32 決闘
「侮辱しやがって! 決闘だ!」
ヨングは僕に斧を向けた。
(エイジのせいで……面倒なことになったよ!)
ヨングは20代後半くらいに見える。
鑑定するとLv30。【斧熟練】【回転斬り】
オウレリアン族長の孫。
木こり業だ。
野生獣を倒す程度ではレベルは大して上がらない。
「決闘を受けて立つよ」
「ちっせー男が生意気な!」
ムカツク。
見た目で僕が弱いと踏んだのか?
クーを第三夫人にするだと?
ロリコンかよ。
許婚とか、なんつー古臭い悪習慣だ。
──そう思いつつ、僕は宣言する。
「決闘はクーが受ける」
「貴様、勝てないからってクーに押し付けるのか。最低なヤツだな!」
「ユ、ユイトさん、自分は勝てません」
クーは僕の腕に縋る。
だがロイがそれを止めた。
「クー、これ以上ユイト様に依存するべきではありません」
「でも無理です」
「大丈夫、私の教え通りやれば勝てます」
「……師匠」
この二人、いつの間にか師弟になっていた……。
「クー。ヨング程度に負けるようだと、この先、僕たちに付いて来れないよ?」
「そうですね……分かりました!」
ロイはクーにエゴ様を渡そうとした。
「カーーーーーッ! レベル1! ワレニ、フレルナ‼」
エゴ様はロイ以外は触らせないんだよな……。
「エゴ様、クーは私の弟子。あのような小者に負けたら私の恥。エゴ様の恥です」
「ムッ……」
「負けたら、換金だ。絶対に勝て!」
「ムゥ……」
ロイとエイジに脅されて、エゴ様はクーの手に握られた。
「決闘、自分が受けて立つ! 負けたら二度と自分に関わらないでください」
「いいだろう。お前が負けたら! 全員スライムだ!」
「ヨング様スライムだけは許して下さい!」
クーのかーちゃんの泣きそうな声が響く。
──『全員スライム』ってなんだよ?
まあいいや。
最悪の場合、【速歩】を唱えてやろう。
僕はクーを見守った。
決闘が始まった。
経験値では圧倒的にクーが不利。
しかし、クーはヨングの攻撃を上手く受け流している。
「短期間でここまで動けるなんて」
「クーには『見覚え能力』がありますから」
見事にロイの動きを再現している。
【怪力】とエゴ様の性能が重なって、クーはだんだんとヨングを追い詰めていく。
「冒険者になるんだ。邪魔するな!」
最後はヨングの斧を弾き飛ばして、決着はついた。
「くっそ、参った……」
クー、まだレベル1なのに。
このまま成長したら──末恐ろしい。
周囲は拍手喝采だ。
その中をヨングは逃げるように去って行く。
「よくやった」
ロイに頭を撫でられてクーは顔を綻ばせる。
「クー、お前は本当に冒険者になるんだね」
「かーちゃん、自分はユイトさんに付いて行きたいんだ!」
クーのかーちゃんが僕を見る。
「真名まで付けたんだからね。クーのこと、任せたよ」
「はい。クーはきっと強い冒険者になると思います」
こうして決闘騒ぎは終わった。
僕たちは、そのまま族長のところへ向かう。
族長は恰幅のいい、ヨングに似た老人だった。
綺麗に結い上げた髪に、長いあごひげ。それがピンク色。
……威厳が半分くらい消えている。
その横では、ヨングがクーを睨んでいた。
「裏切り者め! 本当ならお前はスライムだったんだぞ!」
族長が片手を上げ、怒るヨングを止める。
「話はヨングから聞いた。もう何も言わん。成人儀式に臨むがよい」
僕はクーを見る。
「スライムってなんなの?」
「族長の杖で、スライムにされてしまうんです」
「えっ……! 先にそういうの教えてよ!」
「ユイトさんなら大丈夫だと思って」
クーは無邪気に笑っている。
……天然なのか、計算なのか。
マジでクーはあなどれない。
案内してくれたのはヨングの弟で「ヨハン」と名乗った。
兄のヨングと違って、スマートで落ち着いた男だ。
「こちらです」
儀式の場所は大きなピラミッド型の石の建物。
「ここから魔族の国にも行けるはずなんです」
小声でクーが教えてくれる。
ピラミッドの中は石畳が敷き詰められ、その中央に大きな魔法陣が描かれている。
召喚された城の魔法陣とは違う。
真っ黒で、毒々しい。
「成人の儀式を始めよう。ここでは、クーの本性が露わとなるだろう」
「自分は師匠のような男性になるんです」
「心を込めて、魔王様に祈りなさい」
クーが魔法陣に向かう。
──ここで僕たちはピラミッドから外に出された。
「魔王の陣、不気味だったな」
「うん。本性が露わになるなんて、クーは大丈夫なのかな?」
ラスとロイも眉を寄せる。
「性格に、難あり」
「ああ、それは否めない……」
……2人とも、クーのことをよく分かってる。
やがてピラミッドからクーが出て来た。
「やったーー! 男性になりました!」
ピョンピョン飛び上がって喜んでいる。
でも。
僕とエイジは首を傾げた。
クーの見た目は、少し背が伸びただけだ。
「大人……だよね?」
「俺、知ってる。これは『ショタ』っていうんだ」
エイジのセリフに、クーは慌てて自分の全身を確認した。
僕よりかなり背が低い。
顔も、少女みたいに可愛い。
どう見ても、大人の男性には見えなかった。
クーは暗い顔で呟く。
「……せめてラスさんより大きくなりたかった」
「むっ! ショタになったの、そういうトコ!」
ラス、小柄なのを気にしてたんだ……。
「まあ、男性になれて良かったね」
随分と落ち込んでいるけど、クーの性格ならすぐに立ち直るだろう。
読んでいただいて、ありがとうございました。




