の戦闘だ。楽しませてくれよ」
そう言いながらも、エイジはまだワンコに変身しない。
先陣を切って前に出たのは、ロイだった。
手にはエゴ様。
「相手が誰であろうと、全力で迎え撃つ!」
ロイが一歩踏み込む。
それだけで、ゼイン達が一歩下がった。
〈タシオン〉は、ずっと格下のPTのはず。
なのに、僕たちには焦りがない。
その余裕が、彼らには不気味に見えているようだ。
「《犬》は召喚しないのか?」
どうやら、ゼインはワンコを召喚獣だと思っているらしい。
「へへっ。召喚してもいいけど、お前たち倒せるのか?」
「我々はドラゴンすら倒せる。犬1匹程度、相手にならん!」
タンク役が吠えた。
「いいよ。相手してやる!」
その瞬間――
ヒュンッ!
後方から矢が飛んできた。
狙いはエイジだ。
だけど――
ピッ!
ピッ!
ブブたん光線が走った。
矢は空中で弾け、そのまま地面へ落ちる。
エイジの身体はまばゆい光に包まれていた。
次の瞬間、ワンコ・ケルベロスが現れる。
逆立った毛。
鋭い牙。
そして、3つの頭。
「グワァァアアアアアーーー!」
その咆哮にビリビリと空気が震えた。
敵の動きが止まる。
ほんの一瞬。
ロイは見逃さない。
「ムッ!」
エゴ様が唸る。
ガキィンッ!
ゼインの大剣と激突。
「ぐっ!」
エゴ様の本気に、ゼインの体はズズズッと押し返された。
その横では――。
「グルァーーッ!」
ワンコがタンク役へ突っ込んだ。
男は全力で盾を構える。
だが――
ガシュッ!
ワンコの爪が盾を叩き割った。
「うわっ!」
そのまま盾ごと吹き飛ばされ、タンクの身体が地面を転がる。
ワンコは止まらない。
次に狙いを定めたのは、槍使い。
そのワンコ目掛けて、後方から弓の連撃が飛んでくる。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ヒュンッ!
しかし――。
カッ! カッ!
矢はワンコの硬い毛に弾かれた。
僕は指示を出す。
「クーは弓手を斬れ」
「ラスは下がってていいよ」
「元仲間。関係ない」
「じゃあ、ラスは自由で」
ワンコの身体が、青白く輝いている。
「くっそ――」
槍使いがワンコに突っ込んだ途端、
バリバリバリッ!
三頭目から放たれた電撃が、槍使いを直撃。
「ぐあああっ!」
槍使いはその場に崩れ落ちた。瀕死の重傷だが回復役に救われる。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ラスと僕を狙って絶え間なく矢が飛んでくるが、全てアンギスの盾で防御。
そして――
ザシュッ‼
「ぐっ……!」
弓手が前のめりに倒れる。
忍び寄っていたクーのアイスソードに斬り付けられていた。
僕の頭上からは、大きな岩が次々と降ってくる。
魔法使いの土魔法だ。
「ブブカッター!」
ブブたんから放たれた光線が、縦横無尽に走った。
落ちてくる岩が、次々と斬り裂かれ、砕けた岩が小石となって降り注ぐ。
それをアンギスの盾で防げば、僕もブブたんも無傷だ。
「くっ……!」
魔法使いが次の呪文を唱えようとする。
でも――。
ピッ!
「ぎゃっ!」
ブブ光線が腿を直撃。
魔法使いは、その場に転がった。
「回復!」
回復役が慌てて杖を掲げた。
「させない」
ラスの超高圧水撃が、回復役の腕を貫いた。
「きゃあっ!」
杖が地面に転がった。
「はい、終了」
ラスが回復役の体を、杖でトントン叩く。
《スライムの刑》で倒れた敵はみんなスライムになった。
残ったのは、ゼインただ一人。
格上のゼインを相手に、ロイは一歩も引いていない。
大剣とエゴ様が何度も激しくぶつかって、火花が飛び散っている。
「決着を付けてやる!」
ゼインが大剣を大きく振りかぶった。
「【全力斬り】!」
凄まじい勢いで、大剣が振り下ろされる。
まともに受ければ致命傷だ。
だけど――
ロイは慌てない。
エゴ様を滑らせるように大剣を受け流す。
ズガッ!
大剣が地面を叩き、大きな音を響かせた。
「なっ……!」
ゼインの顔から、余裕が消えた。
僕は少し離れた場所から、その戦いを見ていた。
大丈夫。
もう、勝負は決まっている。
ゼインが周囲を見回した。
さっきまで一緒に戦っていた仲間たちの姿は無い。
「待て! 待ってくれ!」
エゴ様みたいなことを言い出す。
ゼインの身体から、急速に力が抜けていく。
もう、戦う気力は残っていなかった。
読んでいただいて、ありがとうございました。




