30 逃避行 / 閑話(ムー将軍)
この世界には、人族、獣人族、魔族の国がある。
大陸は地続きで、周囲を海が囲んでいる。
その海には無数の島が浮かび、飛行族や水生族が暮らしているらしい。
人族を代表する中心国がノクティルム王国。
他にも大小30か国ほどある。
人族と獣人国にはギルドがあり、情報網も繋がっている。
そして、魔族の国。
広大な樹海に囲まれた、謎だらけの国だ。
──ロイが知っているのは、だいたいこんなところだった。
「魔族の国には、簡単に入れてもらえるのかな?」
「まずは自分の村に行きましょう。オウレリアン族の村から魔族の国は近いです」
僕らが不安になる一方で、クーは意欲的だった。
「獣人国を抜けると樹海が広がります。その中に村があるんです」
「何日かかるの?」
「えっと、自分は3か月かけて、冒険者の街に来ました」
「3か月……」
かなり遠い。
でも、ここで時間を使っている余裕はない。
「すぐに準備を始めよう」
まずは馬車。
オウレリアン族の村まで片道となると片っ端から断られた。
そんな僕らに声を掛けて来る人がいた。
フィルという中高年の男性だ。
彼は召喚士で、今は幌馬車を走らせて生活しているという。
黒髪には白髪が混じり、眉毛に小さな傷跡があるイケオジだ。
肩にはタランチュラを乗せている。
こっそり鑑定。
Lv88。
スキルは【召喚】【強奪】【魔力供給】。
(強奪ってなんだよ?)
……強いのは間違いない。
「一日5000ガルでどうだ?」
馬車を引いてくれるのは2頭の馬、聖獣だ。
スタミナが抜群で、普通の馬の2倍は距離を稼げるとフィルは言った。
(もしかしたら移動中で歩数を稼げるかもしれない)
そう考えた僕はフィルにお願いしてみた。
「馬車の移動代とは別にお金を払うので、旅の間だけパーティーに入ってくれませんか?」
「ふむ。金は欲しいからな……全部まとめて100万ガルでどうだ?」
「いいですよ」
即決だった。
ところが、ギルドカードを見せると――。
「レベル【E】?! おいおい、冗談だろう?」
「本当です」
「長旅なら護衛を雇えばどうだ?」
「大丈夫です。迷惑はかけません」
フィルは、困った顔でしばらく思案したけど、最後には了承してくれた。
エイジは反対しない──多分フィルはいい人だ。
ギルドでフィルの〈タシオン〉入りを申請すると、受付のカリウスは鋭い目を向けたが黙って受け入れた。
調理器具や食材、スクロールなど必要物資を買い込む。
準備は完了。
全員で幌馬車に乗り込み、冒険者の街を出発した。
街道をしばらく進んだところで、エイジが察知した。
「見張られているな」
「どこ?」
「上。鳥が追ってくる」
僕は空を見上げる。
確かに、一羽の鳥が上空を旋回していた。
……ギルドの監視だろうか。
「気付かないフリをしようぜ」
「うん」
僕はラス達にも告げる。
「この旅は、誰に聞かれても『クーの帰省の付き添い』。それで通そう」
「了解」
こうして、僕たちの長い旅が始まった。
◇
残念ながら聖獣の歩行はブブたんにカウントされなかった。
旅の合間に、僕とクーはロイから剣術を習っていた。
見覚え能力が高いせいか、クーは教えをどんどん吸収していく。
エイジとラスは魔法について研究していた。
移動中、僕はフィルの隣に座り、この世界のことや馬の扱い方を教えてもらった。
道中、盗賊団には5回も襲われた。
でも、どれも問題なく撃退。
ただし、ブブたん光線とエイジの変身は使わなかった。
追跡者に僕たちの本当の戦力を知られたくないからだ。
まあ、ラスとロイとエゴ様だけで十分だったけど。
それ以外は、逃避行とは思えないほど穏やかな旅だった。
──上空の鳥は、そんな僕たちをずっと追い続けていた。
いくつもの町や村を通り、何度も野宿をして、――旅立ってから5週間。
僕たちは、ついに獣人国の端にある『猫の街』へ到着した。
ちなみに街の名前の由来は、野良猫が多いからだって。
幌馬車を降りると、
「ニャ~、ニャ~」
さっそくキジトラ猫が一匹、僕たちを出迎えてくれた。
母さんの愛猫ブブを思い出して、僕はちょっと切なくなった。
◇◆◇閑話 ムー将軍
部下からの報告書を読み、私は肩を落とした。
ユイト、エイジは冒険者になっていた。
他2名を含むエイリアンズPTの4人は、森林ダンジョンで行方不明。
レベル72。ギルドレベルは【C】。
サンドワーム討伐に向かい、全滅したと思われる。
「実力はあったのか。……残念だ」
だが、私の目を引いたのは、その下に書かれた一文だった。
──高額の借金を繰り返していた。PT資金源は不明な点が多い。
「怪しい金を使って、経験値稼ぎでもしていたのか?」
おそらく、実力者に牽引してもらっていたのだろう。
己に戦闘力がなければ、冒険者として生き残るのは難しい。
「もともと、期待は薄かった」
ユイトたちの死亡は、義彦たちには伝えられない。
今の彼らに知らせれば、士気が落ちる。
ただでさえ成長が遅れぎみだ。
これ以上、足を引っ張るわけにはいかない。
私は報告書を破り捨てた。
──ユイト、エイジ。
せめて、安らかに眠れ。
読んでいただいて、ありがとうございました。




