33 夜の襲撃
クーの家の前では、フィルがタバコを吸って待っていた。
僕たちに気づくと、タバコを捨てて足で踏み消す。
そういえば、ここに来てから今まで、フィルの姿を見ていなかった気がする。
「終わったのか?」
「うん、無事終わったよ」
「それで、これから君達の予定は? まさか、ここに住み着くんじゃないよな?」
フィルにそう思われても不思議じゃない。
幌馬車の契約は片道だけだから。
「魔族の国に行くんですよ!」
空気を読まないクーが大声で暴露した。
「お前は黙っていろ」
「むぐっ」
エイジがクーの口を塞ぐ。
「魔族の国に何の用だ?」
全員の視線が僕に集まる。
本当なら「最強になるため」と言いたい。
でも。
「逃避行……です。実は僕とエイジはゴリアドファミリーに目を付けられて、2千万ガルも要求されているんです」
「オレ、100万ガル」
「『見逃し料』の事です」
ロイが補足する。
フィルはこめかみを強く押さえた。
「何年経ってもギルドも国も『ファミリー制度』を改善しようとせん。アホばかりだ」
「分かってもらえました?」
「ああ。ここまでで儂は引き返すとしよう」
そう言うと、フィルは樹海へと姿を消した。
もしかして、彼はギルドの回し者だったのかもしれない。
……焦りが湧く。
オウレリアン族長に交渉して、早く魔族の国に行かなくては。
日が暮れる前に、僕たちはクーの家の近くにテントを張った。
夕飯はクーのかーちゃんが用意してくれた。
夜遅く。
テントの中で、僕とエイジは寝転がって話をしていた。
こういう時のブブたんは、僕の胸の上が指定席。
「族長に頼めば、魔族の国に行けるかな」
「金を払えば行けそうな気がする。高額を要求されそうだけどな」
「お金はあるけど……」
僕がブブたんの頭を撫でると、ブブたんはブルッと振動する。
エイジはブブたんの鼻を、指で押さえた。
「ブブたんの中に操縦者がいるんじゃないか?」
鼻先に小さな妖精が乗っていて、車を運転するみたいにブブたんを操縦している。
「だとしたら、面白いね──」
1秒間の沈黙……
「──唯斗‼」
突然、エイジが跳ね起きた。
「うわっ! なに?」
「なにか来てるぞ!」
エイジの声と同時だった。
ピシッ!
ピシッ!
2本の光線がブブたんから放たれた。
光線はテントの布を突き破り、そのまま外へ飛び出していく。
暗闇の向こうへ一直線に伸びた光は、何かに命中した。
「ぐわぁああ!!」
テントの外から、襲撃者の悲鳴が響いた。
外へ飛び出すと、そこには腕を負傷した族長と孫のヨングがいた。
その足元には、黒い杖が落ちている。
「お前ら、スライムの刑だ!」
ヨングが叫び、族長が杖を拾おうと手を伸ばした。
その手を──ピッ!
「ぐっ!」
族長は膝をつく。
そこへロイも駆け付け、手刀を叩き込んで族長を気絶させた。
「この野郎!」
ヨングがロイに襲い掛かる。
それをロイは難なく羽交い絞めにし、膝を突かせた。
ラスが族長の杖を拾う。
「コイツ、しつこい」
バシッ!
ヨングの頭を、ラスは杖で思いっ切り叩いた。
するとヨングの体が黒い霧に包まれ、みるみるうちに姿が変わっていく。
「なるほど。殴るとスライム」
ラスは気絶した族長の頭をコツンと殴る。
やはり、族長もスライムになった。
「ラス、貰っておけよ。戦利品だ」
「ん!」
エイジとラスは互いに親指を立て──悪い顔で笑った。
悪党二人は、僕たちが寝ているところを襲うつもりだった。
でも、返り討ち。
二匹は飛び跳ねながら逃げていく。
それを追いかけていくと族長の家に着いた。
家の前にはヨハンが立っており、
二匹のスライムがヨハンの足元で「キーキー」と騒いでいる。
「だから止めたのに。やはり返り討ちに遭いましたね」
ヨハンは薄笑いを浮かべた。
「族長は私が引き継ぐ。二人はスライムのまま反省するんだ」
ペターンと二匹のスライムは、伸びて大人しくなった。
「この杖、もらった」
ラスが族長の杖を掲げる。
「それは困る。杖は魔族の国に行く鍵となるので」
「では返す代わりに、魔族の国に行かせてくれませんか」
「いいだろう。今夜のお詫びに、明日の朝送ってあげよう」
僕の申し出を、ヨハンはあっさり受け入れた。
これで魔族の国に行ける!
「杖、明日、返す……」
ラスはかなり残念そうだ。
◇
異世界86日目の朝。
「おはようございます!」
昨夜の騒ぎを知らないクーが、元気に家から出てきた。
「かーちゃんが朝食を用意しています」
「それは嬉しいな」
僕たちはテントを片付け、朝食をいただいた。
食事を終えると、クーのかーちゃんに見送られピラミッドへ向かう。
(魔族の国に行ける)
期待と不安。
だが。
そこにいたのはヨハンじゃなかった。
「久しぶりだね。ラス、ユイトさん」
ゼイン率いる〈夜明けの月〉が僕たちを待っていた。
「魔族の国には行かせません。ギルド命令です」
僕たちを追ってきたのは、こいつらだった。
「どうする唯斗?」
「邪魔するなら倒すまでだ」
ラスが杖で地面をトントンと突く。
「敵、全員スライムの刑!」
それを合図に〈タシオン〉と〈夜明けの月〉の対決が始まった。
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