2 追放1日目
老人は顎に手を当てた。
「貯金箱同様、これも奇妙なスキルですな」
義彦が腹を抱えて笑う。
「ぎゃははは! 藤崎、もしかしてお前、犬になるのかよ! やってみろって!」
ラリア王女も興味津々だ。
「犬を召喚するのでしょうか? 見せていただけますか?」
藤崎君は平然と唱えた。
「犬!」
その瞬間。
彼の身体が光に包まれる。
そして現れたのは――灰色の小さな子犬だった。
ふわふわの毛並み。
つぶらな瞳。
短い尻尾。
「クゥ……ン」
──か、かわいい!
ものすごく可愛かった。
「きゃああああ!」
女子たちが大興奮する。
ラリア王女も例外じゃない。
「なんて愛らしい!」
王女が手を伸ばす。
すると子犬になった藤崎君の身体がふわりと宙に浮いて、そのまま真っ直ぐ王女の腕の中へ。
「クゥン……」
完全にペットだ。
「この子はお城で飼いましょう」
藤崎君――いや藤崎犬は抵抗もできず、王女に抱きしめられた。
飼われるなんて、気の毒すぎる。
彼こそが最強勇者に選ばれそうなのに。
子犬なんて……僕と同じ、役立たずスキルじゃないか。
藤崎犬を抱いたまま、ラリア王女は従者たちへ命じた。
「では勇者様方をお部屋へご案内なさい」
クラスメイト達は豪華な城の奥へ消えていった。
残されたのは僕一人。
嫌な予感がした。
兵士が冷たい目で僕を見下ろした。
「お前は不要だ」
「……え?」
「城から出て行け」
渡されたのは、銀貨が7枚だけ。
やっぱりな。そんな予感したんだよ。
「どこに行けばいいですか? 僕も元の世界に帰れるんですよね?」
「知るか!」
勇者として召喚されたはずなのに。
僕だけが、背中を押されて追い出された。
重たい城門が閉まる。
ガタン――という音が大きく響いた。
悔しくて涙が滲む。
「くっそ!」
こうして僕は異世界で、
役立たずの烙印を押され、たった一人でさまようことになったのだった。
◆◇◆
城の前で、仕方なく僕は重い腰を上げた。
怖い。
どうしようもなく不安だった。
(母さん……帰りたいよ!)
(僕はどうなるんだろう)
ダメだ!
弱気になったら野垂れ死ぬ。
涙を拭いて、僕は必死に頭を働かせた。
「お金だ……。とにかくお金がないと生きていけない」
周囲を見渡す。
広場からは四方向に道が伸びていた。
その中で、人通りが多そうな通りへ目を向ける。
「とりあえず、あっちだ」
僕は重い足を引きずるように歩き出した。
ここも夏なんだろう、暑い。すぐに喉が渇いた。
「コンビニは……あるわけないよなぁ」
異世界だもんな。
その辺の水を飲む勇気はない。
こんな世界で病気になったら終わりだ。死ぬ。
僕は通りすがりの中年男性に声を掛けた。
「すみません。きれいな水ってどこで買えますか?」
「あそこの魔法使いから買うといい。安いぞ」
そこにはローブを着た、僕より若く見える少年が座っていた。
髪は染めたみたいに青色で、瞳は金色。
凄く神秘的だ。
僕が近づくと、少年は面倒そうに言った。
「水一杯、1ガル」
お金の単位はガルなのか。
僕はポケットから小銀貨を出して、差し出した。
すると少年は眉をひそめる。
「小銅貨出せ。小銀貨なら樽でも持って来い」
「樽? ……えっと、入れ物は持ってないんだけど」
「買って来い」
金色の眼で睨まれた。
僕はコップを求めて店を見て回った。
しばらく観察しているうちに、この世界のお金の価値がなんとなく分かってくる。
小銅貨1枚=1ガル。日本円で1円くらい。
中銅貨は1枚=10ガルで、大銅貨1枚=100ガルだ。
小銀貨1枚=1000ガル。
「ケチ……たったの7000ガルしかくれなかったのか」
みんな今頃どうしているんだろう。
豪華な部屋でご馳走でも食べてるのかな。
僕だけ異世界ホームレスだなんて。
はぁ……。
ため息をついたとき、不意に思い出した。
「そうだ。スキル」
義彦に壊されたけど、また使えるかもしれない。
僕は小声で呟いた。
「貯金箱」
ぽんっ!
両手の上に、ピンク色のブタの貯金箱が現れた。
「これを量産して売れば生活できるんじゃ……!」
期待に胸を膨らませる。
しかし。
「貯金箱! 貯金箱! 貯金箱!」
何度叫んでも、もう出ない。
1個だけだ。
「んー、親切な人がお金を入れてくれるとか?」
地面に置いてみた。
座り込んで待ったが、誰もお金なんか入れてくれない。
ジロジロ見られて、惨めな気分になっただけだ。
「……なんなんだよ、このスキル!」
ブタを地面へ叩きつけた。
パリンッ!
乾いた音とともに貯金箱は砕け散った。
読んでいただいて、ありがとうございました。




