31 オウレリアン族の村
猫の街は、思ったより栄えていた。
「魔族の国の製品がここで取引されます。なので獣人商人の出入りが盛んです」
クーはそう言うと、僕の手を引っ張った。
「早く行きましょう。樹海の入り口はすぐそこです」
「ちょっと待って」
僕はフィルに、約束していた小金貨1枚を渡した。
するとフィルが、ニヤリと笑う。
「樹海に入るんだろう? 付き合うぞ」
「いいですけど。馬車はどうするんです?」
「収納バッグがある。幌馬車程度は入る」
収納バッグーーー!
欲しい!
「どこで手に入るんですか?」
「儂は王都の高級店で買った。これだと2千万ガルだった」
……高い。
王都にいた頃は高級店には行ったことがなかった。
きっと珍しい商品が、いっぱい並んでいたんだ。
「馬のアイオンは?」
「一時帰還だ」
フィルがアイオンの頭を撫でると、2頭とも透明の風船に包まれた。
次に、パチン! とフィルが指を鳴らすと風船ごとアイオンは消えてしまった。
「君らの荷物も馬車に積めて預かってやろう」
「助かります」
こうして僕たちは、6人メンバーのまま樹海へ入った。
◇
樹海の中は、針葉樹や広葉樹がびっしりと生い茂っていた。
コケの青臭い湿った香りが漂う、野鳥や小動物が暮らす自然の宝庫だ。
道なんてない。
僕たちは木々の間を抜け、木漏れ日の中をクーの案内で進んでいく。
「クーがいないと迷うな」
「ここは自分の庭みたいなものです」
クーは喋り続ける。
「ユイトさん、自分の母親は冒険者になるのを反対しています。なので、説得する時に味方になってくれますか?」
「いいよ」
「やっぱりユイトさんを選んでよかった。ありがとうございます!」
「クーはもうパーティーの仲間だから」
僕はそう答えた。
しばらく進むと、村に到着した。
そこは木々が伐採された広場になっている。
小さなログハウスが何軒も建っていた。
てっきりテント暮らしだと想像していた僕は、ちょっと拍子抜けする。
しかも、あちこちにスライムが転がっていた。
スライムは僕たちを見つけると素早く逃げていく。
「自分の家はこっちです」
足を速めながら、クーが言った。
「自分たちの祖先はスライムなんです」
「へ?」
「大昔、人間に恋をしたスライムを、魔王様が人型にしてくれたんです」
どこからかパクったみたいな話だ。
「オウレリアン族には魔族の血が流れています。だから親交があるんです」
「そっか」
……スライムの血?
そんなのが流れているんだ。さすが、異世界。
僕は村を見渡した。
何人かの村人が、遠目にこちらを見ている。
どうやら歓迎されていないみたいだ。
一軒の家の前で、クーが立ち止まった。
そして扉をドンドン叩く。
中から出てきたのは、クーによく似た、とても綺麗な中年の女性だった。
「クー……」
「ただいま、かーちゃん!」
「お前は! 家の金盗んで、よくも戻れたもんだ!」
「うわっ!」
クーは耳を掴まれ、そのまま家の中へ引きずり込まれた。
「揉めそうだな。水でも飲んで待つか」
「うん」
僕とエイジは転がっていた丸太に腰を下ろした。
他のみんなも水を補給しながら、クーが出てくるのを待つ。
すると――。
バーーーーン!
突然、家の扉が勢いよく開いた。
「ユイトって誰だい!」
クーのかーちゃんが、ものすごい剣幕で叫んだ。
「ぼ、僕です」
「あんたのファミリーに入るんだって? この子は許婚がいるんだよ」
「は?」
(……クー、何を言ったんだよ)
「命名までしてくれて、どうしてくれるんだ」
かーちゃんの剣幕に僕の胸はざわついた。
ザワザワザワ……
村人が集まって来て、静かだった村が急に騒がしくなってきた。
「唯斗、なんか雲行きが怪しいぞ」
そう言ったエイジの後ろに、逞しい大男が走って来るのが見えた。
その大男は近くまで来ると、エイジを突き飛ばし、僕を押しのけてクーの前に立つ。
「クー! 戻ったんだな。族長が呼んでいるぞ」
クーはその男に向かって叫んだ。
「お前の第三夫人なんて真っ平だ! 自分はユイトさんを選んだ。『クーシア』って真名を貰ったんだ!」
「なっ……ユイトって誰だ!」
「ぼ、僕です……」
(……真名ってなんだよ~?)
今の僕に分かるのは、クーが何かを隠したまま、僕をここまで連れて来たってことだ。
「ぶっ殺してやる!」
大男が僕を睨みつけ斧を振り上げる。
その腕をロイとエイジが素早く掴んだ。
「止めるんだ!」
「この野郎! 手を折るぞ?」
「うっ……!」
大男は渋々、腕を下ろした。
そして、クーのかーちゃんに顔を向ける。
「婚約を解消するなら違約金100万ガル払え!」
「ヨング様。そんな大金は払えません」
ヨングという大男に、クーが食い下がる。
「婚約なんて、無理やりかーちゃんに契約書を書かせたくせに。あんなのは無効だ」
「黙れ! 金が払えないならお前ら全員スライムにしてやる!」
エイジが僕の肩をポンッと叩いた。
「100万、払ってやれよ。……アイツ、気に入らない」
「しょうがないな」
魔族の国へ行くには、クーの案内が必要だ。
それに、このままじゃクーたち家族が危険だ。
「違約金を出すよ。クーを自由にしてやってほしい」
僕はブブたんから小金貨を1枚取り出した。
するとエイジが、それをひょいっと取り上げる。
「ほらよ」
エイジは小金貨をヨングに向かって投げつけた。小金貨はヨングの足元に落ちて地面に転がる。
……エイジ。
なんで、これ以上炎上させるんだよ……。
読んでいただいて、ありがとうございました。




