28 急展開
異世界生活50日目の昼下がり。気づけば9番目の月に入っていた。
僕たちは【ダンジョン脱出・スクロール】で冒険者の街へ戻っていた。
目的は奴隷商でロスの奴隷解除だ。
ギルドの前を通りかかった時だ、クーが僕の袖を引いた。
「あの……自分は今日、18歳の大人になりました」
ちょっと恥ずかしそうな顔、嘘では無さそうだ。
しかし見た目は変わらず、子どものままだ。
「そっか、おめでとう。お祝いに何かプレゼントするよ」
「ありがとうございます! 自分は……ユイトさんのパーティーに入りたいです」
僕は少し迷う。
「ポーターで構いません。傍に置いて下さい」
「ポーターなら別にいいじゃん」
エイジの一言で、クーを受け入れることになった。
お祝いに、中銀貨(1万ガル)を1枚渡すと、クーは飛び上がって喜んだ。
「今から大きく成長していくのか?」
エイジの質問にクーは「いいえ」と答える。
「完全な大人になるには族長の承認が必要なんです」
……なんとも面倒な一族だ。
「男性になるんだよね」
「はい。ユイトさん、大人っぽい名前を付けてください!」
そう頼まれて、僕は深く考えずに答えた。
「クー……クーシアはどう?」
「クーシア。いい名前ですね。有難うございます!」
こうしてクーはクーシアになり、成長の第一段階を終えた。
後はクーが族長に頼めば終わり。
──簡単なことだと、僕は思った。
クーシアがエイリアンズに加入した。
受付のカリウスさんに、オークションに出していた【黄金熊の肝】が300万で売れたと教えられた。
そのあと、ラスがまたギルドに3000万ガルを借りたいと言い出した。
「返済したばかりなのに、また借りるのですか?」
カリウスさんは怪しんでいる。
「カジノで倍にする。必ず返す」
「ふん。それなら構いません」
カリウスさんは【中金貨】3枚と借入申込書をラスへ渡した。
……ラスらしくない。
「カジノなんて……エイジの入れ知恵だな」
「ラスが借金5000万返すって言うからさ。本当にカジノへ行くわけじゃない」
僕の顔が曇ったのを見て、エイジは慌てた。
「えーっと、悪いことは全部、俺の責任ってことで」
「別に悪いことじゃないよ」
僕はラスから預かった中金貨3枚を、6枚に増やす。
「3枚は返すよ。ロイも十分働いてくれたからね」
ラスは、ただ頷いた。
「これで貸し借りは終わりだな」
エイジがそう言った、まさにその時だった。
「エイリアンズの皆さん。ギルド支部長がお呼びです。2階へどうぞ」
階段の上から女性職員さんが声をかけてきた。
同時に、エイジと僕は顔を見合わせる。
「怪しまれたかな?」
「借金ばっかりしてるから。そりゃ怪しまれるよ」
……ヤバい。
僕は必死に言い訳を考えながら、2階へ続く階段を上がっていった。
◇
ギルド支部長の部屋の扉が開いた瞬間、僕たちは息を呑んだ。
そこにいたのは2人。
顔に傷のある、いかつい初老の男。
そして──もう1人。
真っ赤な髪をした綺麗な女性だ。
この部屋の空気を支配する、とんでもない威圧感。
冷や汗が流れる。
(終わった……)
言い訳なんて通じない。
そんな空気だった。
初老の男が僕たちを値踏みするように眺める。
「君達がエイリアンズか。全員若いな」
「ぼ、僕がリーダーのユイトです。どのような御用でしょうか?」
「ユイトとエイジ。2名は指名手配されている」
「……ただ借金しただけですが、そんなに悪い事ですか?」
「借金?」
男はきょとんとした顔をした。
(あれ? 借金のことじゃない?)
「まずは自己紹介をしよう。私がこの街のギルド支部長ゴーグだ。そして、娘のエバだ」
支部長に紹介されたエバさんは、SSクラス冒険者。
異名は『凶悪の魔女』。
「君たちを探しているのは、ノクティルム王国の近衛騎士団だ」
「呼んだのは、俺たちを引き渡すため?」
エイジが尋ねる。
「いや。君たちは王家に召喚された異世界人だな?」
「そうです……勝手にこの世界へ呼ばれて、追放されました」
「では聞こう。城へ戻りたいか?」
「いいえ。今のままでいいです」
「なら──」
「待って」
支部長の話をエバさんが遮った。
「それなら、君たちには死んでもらうわ」
「えっ!?」
「ああ、勘違いしないで。本当に殺すわけじゃない。あくまで表向きの話よ」
「……表向き?」
「だけど、もし王家に協力するなら、ここで消えてもらうつもりよ」
「な、なぜですか?」
ゾッとした。
──選択を間違えていたら、殺されていた?
「異世界人の召喚を、ラリア王女は『軍事強化』と説明した。でも実際は君たちを利用して高難易度ダンジョンを封印するつもりよね?」
「最初に……そう説明されました」
「そんなこと、冒険者として見過ごせるはずがない」
不意に、義彦たちの顔が心に浮かんだ。
「城に残っている異世界人はどうなるんですか?」
「場合によっては消す」
迷いのない声。
本気なんだ。
ドクドクと胸が波打つ……義彦たちの命だけは助けてほしい。
「僕たちは王家には協力しません」
「賢明ね」
エバさんの目には非情な冷たさがあった。
読んでいただいて、ありがとうございました。




