29 唯斗の決断
重苦しい空気の中、支部長の話は続いていた。
「近衛騎士団には、『エイリアンズのメンバーは行方不明。ダンジョン内で死亡したと思われる』と報告しておこう」
「僕たちは、これからどうすれば?」
「当分は活動停止だ」
「そんな!」
「君たちを守るためだ」
それ以上、話し合う余地はなく、僕たちは強引にすべてのギルドカードを取り上げられた。
「こんなのアリかよ!」
エイジが食ってかかったが、支部長は無視だ。
「君たちの新しい身分だ」
渡されたのは、【タシオン E】とあるPTカード。
残高は……10万ガル!?
さらに個人用の白カードも渡される。
僕は【冒険者Lv10 エル】。
エイジは【冒険者Lv10 ルイ】。
適当な名前が付けられている。
こっちも残高は10万ガル。
無関係なラスとロイまで巻き込まれた。
名前はそのままだったけど、冒険者Lv10、残高10万ガルに変更されていた。
ラスの借金3000万ガルと、僕らの借金1000万ガルは強制返済。
それに【上級ダンジョン通行書】まで取り上げられた。
「ここまでやる必要がありますか?」
「王国騎士団を甘く見ないで。受け入れないなら、ここで消すわよ?」
エバさんの容赦ない言葉に何も反論できない。
今の僕たちじゃ、この親子に逆らえない。
「君たちの死亡が近衛騎士団に認知されるまで、大人しく過ごすように!」
最後にギルド支部長に念を押され、僕たちは部屋を追い出された。
しかも、それで終わりでは無かった。
「待って!」
ギルドを出たところで、エバさんが呼び止める。
「二人の『貯金箱』『子犬』って、どんなスキルなの?」
正直に答えよう──嘘は見抜かれそうだ。
僕はブブたんを見せた。
「名前の通り、貯金箱です。小銭が無限に入るんです」
「俺は癒し役だ。『ワンワン』吠えて、パーティメンバーを回復する」
エバさんは疑うような顔をして、ロイとラスを見る。
「本当なの?」
「はい。事実です」
「貴方達は数千万ガル持っていたわね?」
「オレ、ドロップ率アップのスキル持ってる」
「魔石などは、ランキングアップを狙う連中に、高額で売りました」
ロイが堂々と嘘をついて、僕は心臓がバクバクだった。
「そう……まあいいわ」
SSクラスにとって、数千万ガルなんて大した金額じゃない。
それに〈エイリアンズ〉は、ランキングにも入らない【C】パーティーだ。
結局、それ以上は追及されなかった。
◇
エバさんが去った途端、全身から力が抜けた。
「はぁ……やっとまともに息が出来る」
「唯斗、これからどうする?」
「その前に……」
まずはラスたちに謝らなきゃ。
「こんなことに巻き込んで、ごめん」
「ユイトには感謝してる。謝らなくていい」
「私はこの先も奴隷のまま、お供します。解除はファミリー結成の時にお願いします」
事情を知っても、2人は僕についてきてくれると言った。
こんな状況ではファミリー結成どころじゃないと思うんだけど、僕は何て答えればいいか分からない。
次はクーシア……クーだ。
「君とはここでお別れだ」
「自分も同行します!」
「この先、どうなるか分からないんだよ?」
「正直に言います。ユイトさんは良い人ですし、お金持ちなので、そばに置いてほしいです」
……正直すぎる。
でも、嘘をつかれるより、ずっといい。
「それに、自分にはいい方法があります」
「え? どんな方法?」
「王国もギルドも関係ない場所へ行くんです」
「そんな場所あるの?」
「はい、魔族の国です! ダンジョンも、あると思います」
「魔族は人族との交流が浅い。危険です」
ロイが異を唱える。
「オウレリアン族は魔族と親交があるから、大丈夫ですよ」
「危険がないと言い切れますか?」
「ダンジョンだって危険です。でもユイトさんは潜ってますよね?」
「それは屁理屈です!」
「ストップ!」
言い争いになりそうなので、僕は2人を止めた。
(魔族の国か……)
──王国もギルドも関係ない場所。
そこなら僕らの逃避行先になるかもしれない。
「クー。魔族の国って、どんなところ?」
「魔王様が治める国です。行ったことが無いので、詳しくは知りません」
「そっか。少し考えさせて」
そう言って、この話をいったん終わらせた。
◇
木陰に座り、僕とエイジは頭の中を整理していた。
エイジは横で何度もため息をついている。
指名手配された理由は想像できた。
きっと、義彦たち5人だけでは手に負えないんだ。
高難易度ダンジョンを封印するには、戦力が足りない。
だから僕たちの力を調べて、使えると判断したら勇者パーティへ戻す。
たぶん、そんなところだろう。
でも、僕たちを追放した王女の元へ戻るなんて絶対に嫌だし、あの義彦が僕たちを素直に受け入れるとも思えない。
今回、ギルドは逃げ道を用意してくれた。
でも……。
「ギルドは、俺たちに強くなってほしくない。そうだろう?」
「うん。しかも王家側に付いたら殺す気だ」
ギルドは味方じゃない。
それに、僕たちには元の世界へ帰るという目標がある。
ギルドも王国も、敵に回すわけにはいかない。
そんなジレンマの中で、僕らは立ち止まっていた。
──どうすればいい?
ここは、僕の常識が通じない異世界だ。
力のある者が生き残り、権力を持つ者がルールを決める。
だったら、必要なんだ。
誰にも奪われない力が。
仲間も、自分も、大切なものを全部守れる強さが。
恐れて、逃げてばかりではダメなんだ。
「エイジ、僕たち最強を目指そう」
「魔族の国に行くんだな?」
「うん。行こう」
その瞬間、エイジは表情を崩して僕を抱きしめた。
……ずっと不安だったんだろうな。
僕が優柔不断で、迷ってばかりだから。
「決断するの、遅いんだよ」
「ごめん……」
僕もエイジの背を、ギュッと抱きしめた
異世界転移50日目。
僕はようやく、覚悟を決めた。
読んでいただいて、ありがとうございました。




