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異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった  作者: ミカン♬


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33/50

33 夜の襲撃

 クーの家の前では、フィルがタバコを吸って待っていた。

 僕たちに気づくと、タバコを捨てて足で踏み消す。


 そういえば、ここに来てから今まで、フィルの姿を見ていなかった気がする。


「終わったのか?」


「うん、無事終わったよ」


「それで、これから君達の予定は? まさか、ここに住み着くんじゃないよな?」


 フィルにそう思われても不思議じゃない。

 幌馬車の契約は片道だけだから。

 

「魔族の国に行くんですよ!」


 空気を読まないクーが大声で暴露した。


「お前は黙っていろ」

「むぐっ」

 エイジがクーの口を塞ぐ。


「魔族の国に何の用だ?」


 全員の視線が僕に集まる。

 本当なら「最強になるため」と言いたい。


 でも。


「逃避行……です。実は僕とエイジはゴリアドファミリーに目を付けられて、2千万ガルも要求されているんです」


「オレ、100万ガル」


「『見逃し料』の事です」

 ロイが補足する。


 フィルはこめかみを強く押さえた。


「何年経ってもギルドも国も『ファミリー制度』を改善しようとせん。アホばかりだ」


「分かってもらえました?」


「ああ。ここまでで儂は引き返すとしよう」


 そう言うと、フィルは樹海へと姿を消した。

 もしかして、彼はギルドの回し者だったのかもしれない。

 

 ……焦りが湧く。

 オウレリアン族長に交渉して、早く魔族の国に行かなくては。


 日が暮れる前に、僕たちはクーの家の近くにテントを張った。

 夕飯はクーのかーちゃんが用意してくれた。



 夜遅く。

 テントの中で、僕とエイジは寝転がって話をしていた。

 こういう時のブブたんは、僕の胸の上が指定席。


「族長に頼めば、魔族の国に行けるかな」


「金を払えば行けそうな気がする。高額を要求されそうだけどな」


「お金はあるけど……」


 僕がブブたんの頭を撫でると、ブブたんはブルッと振動する。

 エイジはブブたんの鼻を、指で押さえた。


「ブブたんの中に操縦者がいるんじゃないか?」


 鼻先に小さな妖精が乗っていて、車を運転するみたいにブブたんを操縦している。


「だとしたら、面白いね──」



 1秒間の沈黙……



「──唯斗‼」


 突然、エイジが跳ね起きた。


「うわっ! なに?」


「なにか来てるぞ!」


 エイジの声と同時だった。


 ピシッ!

 ピシッ!


 2本の光線がブブたんから放たれた。

 光線はテントの布を突き破り、そのまま外へ飛び出していく。


 暗闇の向こうへ一直線に伸びた光は、何かに命中した。


「ぐわぁああ!!」


 テントの外から、襲撃者の悲鳴が響いた。


 外へ飛び出すと、そこには腕を負傷した族長と孫のヨングがいた。

 その足元には、黒い杖が落ちている。


「お前ら、スライムの刑だ!」


 ヨングが叫び、族長が杖を拾おうと手を伸ばした。


 その手を──ピッ!


「ぐっ!」


 族長は膝をつく。


 そこへロイも駆け付け、手刀を叩き込んで族長を気絶させた。


「この野郎!」

 ヨングがロイに襲い掛かる。


 それをロイは難なく羽交い絞めにし、膝を突かせた。


 ラスが族長の杖を拾う。


「コイツ、しつこい」


 バシッ!


 ヨングの頭を、ラスは杖で思いっ切り叩いた。

 するとヨングの体が黒い霧に包まれ、みるみるうちに姿が変わっていく。


「なるほど。殴るとスライム」


 ラスは気絶した族長の頭をコツンと殴る。

 やはり、族長もスライムになった。


「ラス、貰っておけよ。戦利品だ」

「ん!」


 エイジとラスは互いに親指を立て──悪い顔で笑った。



 悪党二人は、僕たちが寝ているところを襲うつもりだった。


 でも、返り討ち。


 二匹は飛び跳ねながら逃げていく。

 それを追いかけていくと族長の家に着いた。


 家の前にはヨハンが立っており、

 二匹のスライムがヨハンの足元で「キーキー」と騒いでいる。


「だから止めたのに。やはり返り討ちに遭いましたね」


 ヨハンは薄笑いを浮かべた。


「族長は私が引き継ぐ。二人はスライムのまま反省するんだ」


 ペターンと二匹のスライムは、伸びて大人しくなった。



「この杖、もらった」


 ラスが族長の杖を掲げる。


「それは困る。杖は魔族の国に行く鍵となるので」


「では返す代わりに、魔族の国に行かせてくれませんか」


「いいだろう。今夜のお詫びに、明日の朝送ってあげよう」


 僕の申し出を、ヨハンはあっさり受け入れた。


 これで魔族の国に行ける!


「杖、明日、返す……」


 ラスはかなり残念そうだ。



 ◇


 異世界86日目の朝。


「おはようございます!」


 昨夜の騒ぎを知らないクーが、元気に家から出てきた。


「かーちゃんが朝食を用意しています」


「それは嬉しいな」


 僕たちはテントを片付け、朝食をいただいた。

 食事を終えると、クーのかーちゃんに見送られピラミッドへ向かう。


(魔族の国に行ける)


 期待と不安。


 だが。


 そこにいたのはヨハンじゃなかった。



「久しぶりだね。ラス、ユイトさん」


 ゼイン率いる〈夜明けの月〉が僕たちを待っていた。


「魔族の国には行かせません。ギルド命令です」


 僕たちを追ってきたのは、こいつらだった。



「どうする唯斗?」

「邪魔するなら倒すまでだ」


 ラスが杖で地面をトントンと突く。


「敵、全員スライムの刑!」


 それを合図に〈タシオン〉と〈夜明けの月〉の対決が始まった。



読んでいただいて、ありがとうございました。

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