3 エイジとブブたん
地面に広がった破片が消えていく、そして何かが残った。
小銅貨だ!
いっぱい転がっている。
「な、なんで!?」
僕は慌てて拾い集めた。
「どういう仕組みなんだよぉぉぉ!」
叫びながらも手は止まらない。
お金はポケットに押し込んだ。
今の僕には、大切な命綱だ。
雑貨屋を見つけて、コップと水筒、皮の鞄が買えた。
出費は小銀貨1枚、1000ガルだ。
少年から水も買うことができた。
恐る恐る飲んでみる。
無味無臭……たぶん安全。
目の前で水売りの少年が立ち上がったので、なんとなく声を掛ける。
「もう閉店なの?」
「これは暇つぶし。今からダンジョン」
「冒険者なんだ! ねえ、高難易度ダンジョンってどれくらいあるの?」
「Sクラスだけで十数はある」
「マジで!?」
それ全部攻略するのに何年かかるんだよ。
しかも高難易度ダンジョンなんて、きっと命がけだ。
義彦たち、大丈夫なんだろうか。
心配したけど、心のどこかで……
僕と藤崎君。
ハズレスキルで、むしろ助かったのかもしれない。
そんな情けないことを、考えてしまった。
◇
ブタの貯金箱をもう一度召喚。
鞄に入れて、日が暮れるまでぼんやり、ただ歩いていた。
ゲームの中みたいに【冒険者ギルド】もあった。
改めて実感。
――本当に異世界なんだ。
通りを歩く人たちの中には獣の耳や尻尾を持つ獣人までいる。
ジッと見ていると睨まれた。
怖い。
暗くなる前に宿を探そう。安くて清潔な宿を。
そう思って歩いていると――
「キャンキャン!」
後ろから犬の鳴き声が聞こえた。
振り返ると、灰色の子犬が全力で走って来る。
「あれ……藤崎君?」
僕が手を広げると、子犬は迷わず飛び込んできた。
「わっ!」
胸に収まった小さな体は温かい。
息を切らしながら僕にしがみついている。
あの藤崎君が、今は僕の腕の中にいる。
……不思議な気分だった。
「大丈夫?」
僕は慌てて水を差し出した。
ペチャペチャと水を舐める姿が、反則級に可愛い。
水を飲み終わると子犬の体がふわりと光る。
次の瞬間、藤崎君の姿に戻っていた。
良かった! 裸じゃない!
衣服を着ている。
貯金箱といい、ホントどういう仕組みなんだ?
まあいいけど。
「やっと見つけた……」
藤崎君はニッと笑う。
「僕を追いかけて来たの?」
近くで見ると、本当に綺麗な顔なんだよ。
同じ男子なのに、見惚れてしまう。
「匂いを追ってね。30分で戻るんだ。クールタイムもそれくらい」
「30分は犬のまま?」
「ああ。クソスキルだよ。小犬なんて最低だ」
30分しか変身できないという理由で、彼も追放されたらしい。
僕も追放されてからの出来事を話した。
「お金が手に入るスキル!? 凄いじゃん!」
「でも小銅貨だけだよ」
「それでも羨ましいよ。犬よりずっといい」
そんなことない。
犬の藤崎君、すごく可愛いし。
……さすがに言えないけど。
「とりあえず宿を探そう。藤崎君が一緒だと安心する」
「俺は番犬にもならないけど? 寄生していいのか?」
「クラスメイトだもん。いいに決まってる」
一人ぼっちじゃなくてよかった。
少し歩くと、藤崎君が足を止める。
一泊1500ガル、朝夕食付きの宿。
「ここ、清潔な匂いがする」
「分かるの?」
「嗅覚が鋭くなったみたいなんだ」
「そっか」
僕たちはその宿に入り、二人部屋を取った。
朝夕食事付きだ。
早速、ブタの貯金箱を取り出してひっくり返す。
ジャラジャラジャラ!
大量の小銅貨が床に落ちた。
二人で数えると3275枚! 明日の宿代にはなる。
藤崎君は首を傾げた。
「貯金箱の容量以上のお金が入ってないか?」
「魔法の貯金箱なので底なしなのかもね。3275、これ、歩き回った歩数くらいじゃないかな」
「じゃあ試してみよう」
藤崎君に言われ、僕は部屋の中を歩いた──25歩。
すると。
中には25枚の小銅貨が入っていた。
「やっぱりだ。一歩で小銅貨が1枚手に入る」
「面白いな、へへっ」
彼の笑顔に胸が弾む。
学校では遠い存在だったのに、今は同じ部屋で話しているなんて。
「俺の歩数も、加えられたらいいのに」
「冒険者になって、パーティー組んだらどうかな」
「いいね、試してみよう」
僕は貯金箱に「ブブたん」と名前を付けた。
母さんの愛猫の名前だ。
「じゃあ俺のこと、エイジって呼んでよ」
「う、うん」
「よろしく、唯斗」
「よろしく、エイジ」
僕達は拳を軽くぶつけ合った。
追放された時の絶望は、かなり薄れていた。
エイジがいる。
お金も増える。
明日にはもっと色々分かるはずだ。
異世界生活を二人で乗り切るんだ。
――ああ、お金って本当にありがたい。
ありがとう、ブブたん。
読んでいただいて、ありがとうございました。




